第767話 判明した勇者の秘密
「こ、これは……」
「私達……助かった?」
「二人とも、無事で良かった!!」
「心配しましたよ!!」
「「クゥ〜ンッ……」」
レイナ達は二人の元に駆けつけ、全員が彼女達の安全を確認すると安堵する。レイナは嬉しさのあまりに二人を抱き寄せると、どちらも照れくさそうな表情を浮かべた。
「良かった、二人とも……本当に無事でよかったよ」
「うぷっ……私にも負けず劣らずのぼりゅーむ」
「は、離せ……胸を押し付けるな!!吸い上げるぞ!!」
「な、何を!?」
「…………」
照れるチイとネコミンを抱き寄せるレイナの姿を見てカレハは不安げな表情を浮かべ、状況的には仕方なかったが、彼女が解析と文字変換の能力を使ってしまった。
別に今までもレイナが能力を扱う事はあったが、今回の場合は絶対にしてはならない状況で能力を使ってしまったようにカレハは感じた。彼女は周囲を見渡し、警戒を行う。
(敵は何処へ消えた……本当に引き下がったのか?)
ここには影魔法を発動させた存在が隠れていると思ったカレハではあったが、肝心の敵の姿が見当たらない。事前にレイナの地図製作や感知系の能力で周囲に敵は存在しない事は確認しているが、それでもカレハは不安を隠せない。
(今のを見られていたらまずい……勇者殿の能力の秘密を完全に知られてしまったかもしれん。それだけは避けねばならんが……)
カレハは先ほどのレイナの行動が敵に見られているのではないかと不安を抱き、もしも見られていた場合は敵はレイナの能力に勘付く可能性があった。
(……本当に消えたのか?)
周囲を忙しなくカレハは見渡すが、敵らしき姿は見えない。彼女も特別な瞳を宿しているが、確かにこの場には敵の姿は存在しないはずだった。自分の考え過ぎならばいいと考えながらカレハは安心しようとした時、ここで不意に彼女は視界の端で何かを捉える。
一瞬だけだがカレハは空間が歪んだように感じられ、反射的にカレハは芭蕉扇を振りかざすと、突風を放つ。森の戦士の族長である彼女の勘は鋭く、一瞬の迷いもなく攻撃を行う。
「そこかっ!!」
『ぐっ!?』
「な、何だと!?」
「あれは……まさか!?」
攻撃を発動した瞬間、強烈な風の刃が空間の歪みへと襲い掛かり、何者かの声が響く。全員が驚いて振り返ると、そこには先ほどまではいなかったはずの少年が立っていた。
「ば、馬鹿な!?何処から現れた!?」
「気を付けろ、皆!!奴が影魔法の使い手だ!!」
「……私達に呪いをかけた張本人」
少年の姿を見るとチイとネコミンは自分達に呪詛を施した相手だと語り、その言葉を聞いて全員が戦闘体勢に入った。特にレイナは二人の言葉を聞いた瞬間にエクスカリバーを引き抜き、少年に構える。
「……まさか、気づかれるとは思いませんでしたよ。流石は腐っても森の民の統率者……老いても尚、勘の鋭さは衰えませんか」
「やかましいわい!!貴様のような小僧に舐められるほど、年老いてはおらんわ!!」
「ですが、僕の目的は達成できました……勇者、貴方の能力の秘密もね」
「何だと……!?」
レイナは少年の言葉を聞いて背筋が凍り付き、今までも魔王軍に自分の能力がただの解析の能力だけではない事は既に知られているはずである。しかし、具体的にレイナが能力を扱う場面を見られた事はない。
正確に言えば今までに倒してきた魔王軍幹部はレイナが特殊な能力を所持している事は知っていた。だが、具体的にレイナがどのような動作を行えば能力を発揮できるのかは知らないはずだった。その秘密を知った者もいたかもしれないが、少なくとも復活した剣の魔王の配下には知られていないはずである。
「貴方の持つ解析の能力、そして帝国から得た情報、指を扱う動作……これで全ての秘密が判明しました。貴方の力は解析で得た情報を改竄する能力を持っている……違いますか?」
「なっ……」
「どうやら図星の様ですね……苦労して帝国の勇者から情報を得た甲斐がありました」
「何じゃと!?それはどういう意味じゃ!!」
帝国の勇者という単語を聞いてはカレハも黙ってはいられず、一方でレイナの方も文字変換の秘密を知られている事に動揺を隠せない。
集めた情報を繋ぎ合わせて自分の能力の秘密を見抜いた少年に対し、今までにないほど危機感を抱く。ここで少年を取り逃せば繰り返しの付かない事態に陥る、そう判断したレイナはエクスカリバーを構える。
「お前……何者だ!?」
「……名前なんて意味がありませんよ、どうせ私は只の魂の破片。この身体が朽ちようと関係ありませんからね」
「何だと……!?」
「レイナ殿、気を付けろ!!こいつは理由は知らんが、完全に気配と魔力を立つ能力を持っておる!!」
カレハの言葉を聞いてレイナは確かに少年が先ほどまで姿を完璧に隠蔽していた事を思い出す。レイナの地図製作や感知系の能力にも発動しなかったのは異常であり、何らかの方法で姿を消していた事を突き止めなければならなかった。
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