第765話 ギガンの恐怖

但し、この熱吸収の能力も決して無敵ではなく、実際に始祖の魔王が憑依した雷龍との戦闘の際、闇属性の魔力が混じった「黒雷」に関しては防ぐ事は出来なかった。普通の炎ならばレイナには通用しないが、闇属性などが混じった攻撃は防ぐ事は出来ない。


今回のギガンの場合は魔石の力を利用して甲冑を発熱させているだけに過ぎず、その場合はレイナには通用しない。仮に闇属性と火属性を組み合わせた「黒炎」などは流石にレイナでも防ぎきれないだろうが、生憎とただの高熱ならばレイナには通用しなかった。



「ギガン、とか言われてたっけ?お前なんか、全然怖くない」

『このっ……図に乗るな、ガキがぁっ!!』

「ふんっ!!」

『うおっ!?』



正面から突っ込んできたギガンに対してレイナは逃げずにデュランダルを構えると、逆に大剣で弾き返す。圧倒的な膂力を誇るはずのギガンをレイナは抑え込み、それどころか逆に押し返す。



「うおおおおっ!!」

『ば、馬鹿なっ……これほどの力、どうして!?』



レイナに押し返されているという事実にギガンは理解が追いつかず、自分が力負けしているという事実に動揺を隠せない。




――現在のレイナは始祖の魔王を倒した時よりもレベルが上昇しており、更には「攻撃力9倍増」の効果を持つフラガラッハを装備していた。そのお陰で彼の腕力はこの世界の中でも最も高く、巨人族すらも圧倒する程の力を持つ。




ギガンは自分以上の力を持つ存在と戦った事など一度もなく、あの剣の魔王と呼ばれたバッシュすらも腕力ならばギガンに分があるはずだった。しかし、目の前に自分を上回る膂力を誇る存在と出会い、信じられない気持ちを抱く。



(馬鹿な……この男は、魔王すらも上回る力を持つのか……!?)



剣の魔王すらも倒すという覚悟を抱いていたギガンであったが、自分をも上回る力を誇る相手と戦ったのは初めてであり、途端に戦意が薄れてしまう。ギガンは初めて自分よりも力が大きい存在と相対し、恐怖を浮かぶ。


自分の腕力だけを頼りにして生きてきたギガンにとっては腕力こそが全てであり、その自分の腕力を上回る存在に相対した瞬間、彼はこれまでにない恐怖を抱く。その恐怖が彼の中に宿る闇属性の魔力と反応し、彼は絶叫した。



『馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なっ……嫌だ、嫌だぁアアアアッ!!』

「くっ!?」

「な、何だ!?」

「これは……まさか、暴走!?」



正気を失ったようにギガンは全身から闇属性の魔力を噴き出すと、それを見たレイナは危険を察して距離を取る。ギガンは深い絶望に落ちた瞬間、まるで彼の絶望に反応するように大量の闇属性の魔力が噴き出す。



『チガウ、チガウ、チガウ……オレガ、サイキョウダ!!マケルハズガナイ、ダレニモ……ヤツニモ、オマエニモォオオオッ!!』

「くっ!?」

「完全に正気を失ってますね……でも、これで分かりましたよ!!その化物の秘密がっ!!」

「秘密!?どういう事だ!?」



リリスはギガンの全身から噴き出す闇属性の魔力を確認し、これまでのギガンの行動を振り返り、どうして甲冑や武器が異様なまでに過熱しているのに本体は平気なのかを告げる。



「こいつは全身に闇属性の魔力を覆い込む事で高熱の影響を受けなかったんです!!つまり、闇属性の魔力をバリアのように体に張ってたんです!!」

「ば、ばりあ?」

「要するに魔力を膜の様に纏わせて攻撃の影響を受けないようにしてたんですよ!!だからそいつに攻撃を通すには聖属性の魔法が一番です!!普通の武器で攻撃しても通用しませんよ!!」

「そういう事か……やっぱり、死霊人形を倒すにはこいつが一番か」



ギガンの肉体の秘密が解明され、彼を倒すには聖属性の魔力を宿る攻撃しかない。そして聖剣の中で最も聖属性の魔力を宿すといえば「エクスカリバー」が一番だった。


レイナは腰に装着した鞄に手を伸ばし、エクスカリバーを引き抜く。この時にデュランダルは地面に下すと、フラガラッハとエクスカリバーの二刀流で向かい合う。一方でギガンの方は全身から闇属性の魔力を放出しながら最後の攻撃を仕掛けてきた。



『ユウシャァアアアッ!!』

「――終わりだっ!!」



暴走したギガンは考えも無しにレイナの元へと突っ込み、その行動に対してレイナはフラガラッハとエクスカリバーの刃を重ね合わせると、聖属性の魔力を纏わせて迎撃する。




――勝負は一瞬で終わり、十字の形をした光の衝撃波がギガンの身体を飲み込むと、闇属性の魔力が掻き消されてギガンの巨体が地面へと沈む。




レイナは倒れ込んだギガンに視線を向け、黙って刃を鞘に戻す。ギガンの肉体は闇属性の魔力が消えた瞬間に崩れ去り、灰と化していく。その様子を見下ろしたレイナは黙って呟く。



「……お前、もしかして剣を習った事がなかったの?」



最後の最後までギガンの動作は剣士と呼べるほどの洗練された動きではなく、もしもギガンが腕力だけに頼らず、ちゃんとした剣技を身に付けていればこうも容易く倒される事はなかっただろう。


自分の腕力に自信を持ちすぎたが故にギガンは剣技を身に付けようとせず、それこそが彼が剣の魔王や勇者に勝てなかった理由だろう。だが、その事実を知る前に本人は消えてしまった――

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