第764話 魔王よりも……

『グギィイイイイッ!!』

「うわぁっ!?」

「ぎゃああっ!?」

「な、なんて速さ……がはぁっ!?」



力任せにドラゴンスレイヤーを振り回しながらギガンは突進すると、次々と騎士や戦士達を薙ぎ払う。その動作は最早剣技とは程遠く、無茶苦茶に振り回しているだけに過ぎない。


しかし、圧倒的な力と速度の前では技など必要とはせず、聖剣にも匹敵すると呼ばれるドラゴンスレイヤーはあらゆる物を切断し、どんな障害物であろうと構わずに切り裂く。



『死ねぇっ!!人間どもがぁっと!!』

「ちぃっ……調子に乗るな!!」

「はあああっ!!」

「ぬんっ!!」



リル、ティナ、リュコの3人はギガンの元へ向かい、戦技を発動させて止めようとした。だが、それに対してギガンはドラゴンスレイヤーを横薙ぎに振り払い、ケモノ王国の中でもトップクラスの実力を持つはずの3人を軽々と吹き飛ばす。



『ギィアアアッ!!』

「ぐはっ!?」

「きゃんっ!?」

「ぐふぅっ!?」

「ちょ、大丈夫ですか!?」

「くそ、女王陛下を守れ!!」

「俺達も行くぞ!!」



3人が吹き飛ばされる光景を見て他の者達も黙って見てはいられず、勝ち目がない事を理解しながらもギガンの元へ向かう。恐らくは魔王軍幹部のナナシをも上回る膂力を持つギガンに無策で突っ込むのは無謀過ぎた。



「くっ……リリス、何か良い手はないのか!?」

「そういわれても私も手持ちの道具で使えそうな物なんて……あっ」

「何かあるのか!?」

「そういえばまだ開発途中の奴がありますね。成功するか分かりませんけど、使ってみます?」



リリスは思い出したように自分の荷物から「拳銃」の様な道具を取り出し、外見はリボルバー式のマグナムに近い。この拳銃は魔導大砲を作り出した際に一緒に作り出した代物であるが、まだ開発途中である。


この世界には銃器の類は存在せず、そもそも弾丸の製造に必要な「火薬」すら碌に存在しない。だが、リリスは火薬の代わりに火属性の魔石の粉末を利用し、更に彼女なりに改造を施した銃型の魔道具「魔銃」を取り出す。



「成功するかどうか分かりませんけど、これを命中の技能を持つ人に使わせてください」

「命中の技能……生憎と私は持っていない」

「も、申し訳ありません……」

「誰か、命中の技能は持ってないのか!?」



魔銃を取り出したリリスは使用するのならば「命中」の技能を持つ人間が一番だと告げるが、生憎とこの場に存在する者の中で命中という稀有な技能を習得している人間はいなかった。


製作者のリリスも命中の技能はまだ覚えておらず、もたもたしている間にもギガンが迫りくる。彼は自分を追い詰めたリルに視線を向け、彼女に大剣を向ける。



『死ねぇっ!!この獣女がぁっ!!』

「くっ……!?」

「リルさん!?」

「いかん、誰か止めろぉおおおっ!!」



先ほど吹き飛ばされた時にまだ体勢が崩れていたリルの元にギガンはドラゴンスレイヤーを振りかざし、慌てて他の者が止めようとした瞬間、強烈な衝撃波が二人の間を横切った。



「させるかっ!!」

『何ぃっ!?』

「レイナ君!?」



リルの前にデュランダルを構えたレイナが割り込むと、ドラゴンスレイヤーを手にしたギガンと対峙する。マグマゴーレムの相手をしていたレイナが戻ってきた事に驚くが、レイナは既に全てのマグマゴーレムの核を破壊し、ギガンの凶行を止める。



「だあっ!!」

『ぐぅっ……おのれ、小娘がぁっ!!』



デュランダルとドラゴンスレイヤーの刃が激突し、激しい金属音が鳴り響く。ギガンは体内に仕込んだ火属性の魔石を利用して再び全身を発熱させ、ドラゴンスレイヤーにも熱が帯びる。


聖剣とはいえ、マグマと同程度の高熱を放つドラゴンスレイヤーと触れ合えばデュランダルであろうと過熱するのは免れない。実際にレイナの手元にも熱が伝わり、普通の人間ならば火傷してもおかしくはない熱が襲い掛かった。



『どうだぁっ!!このまま焼け死ぬか、それとも斬られて死ぬか……選べっ!!』

「どっちも……やだに決まってるだろ!!」

『ぐふぅっ!?』

「け、蹴り飛ばした!?」



鍔迫り合いの状態からレイナはギガンに対して蹴りを食らわせると、巨体を後方へ押し返す。その光景に誰もが唖然とするが、レイナの方は蹴りつけた際に靴が燃えてしまった事に気付き、すぐに脱ぎ捨てる。



「あ〜あ、お気に入りの靴だったのに……」

『き、貴様……何をした!?』



事も有ろうに自分を蹴り飛ばしたレイナにギガンは信じられない表情を浮かべ、いかに靴越しであろうとマグマと同程度の熱を放つ金属に蹴りつければ火傷どこではすまない。


しかし、何故か攻撃を仕掛けたレイナの肉体には傷一つなく、靴が燃えた時も火傷を負う様子すらない。そんな彼女に対してギガンは戦慄すると、レイナは淡々と答えた。



「熱吸収の能力があるから熱は効かないよ」

『ば、馬鹿な!?』



かつてレイナは熱吸収の能力を習得し、そのお陰で高熱を帯びた攻撃であろうと無効化する事が出来た。この熱吸収の能力のお陰でマグマと同程度の熱を帯びた金属に触れようとレイナの肉体は影響は受け付けない。




※今日だけ1話です

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