第763話 ギガンの中身
「まさか……!?」
『アガァアアアッ!?』
「なっ!?おい、様子がおかしいぞ!!離れた方がいいんじゃないのか!?」
リルは生身の肉体を突き刺した感触が手元へと広がり、リリスの予想ではギガンの正体は「リビングアーマー」のような存在で甲冑の中身は存在しないかと思われたが、確かに肉体は存在した。
ギガンの正体は死霊人形が甲冑を身に付けた存在だという事が判明するが、ここで疑問なのはマグマ級の熱を誇る甲冑を身に付けて本体に影響がないはずがない。いかに死霊人形と言えども肉体が燃えれば活動は出来なくなる。
『アァアアアアッ……!?』
「な、何だ!?何が起きてるんだ!?」
「リル様、御下がりください!!」
「これはいったい……どうなってるんだ!?」
妖刀が突き刺された瞬間にギガンは正気を失ったかの様に叫び声をあげ、全身から黒色の魔力を噴き出す。それを見たリルは嫌な予感を覚えてティナと共に下がると、やがてギガンは目元に突き刺さった妖刀を引き抜く。
『ガアアッ!!』
「よ、妖刀を……」
「くそっ、仕留めきれなかったか……!!」
妖刀を引き抜いたギガンは膝を崩し、忌々し気に妖刀を見つめた。かつては主人と仰いでいた剣の魔王が手にした武器だが、ギガンからすれば忌まわしい武器である。
まだギガンが剣の魔王に仕える前の頃、とある盗賊の頭を務めていたギガンの元に当時はまだ剣の魔王と呼ばれる前のバッシュが現れた。バッシュとギガンは対決し、そしてバッシュに敗れたギガンは彼に服従を誓う。
だが、バッシュにギガンが忠誠を誓ったのは決して彼の器に惚れ込んだわけではなく、いつの日か彼を越えるためにギガンはバッシュの傍に仕え続けた。彼の傍にいればバッシュの強さの秘密が分かると思っていたが、結局は二人とも勇者に討ち取られてしまう。
妖刀ムラマサは当時のバッシュが愛用していた妖刀であり、この妖刀を所持したバッシュによってギガンは敗れている。だからこそ妖刀を手にしたギガンは忌まわしい思い出を思い出し、破壊しようと刃を掴む。
『グゥウウウッ!!』
「まさか、へし折るつもりか!?」
「妖刀を力ずくで壊すなんて出来るはずが……」
刃を握りしめたギガンは唸り声を上げると、妖刀はまるで自身を守るために能力を発動させ、掌越しにギガンの魔力を吸い上げる。死霊人形は闇属性の魔力で活動しているため、仮にその魔力を奪われれば浄化された時のように魂は現世に維持できずに消えてしまう。
妖刀がギガンの魔力を完全に吸収すれば死霊人形であろうと関係なく消えてしまう。しかし、忌まわしき過去を払拭させるためにギガンは渾身の力を込めて妖刀の刃を砕く。
『ガァアアアアッ!!』
「ば、馬鹿なっ!?」
「妖刀が……壊れた!?」
「くっ……!!」
ギガンは遂に妖刀の刃を腕力だけで粉々に砕くと、全身から闇属性の魔力を噴き出し、改めてリル達と向かい合う。
『ミナ、ゴロシだぁっ……貴様等、全員殺してやるぅっ!!』
「な、何て奴だ……」
「怯むな!!奴は弱っている、もう少しで倒せるはずだ!!」
「そ、そうだ!!諦めるな!!」
妖刀を破壊した事で落ち着いたのかギガンの口調が元に戻るが、それを見ていた白狼騎士団と森の戦士達は武器を構えなおす。ここまでの戦闘でギガンも相当な魔力を消耗しており、全身から発していた高熱も消えていた。
砕けた妖刀を地面に放り投げたギガンはゆっくりと甲冑の兜に手を伸ばすと、何を思ったのか全員の目の前で兜を取り外す。その彼の行動にリル達は呆気にとられるが、その顔を見て何名から悲鳴を上げる。
「ま、まさか……」
「こいつ……巨人族じゃない、魔物だ!!」
「まさか……ゴブリンか!?」
『ふうっ……ふうっ……!!』
甲冑の中身は巨人族の死霊人形ではなく、緑色の皮膚に鬼のような形相をした顔が露になった。その顔を見た者達は真っ先に「ゴブリン」の姿が頭に浮かぶが、リリスだけは冷静に顔を見定めて正体を見抜く。
「これはまさか……ハイゴブリン!?」
「ハイゴブリン?」
「ゴブリンの上位種の一種で他国では魔人族にも認定されている種です!!ホブゴブリンやゴブリンキングとは異なる進化を果たしたゴブリンですよ!!」
「ゴブリンだと……これほどの力を持ちながら、その正体はたかがゴブリンだというのか!?」
『たかが……ゴブリンだと?』
オウソウはギガンの正体が魔物の中では最弱の存在として扱われている「ゴブリン」の上位種だと知って驚くが、その言葉を聞いた途端にギガンは震え始め、闇属性の魔力をより一層に噴き出しながら怒鳴りつけた。
『この俺をたかかゴブリンだと言ったのか……ふざけるな、この下等種族共がぁあああっ!!』
「ちょっと!!怒らせてどうするんですか!?」
「えっ!?いや、そんなつもりは……」
「漫才をしている場合か!!来るぞ!?」
自分をよりにもよって最弱の魔物と侮られる「ゴブリン」と同じ存在と扱われた事にギガンの逆鱗に触れたらしく、獣のような咆哮を放ちながらギガンは動き出す。
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