第762話 影魔法
「うあっ!?」
「リル様!?」
「なっ!?いかんっ!!」
『がああっ!!』
攻撃を仕掛ける途中でリルの右足に黒蛇が纏わりつき、彼女は体勢を崩してしまう。その隙を逃さずにドラゴンスレイヤーを掲げたギガンは攻撃を繰り出すと、リルは足元を黒蛇に拘束されたせいで避ける事が出来なかった。
(まずい、早く防御用の戦技を……!?)
咄嗟にリルは防御しようと妖刀を構えたが、どういうわけなのか身体が思うように動かず、力が抜けてしまう。迫りくるドラゴンスレイヤーの刃を見てリルは自分が死んだと思ったが、ここでシロとクロが駆け出す。
「「ウォンッ!!」」
「うわっ!?」
『何っ!?』
攻撃が衝突する寸前でシロとクロがリルを押し倒した事により、ドラゴンスレイヤーはリルの頭上を通り過ぎた。シロとクロのお陰で攻撃を躱す事に成功すると、他の者が動き出す。
ギガンが次の行動に移る前に魔爪を発動したネコミンが駆けつけ、リュコとティナも先ほどやられたお返しとばかりに戦技を発動させる。
「牙斬!!」
「正拳突き!!」
「回転!!」
『ぐううっ!?』
3人の戦技が同時にギガンに放たれると、巨体が後方へと追い込まれ、その間にリルは自分の足元に纏わりついた黒蛇に対して妖刀を振り払う。
「離れろっ……!?」
黒蛇を切りかかろうとした瞬間、リルはここで自分の足元に纏わりついている黒蛇がただの蛇ではない事に気付き、胴体が異様なまでに長い事に気付く。だが、すぐに彼女は妖刀を振り払って黒蛇を切り裂く。
胴体を切り裂かれても黒蛇は悲鳴をあげるお琴もなく、それどころか煙のように変化して消えていく。その様子を見てリルは黒蛇の正体が生物ではない事を知り、残された黒蛇の胴体を確認して驚いた表情を浮かべた。
「こはれまさか……」
「影魔法ですよ!!何処かに本体が隠れているはずです!!」
黒蛇の正体が影魔法だと判明し、以前に王都が魔王軍に襲撃された際も「影魔導士のエイ」と呼ばれる敵と交戦した事があるリル達は本体を探す。影魔法は使用者の影を利用して作り出される闇属性の魔法であり、必ず何処かに影を作り出す本体がいるはずだった。
「この黒蛇を辿れば本体に辿り着けるはず……私に任せて」
「ネコミン!?」
「リル様、本体は我々がどうにかします!!シロ、クロ!!お前達も付いてこい!!」
「「ウォンッ!!」」
ネコミンとチイはシロとクロを連れて影魔法を発動させている本体の捜索を行うと、残された者達はギガンと向き合う。ギガンは戦技を受けても全く影響を受けておらず、掠り傷すら負っていなかった。
『おのれ……もう許さんぞ、貴様等!!』
「くっ……まだ生きているか」
「ですが、先ほどと比べても熱が下がったように思えます。やはり、リル様の攻撃で影響を受けているのでしょう」
「だといいんだが……」
リルの妖刀ムラマサの影響を受けたのか先ほどよりもギガンが放つ熱が明らかに弱まっており、先ほどまでは武器が接触する度に加熱して溶かされていた。しかし、現在は攻撃を仕掛けても多少の熱を帯びるが、武器が溶解する程ではない。
「よし、行くぞ!!全員で力を合わせれば勝てない敵じゃない!!」
「そうだ、勇者様の手を煩わせるな!!」
「こんな奴、俺達だけで十分だ!!」
『貴様等ぁあああっ!!』
ギガンに対して全員が武器を構えると、その様子を見ていたギガンは激怒し、ドラゴンスレイヤーを振り回す。だが、先ほどの攻防で敵の弱点を見抜いたリルは妖刀を構え、挑む。
確かにギガンの怪力は驚異的ではあるが、ナナシと比べれば彼の攻撃は大振りばかりなので冷静に対処すれば回避する事は容易い。一撃でも受ければ即死は免れないだろうが、獣人族特融の運動能力の高さを生かして攻撃を躱しながら反撃を繰り出す。
「刺突!!」
『ぐうっ……効くか、こんな物!!』
振り払われたドラゴンスレイヤーを躱しながらリルは甲冑の隙間に向けて妖刀を突き刺すが、ギガンは一瞬だけ怯んだ程度ですぐに反撃へと移る。だが、リルに攻撃を繰り出す前にティナとリュコが動き、リュコはティナの身体を持ち上げるとギガンに向けて放つ。
「本当に行くぞ!!覚悟は出来たか!?」
「はい!!」
「……せいりゃあっ!!」
『ぬうっ!?』
リュコはギガンに向けてティナを投げ飛ばすと、ティナはデュランダル(複製品)を手にした状態で身体を縦回転させ、強烈な一撃を叩き込む。
「風車!!」
『ぐおっ!?』
「……そこだぁっ!!」
上空から繰り出された一撃をギガンは右腕で受け止めようとしたが予想以上の衝撃で体勢を崩し、その隙にリルは妖刀を構えるとギガンの甲冑の目元に向けて突き刺す。
「刺突・閃!!」
『がぁあああっ!?』
目元の隙間の部分に刃が突き刺さると、ギガンは絶叫する。この時にリルは確かに甲冑の内部で何かを突き刺したような感覚に陥り、驚いた表情を浮かべる。
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