第761話 ドラゴンスレイヤーの力
『がぁああああっ!!』
「な、何をっ……!?」
「馬鹿な、正気か!?」
「くっ……離れろ!!」
ドラゴンスレイヤーを振りかざしたギガンを見て周囲を取り囲んでいた者達は嫌な予感を抱き、その場を離れようとした。だが、彼等が動き出す前にギガンは大剣を振り下ろすと、次の瞬間に強烈な振動が地面に伝わった。
刃が陥没する程の勢いでドラゴンスレイヤーは叩き込まれると、その直後に周囲に地割れの如く亀裂が発生し、竜巻を発生させていた戦士達の足場が崩れる。彼等は悲鳴を上げる暇もなく地割れに飲み込まれ、やがて竜巻が消散する。
『ふうっ……ふうっ……無駄に手こずらせおって』
「……なんて奴だ」
「力だけなら……魔王級ですね」
純粋な腕力のみで地割れを発生させたギガンに対してリル達は戦慄するが、ここで退くわけにはいかず、リルは妖刀を目にした。彼女が所持する妖刀ムラマサは聖剣ではなく、かつて剣の魔王が使用していた妖刀の一振りである。
七大魔剣にも数えられる妖刀ムラマサは斬りつける度に相手の魔力を吸収する能力を持つ。他にもレイナの文字変換によって「呪力」と呼ばれる能力は「諸刃」へと変化され、本来の妖刀よりも強力な武器と化していた。
(奴の発熱がもしも魔法の力によるものだとしたら……やってみる価値はあるか)
リルはムラマサに視線を向け、彼女が頑なに聖剣ではなく、この妖刀を扱い続けたのはその力を使いこなすためでもある。かつては剣の魔王が使用していた程の妖刀を使いこなせたとき、リルは強くなれると信じて使い続けてきた。
「皆、下がっていてくれ……ここは私がやる」
「えっ!?む、無茶です!!一人で挑むなんて……」
「勝ち目はあるんですか?」
「自暴自棄になったら駄目……時間を稼げばレイナが戻ってきてくれる」
「クゥ〜ンッ……」
リルの言葉に他の者達は心配して声をかけるが、別にリルも無策で挑むわけではなく、彼女は全員に笑いかけると妖刀を構えた。すると、ギガンはリルが所持している妖刀に気付き、驚愕の声を漏らす。
『その刀は……どうして貴様がそれを持っている!?』
「ん?そうか、この剣は元々はそちらの上司の所有物だったな……だが、生憎とだがこの剣はもう僕の物だ」
『ふざけるな……それを寄越せっ!!』
かつての主人が身に付けていた妖刀をリルが所有している事に気付いたギガンは怒りの声を上げ、ドラゴンスレイヤーを片手にリルの元へ向かう。
『この獣人がぁっ!!』
「…………」
迫りくるギガンに対してリルは鞘にムラマサを収めると、相手が大剣を振り下ろす瞬間に彼女は目を見開き、居合の如く刃を引き抜いてギガンの鎧へと放つ。
「抜刀っ!!」
『ぐあっ!?』
「え、効いたっ!?」
「まさか……!?」
刃がギガンの鎧に触れた瞬間、巨体が揺れて膝を突き、その様子を見ていた者達は驚く。これまでにどんな攻撃を食らわせても悲鳴を上げる事もなかったギガンだが、リルの放った妖刀に触れた瞬間、明らかに苦痛の声を漏らす。
鎧越しに斬られたにも関わらずにギガンは片膝を崩し、戸惑うように斬られた箇所へ触れる。この時に他の者達もギガンの様子を伺うと、いつの間にか全身が赤色に染まっていた鎧の一部分が色を失っており、同時にリルのムラマサにも異変が起きていた。
「やはりその鎧と剣……魔力を帯びているな。いつまでたっても熱が冷めないからおかしいとは思っていたが、内部に火属性の魔石でも隠し持っているのか?」
『ぐうっ……!?』
「魔力……そういう事ですか!!ムラマサの能力で魔力を吸収したんですね!?」
リルの言葉に対してギガンは言い返す事も出来ず、魔力を奪い取る能力を持つムラマサによって秘密が暴かれてしまう。ギガンの鎧と大剣に帯びた熱の正体は火属性の魔力であり、魔法の力で高熱を維持している事が発覚した。
――現在のギガンの鎧の内部には特殊な火属性の魔石が埋め込まれており、ギガンはそれを利用して装備品に高熱を帯びさせている。勿論、普通の人間が真似をすれば高熱を帯びた装備品を身に纏えば火傷を負うだけでは済まず、最悪の場合は死に至る。
しかし、既に死んでいるギガンの場合は影響は受けず、どれほどの高熱を帯びようと関係ない。この性質を生かしてギガンは装備品に高熱を維持した状態で戦い、あらゆる武器を溶解させる最強の武器と防具をに手に入れたはずだった。
「まさに死霊人形である事を生かした戦法ですね!!でも、タネが分かれば恐れる必要はありません。このまま魔力を吸収しつづければ熱も収まります!!」
『ちぃっ……舐めるなよ、小娘がっ!!』
「それはこちらの台詞だ!!行くぞ、木偶の坊!!」
リルはムラマサを構えるとギガンはドラゴンスレイヤーを構え、二人は同時に駆け出すと刃を重ね合わせようとした。だが、二人の大剣と妖刀が触れ合う寸前、リルの足元に向けて黒い蛇の様な物が近付いてきた。
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