第760話 森の戦士の意地
「勇者様には近づかせんぞ!!」
『ゴガァッ!?』
芭蕉扇を振りかざす度に強風が発生し、反撃を行う隙をマグマゴーレムに与えない。デュランダルの衝撃波によって次々とマグマゴーレムの核が破壊されていく。
(やっぱり、本物の方が使いやすい!!)
複製品のデュランダルと比べ、海底王国に封印されていたオリジナルのデュランダルをレイナは使用しているが、複製品と比べても扱いやすいかった。複製品の場合は最初から所有物はレイナではあるが、こちらの聖剣はレイナを受け入れた様に能力を発揮できた。
聖剣に正式に選ばれた事でデュランダルを能力を完全に発揮できるようになったのか、オリジナルのデュランダルの場合は衝撃波の軌道までもある程度は操作できる。それを利用して次々とマグマゴーレム達は倒されていく。
『ゴガァアアアッ……!?』
「大分小さくなったな……これで止めだ!!」
レイナはデュランダルを振りかざし、特大の衝撃波を放つ。今度は圧倒的な風圧でマグマゴーレムの群体を押し潰そうとした――
――その一方ではギガンと対峙したリル達も戦闘を繰り広げており、彼等は鎧と大剣が発熱した状態のギガンに苦戦していた。並の武器ではギガンに触れただけで溶かされてしまい、更にギガン本人は聖剣と同等の価値を誇るドラゴンスレイヤーを容赦なく振り回してくる。
「クロミン、水鉄砲!!」
「ぷるっしゃあああっ!!」
『ちぃっ……こざかしい!!』
ネコミンがクロミンを抱えた状態で水を放出させるが、それに対してギガンは掌を翳すと正面から受け止め、水分が蒸発する。現在のギガンはマグマに近い温度を放ち、迂闊に近づく所か少量の水では熱は収まらない。
ギガンに対して白狼騎士団や森の戦士の面々は打つ手がなく、妖刀や聖剣を装備しているリル達に任せるしかなかった。フラガラッハを抱えたチイはギガンの背後に近付き、聖剣を放つ。
「辻……!?」
『甘いわっ!!』
完全に死角から攻撃を仕掛けたにも関わらず、チイが戦技を発動する前にギガンは大剣を振りかざして彼女を弾き飛ばす。どうにか聖剣で受け止めたのでチイは致命傷を避けられたが、攻撃を受けた瞬間に聖剣が発熱して彼女は悲鳴を上げて武器を手放す。
「うあっ!?」
「チイ、無事か!?」
「は、はい……どうにか」
聖剣の類ならばギガンの攻撃を受けても破壊や溶解は免れるが、それでも金属製の武器は熱を帯びてしまい、所有者にも熱が伝わってしまう。下手に攻撃を仕掛ければ熱を帯びて武器を身に付ける事もままならず、リル達は打つ手はない。
それなりの時間が経過しているがギガンの鎧と大剣は冷める様子がなく、それどころか熱が上昇しているように感じられた。だが、気になるのは鎧を身に付けているギガンがどうして平気なのかである。
「こいつはどうしてこんなに熱を発しているのに平気なんだ?」
「そうですね、甲冑の中に死霊人形が入っているとしてもこれだけの熱を帯びているのに全く影響がないのは気になります……もしかして、リビングアーマーみたいに鎧その物に死霊が乗り移ってるんでしょうか?」
『リビングアーマーだと……あんな出来損ないと一緒にするな!!』
リリスの言葉にギガンは激高すると、ドラゴンスレイヤーを地面へと叩きつける。それだけで周囲に亀裂が走り、その際にリリスの足元の地面も崩れてしまう。
「うきゃあっ!?」
「リリス!?」
「大丈夫か!?」
「くっ……おい、魔法を使える奴はいないのか!?」
「ここは我等が!!」
足場が崩れてリリスは亀裂に飲み込まれると、それを見ていた者達が慌てて救出に向かい、それを見ていたオウソウが魔法での対処を願う。すると、オウソウの言葉に森の戦士が反応して風の精霊魔法を繰り出す。
カレハ程ではないが森の戦士は精霊を操り、普通の魔術師が扱えない攻撃魔法を行えた。彼等はギガンを取り囲むと、剣を杖代わりに利用して魔法を発動させる。
『風の精霊よ、敵を風の結界で封じ込め!!』
『ぬうっ……!?』
精霊の力を借りて森の戦士達は竜巻を作り出すと、その内部にギガンを閉じ込めた。竜巻は徐々に規模が小さくなっていき、閉じ込められたギガンの元に竜巻が舞い上げた岩石の破片が襲い掛かる。
『ぐううっ!?』
「いかに鎧で全身を守ろうと、これならば防ぎきれまい!!」
「その薄汚い、引き剥がしてやる!!」
「はああああっ!!」
戦士達は力を合わせて竜巻の風圧を強めると、無数の破片がギガンへと降り注ぐ。仮にギガンが生身の生物だったのならば傷だらけになっていただろうが、全身を鎧で構成されたギガンは破片を弾き返しながらもドラゴンスレイヤーを構えた。
竜巻に閉じ込められた状態でギガンはドラゴンスレイヤーを構えると、鎧の奥から怪しく光り輝く瞳を向け、風圧を押し退けながら一撃を放つ。
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