第756話 ホムラの由来

――巨人国にて遂に魔王軍の手掛かりを得たレイナ達は巨人国の秘宝である「ドラゴンスレイヤー」が封印されているというホムラ鉱山へと辿り着く。ギガンという名前の甲冑の巨人はかつてケモノ王国にて大勢の被害を生み出した事もあり、今回ばかりは逃がさないために万全の準備を整えて辿り着く。



「あれがホムラ鉱山か……」

「あの山の麓にドラゴンスレイヤーが祀られているそうです。急いでいきましょう、敵にドラゴンスレイヤーが渡ると面倒な事になりかねませんからね」

「我が国と巨人国の民と兵士を傷つけた報いを受けさせてやろう」



ホムラ鉱山へ赴いたのはレイナは当然として他には白狼騎士団の面々と、森の民の戦士が数名と族長のカレハも同行していた。魔王の手下であるギガンと彼を従える少年とやらを捕縛するため、急いでレイナ達はホムラ鉱山へと向かう。



「そういえば巨人国の人に聞いたんですけど、このホムラ鉱山の名前の由来はどうやら勇者が関わっているようですよ」

「勇者が?」

「ええ、何でもこの山で発掘された鉱石を利用して勇者の武器を作り出したそうなんです。なんでも魔剣カグツチが生まれたのがこの地とか……」

「それじゃあ、ホムラという名前は勇者が付けたの?」

「いいえ、名前を付けたのはこの国の人間らしいです。なんでも勇者の名前を付けたとか……」

「ちょっと待て、ホムラなどという名前の勇者なんて聞いた事がないぞ!?」



移動の際中にリリスがホムラ鉱山の名前の由来を語ると、ここでチイが疑問を抱く。勇者という存在は何処の国でも有名であるため、歴代に召喚された勇者の事も彼女は知っている。


だが、ホムラという名前の勇者に関しては聞き覚えなどなく、そもそも勇者の名前が付けられた鉱山ならば有名なはずだが、ホムラ鉱山などという場所もケモノ王国の出身者には初耳だった。



「話を聞いた限りだとホムラという名前の勇者は歴史上から抹消された存在です。なんでも昔、勇者でありながら国を裏切って大量殺戮を行ったとか……そのせいで勇者の資格無しと判断され、歴史上から名前を消されたそうです」

「ホムラか……確かにかつて悪に堕ちた勇者がいるという話は私も父上から聞いた事があるが、まさかこの国でその話を聞けるとは思えなかったな」

「そんな勇者、全然知らなかった……」



ホムラという勇者の存在はケモノ王国の間では全く伝わっていないらしく、巨人国にはホムラが自分の武器を作り出すために訪れたという鉱山に彼の名前が付けられたので名前だけは残っていたという。


勇者でありながら悪事を働き、仲間を裏切った存在がいたという話にレイナは何とも言えない気持ちを味わい、ホムラがどのような人物だったのかと考えてしまう。だが、考えている間にもレイナ達は遂にドラゴンスレイヤーが祀られている場所へと辿り着く。



「どうやらここのようですね、ドラゴンスレイヤーとやらが封印されているのは……」

「祠は……まさか、あれの事か!?」

「むうっ……既に奪われた跡であったか」



祠に辿り着いたレイナ達であったが、既に祠の扉は開け開かれ、中に封じられているはずのドラゴンスレイヤーは消えていた。その様子を見てレイナ達は一歩遅かったかと思うが、ここでシロとクロが何かに気付いたように鼻を鳴らす。



「「スンスンッ……ウォンッ!!」」

「うわっ……どうしたの?」

「シロとクロが何か臭いを嗅ぎつけたみたい……追ってみよう」



ネコミンの言葉にレイナ達は頷き、シロとクロが嗅ぎ取った臭いの正体を確かめるため、2匹の後を追う。シロとクロは地面を嗅ぎ分けながら移動を行い、山頂の方へと向かう。



「ネコミン、シロとクロが何を嗅ぎ取ったのか分かる?確かネコミンも鼻がいいんだよね?」

「……僅かにだけど死臭を感じる」

「死臭!?誰かが既に殺されたのか?」

「分からない、だけど嫌な臭い……死霊人形と相対した時のような臭いがする」

「死霊人形か……ふむ、という事はこの上に彼奴等がいるという事か」



死霊人形の臭いを嗅ぎ取ったというネコミンの言葉に全員が警戒心を高め、周囲に気を配りながら移動を行う。レイナ達は歩み続けると、遂にホムラ鉱山の山頂へと辿り着く。



「「クゥ〜ンッ……」」

「……匂いはここで途切れているみたい」

「途切れているって……何もいないじゃないか?」

「何処かに隠れているんですかね……」

「皆、あれを見よ……ここは火山でもあったようじゃな」



カレハの言葉にレイナ達は彼女が指し示す方向に視線を向けると、火口が存在した。上に移動する程に熱気が漂ってきたので薄々とは予想していたが、随分と危ない場所に誘い込まれた事に気付いたレイナ達は嫌な予感を抱く。


敵の狙いが火山にレイナ達を呼び寄せ、火山を噴火させて一網打尽にするつもりならば厄介な話だが、そう簡単に火山を爆破させる方法などない。だが、あまりに長居する場所ではなく、早急に魔王軍の手掛かりを探す必要があった。

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