第747話 どうして……

「止めなさい!!」

「っ……!?」



アリシアが聖剣を振りかざすと、それに対して魔剣を手にした者は正面から刃を受け止めるが、攻撃力3倍増の効果を持つアリシアの一撃は重く、吹き飛ばされる。


どうにかシゲルを救う事に成功したアリシアではあったが、ここで彼女は襲い掛かってきた相手の正体を確かめるため、追撃を仕掛ける際に相手のフードを奪おうとした。魔剣を所持しているからといっても相手がシュンとは限らず、別人の可能性もあった。



「さあ、正体を現し……なっ!?」



しかし、アリシアの伸ばした腕は届く前に相手は魔剣を突き立てると、黒色の炎のような魔力を生み出す。それによってアリシアは阻まれてしまい、彼女は咄嗟に距離を取る。



「そんな馬鹿な、その魔剣の力は……!?」

「…………」

「く、くそっ……シュン、てめえなのかよ!?」

「う、嘘だよね……シュン君なはずがないよね!?」

「そんな……勇者様、なのか!?」

「あの剣の黒い炎……魔剣の力、だよな……」



魔剣から「黒炎」らしき物を生み出したシュンに対して全員が動揺を隠せず、魔剣の力を引き出せるのは魔剣に認められた存在だけであり、しかもアリシアが聞いた声はシュンの物だった。


姿を隠しているが魔剣を使いこなす力と、シュンの声を発する相手にアリシアでさえも本当に敵の正体がシュンなのかと考えてしまう。だが、彼がシュンだとしてもいくつか疑問が残り、どうして姿を隠しているのか戸惑う。



(確かめなければ……!!)



敵の正体が本当にシュンなのかを確かめるため、アリシアはフラガラッハを構えて戦技の体勢に入ろうとした。だが、相手の剣士はそのアリシアの姿を見て魔剣を構えなおすと、ここで懐から思いもよらぬ物を取り出す。



「…………」

「な、なんだそれは……」

「黒い、石……?」

「あれは……いけません、皆さん下がって!?」



黒真珠のような黒色の宝石のような塊を取り出した剣士に対してシゲルとモモは戸惑うが、いち早く危険を察したアリシアは下がるように促す。その直後に剣士は自分が取り出したの魔石に刃を振り下ろす。


魔石に黒炎のような魔力を纏った刃が振り下ろされた瞬間、魔石の魔力が暴発して広範囲に闇属性の魔力が広がる。まるで黒煙の如く休憩地点全体に魔力が広がると、咄嗟にアリシアは口元を抑え込む。



「煙を吸っては駄目です、魔力が乱れて動けなくなりますよ!?」

「そ、そんな事を言われてもよ……うわぁっ!?」

「こ、こっちに来るよ〜!?」



黒煙が広場全体に拡散し、聖剣を所持していたアリシアだけは迫りくる黒煙に対して斬りつけると、聖剣の力で闇属性の魔力を晴らす。聖剣フラガラッハは聖属性の力を宿しているため、闇属性の魔力も打ち消す効果を持つ。



「このっ……逃がしません!!」



煙を振り払いながらアリシアは敵の姿を探し、この煙に隠れて逃げ去るつもりだろうが、彼女は敵の姿を探す。この際にアリシアは気配感知を発動させ、敵の位置を探る。



(目に頼らず、気配で探らなければ……)



気配感知の技能で敵の位置を探り、煙の中に紛れているはずの敵の位置を把握しようとしたアリシアであったが、どういうわけなのか敵の位置が捉え切れない。まるで一流の暗殺者の如く、完璧に気配を絶っていた。


気配を感知できずに位置を掴めなかったアリシアであったが、彼女は不意に物音を耳にすると、背後から近付いてくる存在を視界に捉えた。咄嗟にアリシアは剣を振り抜き、その何者かに向けて剣を突き刺す。



「そこですか!?」

「がはぁっ!?」



刃先に何かが貫いた感触が広がり、アリシアは視線を向けるとそこには思いもよらぬ人物が立っていた。それはシュンでもなければアリシアが連れてきた他の人物でもなく、初めて見る顔であった。



「えっ……!?」

「ど、どうして……こんな、事を……」



煙が晴れていくと、アリシアの前には見知らぬ女性が立っており、彼女の腹部にはアリシアの聖剣が突き刺さっていた。殺すつもりはなかったが、女性の方が向かってきたために剣を戻す暇がなく、胸元の方に突き刺さってしまった。


慌ててアリシアは剣を引き抜こうとしたが、女性の方は彼女に寄りかかり、抱き着くように離れない。その行動にアリシアは慌てふためくが、女性は絞り出す様に声を出した。



「シュン様……貴女の事を愛していました」

「な、何を言って……!?」

「……イレア?」



アリシアは女性の言葉に戸惑うと、ここで第五階層に繋がる階段の方から声が聞こえ、そこには魔剣を手にしたシュンが立っていた。彼はイレアを突き刺すアリシアの姿を目の当たりにして唖然とした――

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