第746話 戻らぬシュン

――巨人国にて騒動が起きている頃、帝国の方でも問題が起きていた。それは剣の勇者であるシュンが勝手に大迷宮へ潜り込み、もう何日も戻っていない事だった。


アリシアの件もあるため、不慮の事態に陥ってシュンが大迷宮の最下層から帰還できない状態に陥った可能性もあり、帝国は早急に捜索隊を派遣した。その隊長を務めるのは聖剣フラガラッハを所持するアリシアであり、他にもシゲルやモモも加わる。



「くそ、あの馬鹿……何してんだよ!!」

「シゲル殿、気持ちは分かりますが落ち着いて下さい。無暗に大声を上げると魔物に見つかってしまいます」

「う〜ん……頭が痛くなってきたよ」



大迷宮の第四階層まで辿り着いた捜索隊だったが、速度を重視しての行進のため、ここに辿り着くまでに相当な数の魔物を相手にした。ここまでの道中で相当な回数の魔法を使ったモモは頭痛に襲われて眉をしかめる。


いくら勇者であるとはいえ、魔法の連続使用は肉体の負担も大きく、回復までに時間が掛かる。だが、魔物の対抗手段として一番友好的なのは彼女が扱う砲撃魔法であるため、どうしても彼女の力を頼りにしなければならない。



「さあ、第五階層までもう少しです。休憩地点に到着すれば休憩を挟み、第五階層に挑みましょう」

「おい、休憩なんかしている暇はあるのか?」

「御二人や私はともかく、ここまで同行してくれた冒険者の方々も休憩が必要です。シュン殿を心配する気持ちは分かりますが、焦っても状況は好転しません」

「……別にあんな奴、心配なんかしてねえよ」



シュンの事を口にした途端にシゲルは不機嫌になり、気に入らなそうに鼻を鳴らす。彼が魔剣を手にする前はシゲルとシュンは親友のように仲が良かったが、最近は二人の関係は悪化する一方だった。


今回の捜索隊には帝都の冒険者達も引き連れているが、ここまでの強行軍で全員が疲れており、アリシアは第五階層に挑む前に休憩を挟むつもりであった。急いでシュンを探し出さなければならないのは理解しているが、それでも休みなしに移動し続けるわけにはいかない。



「間もなく休憩地点に到着します、そこに辿り着けば少しは休憩できるでしょう」

「は、はい……」

「流石は勇者様と姫様だ……こんなに早く第四階層まで降りれるなんて信じられねえ」

「ふう、老体には答えるわい……」



アリシアの言葉に冒険者達は頷き、必死にアリシア達の後に続く。大迷宮に入ってから2時間も経過しないうちに第四階層に辿り着けるなど普通ならばあり得ない移動速度である。


休みなく移動し続けたせいで流石の冒険者達も疲れを隠しきれないが、それでも急いだお陰で遂に第四階層の中心部へと辿り着く。この場所は魔物が襲ってこない休憩地点のため、安心して休めると思われた時、そこには思いもよらぬ人物が待ち構えていた。



「見えてきました、あそこが第五階層の入口……えっ?」

「おい、待て……誰かいるぞ!!」

「もしかしてシュン君!?」



第四階層から第五階層へ繋がる階段の前には全身をフードで覆い隠した人物が存在し、それを発見したアリシア達は驚愕の表情を浮かべた。この大迷宮の中でも危険地帯である第四階層に潜れる者は限られており、しかも単独で行動している時点で彼等はフードの正体がシュンかと考えるのも無理はない。



「おい、シュン!!てめえ、何を考えてやがる!!心配させやがって……」

「シュン君、心配したんだよ!!もうっ!!」

「あ、待ってください!!御二人とも!?」



シュンとヒナはフードの人物の正体がシュンかと思い込み、駆け寄ろうとした。それを見たアリシアは慌てて二人を止めようとしたが、この時にフードの人物は懐から剣を取り出す。



(え、あの剣は……!?)



相手が取り出した剣を見たアリシアは目を見開き、間違いなくそれは「魔剣カグツチ」であった。魔剣を取り出した事でアリシアでさえもフードの人物が本当にシュンなのかと思いかけた時、フードの人物は思いもよらぬ行動を取った。


魔剣を手にしたシュンと思われる人物は自分に近付いてくるシゲルとヒナに対し、躊躇なく刃を振りかざす。その光景を見てシゲルは咄嗟に危険を感じ取り、ヒナを突き飛ばす。



「なっ、避けろ!?」

「きゃっ!?」



ヒナが突き飛ばされた直後、シゲルの背中に魔剣の刃が容赦なく振り下ろされる。そして茂の背中の服が切り裂かれ、血飛沫が舞う。



「ぐああああっ!?」

「し、シゲル君!?」

「そんなっ!?」

「ひいいっ!?な、何てことを……」



背中を斬りつけられたシゲルは悲鳴を上げ、膝をつく。その背中からは血が溢れ、彼は歯を食いしばりながらも自分を斬りつけた相手を睨みつけようとした。だが、そんな彼に対して魔剣を手にした者は背中を蹴り飛ばす。


傷口を蹴りつけられたシゲルは呻き声を上げ、抵抗も出来ずに地面に倒れ込む。そんなシゲルに対して魔剣が再び迫るが、それを見ていられずにアリシアが聖剣を引き抜いて挑む。


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