第745話 少年の名は……
『だが、お前の力は正直に言えば惜しい……本体は別に存在するとしても、圧倒的な闇の魔力を保有しているな』
「…………」
『お前に選択肢を与えよう。ここで切られて死ぬか、それとも俺に魔力を分け与えるかだ』
ギガンは少年に語り掛けると、その言葉を聞いた少年は悩み、彼の目的は巨人国の秘宝であるドラゴンスレイヤーを剣の魔王に届ける事であった。
もう残された魔王は剣の魔王しか存在せず、剣の魔王に聖剣をも上回る武器を渡して勇者と戦わせる。それが彼の目的だったが、ここでギガンの反逆は予想も出来なかった。しかし、これはこれで面白い結果だと考え直す。
「一つだけ条件があります」
『条件だと……お前は自分の立場を弁えているのか?』
「それはこちらの台詞ですよ。僕を殺して闇の魔力を奪おうと考えているようですが、それは不可能です」
『何っ!?』
ギガンが少年を生かそうとする理由は彼の体内に存在する「死霊石」が狙いであり、死霊石を奪い取ればギガンは今以上に魔力を入手できる。しかし、その死霊石を彼に渡されるぐらいならば少年は自ら破壊するつもりだった。
「僕から死霊石を奪い取るつもりでしょうが、生憎と僕の体内には死霊石の他に魔石が埋め込まれています。捕まった場合、緊急手段として魔石を刺激させて暴発させれば死霊石も砕け散ります」
『馬鹿な……!!』
「信じる信じないは貴方の勝手です。ですが、いくら剣を手にしたところで貴方は剣の魔王様にはまだ及ばない」
『…………』
少年の言葉にギガンは言い返す事は出来ず、彼自身も理解はしていた。ギガンの力はまだ剣の魔王バッシュには及ばず、このまま戦闘を挑んでも返り討ちにされる事は嫌でも理解していた。
剣の魔王は他の魔王と比べても活動期間が長く、最も勇者を追い詰めた存在でもある。しかも彼の傍にはギガンと双璧を為すジャンも控えている。いくらギガンが最強の剣を手にしようと、戦力差は大きい。
「どうしますか?僕を殺した所で貴方に未来はない……だけど、ここで僕の言う事を聞けば貴方に一度だけ好機を与えましょう」
『何だと……』
「お望みどおりに僕の力を分け与えましょう。その力を利用してここへ訪れるはずの勇者を討ち取るのです。当然、僕も出来る限りの手助けはしましょう。但し、それが失敗すれば貴方には今度こそ死んでもらいますよ」
『勇者だと……!?』
ギガンは勇者という言葉に硬直し、この時代に召喚された勇者の事は良く知っている。何しろ始祖の魔王や海の魔王を倒したほどの実力者であると聞いており、恐らくは現代最強の剣士であると認識していた。
「勇者の力は決して侮れません。剣の魔王様でも正面から挑めば勝てるかも怪しい……しかし、貴方の手にはドラゴンスレイヤーがある。その剣ならば勇者を殺せるかもしれません」
『……何をするつもりだ?』
「簡単な話ですよ、この場所にて勇者を待ち構えて迎え撃つ。それだけの話です……勇者を打ち倒す事が出来ればギガン殿は剣の魔王様をも超える事が出来るでしょう」
『あの勇者を……』
かつて剣の魔王は勇者に敗れた事を思い出し、時代は違えど勇者という存在を倒せばギガンは剣の魔王でさえもなしえなかった勇者討伐を果たす事になる。それは彼を越えた事を意味すると諭され、少年の言葉にギガンは従う。
『いいだろう……だが、約束を違えれば貴様を殺すぞ。例え、何が起きようとだ』
「ご安心ください。僕は約束は破ったりはしませんよ。では、貴方に力を分け与えましょう」
少年は掌をギガンに翳すと、右手の部分に闇属性の魔力が迸り、それをギガンへと送り込む。肉体に闇の魔力を送り込まれる感覚にギガンは高揚感を覚え、信じられない程の魔力を与えられたギガンは戸惑う。
魔力を分け与えると、ギガンの全身から闇の魔力が溢れ、その質量は圧倒的だった。更に変化が起きたのはギガンだけではなく、ドラゴンスレイヤーも全身が漆黒に染まるだけではなく、黒色の炎のような魔力を纏った。
『おおっ……こ、これは!?』
「貴方が宿せるだけの魔力を分け与えました。これ以上に魔力を与えると自我が崩壊しかねませんのでここまでにしておきましょう」
『……まだ、魔力を送り込む事が出来るのか』
ギガンは自分の肉体に宿した魔力の量を確認し、少年は予想以上に膨大な闇の魔力を保有していた事に驚く。それだけの力があればもう死霊人形の域を超えており、ますます少年の謎が深まった。
『お前、何者だ……どうしてそこまでの力を手にしている?』
「僕は魔王様の影……名前もない只の傀儡ですよ」
『名前がない、だと……』
「そうですね、強いて言うとすれば……ナナシとでも呼んでください」
名無しという意味でそう名乗ったのかは不明だが、自分の事をナナシと称した少年はギガンと共に勇者を迎え撃つ準備に取り掛かる――
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