第741話 人質の解放
――魅了の能力を使用し、アントンを自分に何でも従う傀儡へと変化させたレイナは彼に命令して牢獄に閉じ込められている将軍や兵士の家族の解放させる。
アントンは隠していた鍵は実は玉座に隠していた事が発覚し、国王以外の存在が触れる事さえも出来ない場所のため、今まで見つかる事がなかったという。すぐに牢獄に閉じ込められていた者達は解放され、家族の再会を喜び合う。
「貴方!!」
「お父さん!!」
「ああ、お前達……無事だったのか!!」
牢獄から解放された人々が次々と城の中庭へ姿を現すと、兵士達は泣いて喜んで彼等を迎え入れた。その様子を見てレイナ達は安堵する一方、大将軍のダイゴロウは片腕に子供を抱き上げながら礼を述べた。
「すまない、本当に助かった……貴方達はこの国の救世主だ」
「お爺ちゃん、誰〜?」
「ほら、お前も礼を言うんだ。この人達がお前達を救ってくれたんだ」
どうやらダイゴロウが担いでいる子供が彼の孫らしく、孫の他にも彼の息子夫婦らしき人物もレイナ達に頭を下げる。どうやらダイゴロウは子供と孫を人質に取られていたらしく、深く感謝した。
「子供と孫の命を救っていただき、本当に助かった……本当にありがとう」
「いえいえ、気にしないでください。今後はケモノ王国と巨人国は同盟国ですからね」
「リル女王、この度の一件……誠に助かりました。礼を言います」
「気にしないでくれ、これからは共に協力する立場だ。正式に即位する時は私も参列しよう」
ジャイはリルに握手を行い、深く感謝した。第一王子は亡くなってしまったが、まだ第二王子の彼が残っている以上は巨人国の未来は明るく、今後は同盟国としてケモノ王国と協力する事を約束する。
帝国と同様に転移台をこの地に置いておくため、今後は転移台を通じて移動する事も出来るようになった。また、飛行船の開発に必要な人材の派遣もジャイは約束してくれた。
「これで準備は整いましたね、ケモノ王国と巨人国の同盟も達成しましたし、後は飛行船の開発に全力を注ぎましょう!!」
「でもさ、転移台があれば自由に巨人国へ出入りできるんだよね?なら、飛行船を開発する理由なんているの?」
「何を言ってるんですか、転移台で運び出せる荷物や人数なんて限られていますよ。第一にケモノ王国と巨人国の場合は離れすぎていて魔力をどれだけ消耗すると思ってるんですか。魔石を利用して魔力の消費を補うにも限界がありますし、それに巨人国は魔石が発掘できる鉱山は少ないですからね」
「あ、なるほど……」
リリスの説明にレイナは納得し、忘れていたが転移台は距離に応じて魔力の消費量が異なる。転移台を利用して移動する場合、距離が離れすぎていると魔力の消費量が増加するため、魔石を代用してもかなりの量が必要になる。
帝国の場合は魔石が発掘できる鉱山を幾つも所有しているので問題はなく、ケモノ王国も帝国程ではないが魔石が発掘できる鉱山は多い。だが、巨人国の場合は魔石が採れる場所は少なく、日曜に必要な魔石は帝国から現状は輸入していた。
「今後は帝国だけではなく、巨人国にも食料や魔石の輸入を行う予定です。そのためには飛行船は必要不可欠なんですよ」
「分かったよ、海路は使えないから空路を利用するという話でしょ?」
「そういう事です。それに巨人国に現れた甲冑の巨人と少年のような風貌の男を調べないといけませんからね」
「問題はそれだけじゃないぞ。あの男はこれからどうするつもりだ?」
巨人国に現れたという少年と甲冑の巨人の捜索は行われており、既に巨人国の兵士達が王都中を探し回っている。その一方でリルは兵士達に囲まれたアントンに視線を向け、彼は大勢の人間に殴りつけられたせいで瀕死の状態で倒れていた。
「このクズが……」
「よくも俺達の家族を!!」
「何が国王だ、お前はただの愚か者だ!!」
「ううっ……や、やめ……」
「……自業自得ですね」
現在のアントンは彼に今まで恨みを抱いていた者達に叩きのめされ、そこにはもう王族としての威厳などはなく、彼の兄のジャンさえも止めない。それほどまでにアントンの罪は重く、今回の事態は彼の責任である。
魔王軍が関与しているので仮にアントンが利用されていたのならば同情の余地はあるが、この国の民衆を追い詰めた政策を実行したのはアントンだった。だからこそ誰も彼を助けようとはせず、しばらくの間は辛い生活を送る事になるだろう。
「……愚弟に関しては私の方でしっかりと罪を償わせます。殺しはしません、その代わりに死ぬまで牢獄に閉じ込めましょう」
「そうか……まあ、それが妥当だな」
「れ、レイナ様……たひゅけて……」
「うちの隊長に近付くな、このくそ野郎が!!」
魅了の影響でアントンはレイナに助けを求めようとするが、それをオウソウが阻止すると、他の団員も彼を抑えつける。そんな様子を見てもレイナは不思議と不憫に思えず、彼のせいで死んでいった人間の事を想うと可哀想にも見えなかった。
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