第740話 久々の魅了
「アントン!!貴様の非道もここまでだ……大人しく降伏しろ!!」
「ぐっ……調子に乗るな、この臆病者が!!何をしている、さっさとそいつを捕まえろ!!処刑してやる!!」
『…………』
アントンは兵士達に命令するが、誰一人としてその言葉には従わず、逆にジャイを守るために大勢の兵士が彼の傍に駆け寄る。その光景を見てアントンは冷や汗を流し、後退った。
「お、おい……何の真似だ、お前達!?」
「もう、お前に従うのは懲り懲りだ!!」
「ジャイ王子様こそ、この国の王に相応しい存在!!」
「貴様などの命令など誰が聞くか!!」
兵士達も生きていたジャイの方が巨人国の王に相応しいと判断し、もうアントンに従う者はいなかった。アントンは状況が不利になったと判断すると、彼は慌てて怒鳴りつけた。
「お、おのれ……貴様等!!俺が貴様等の家族の命を握っている事を忘れたか!?俺を殺せば牢獄の鍵は手に入らないんだぞ!?」
「……牢獄に閉じ込められた者達は救い出す、鍵を持っているお前を拷問して居場所を吐かせればいいだけの話だ」
「ダイゴロウ、貴様まで!?」
ダイゴロウも遂にアントンに逆らう事を決意して睨みつけると、本当に誰一人として味方がいない事に気付いたアントンは城壁の壁際へと追い込まれた。
大勢の者に囲まれて逃げ場を失ったアントンは助けを求めるように視線を向けるが、もう城内には彼を味方する存在はいない。ここまでかと思われた時、アントンは思い出したように声をかける。
「な、何をしている!!どうせ、何処かで見ているんだろう!?俺を助けろ!!」
「……何を言っておるのだこ奴は?」
「頭がおかしくなったのか?」
アントンの言葉にカレハは眉をしかめ、オウソウは首を傾げるがこの時に事情を知っているリリスは全員に注意を行う。
「気を付けてください!!この城にはケモノ王国を襲った甲冑の巨人が存在するはずです!!」
「何だと!?それは本当か!?」
「我が森の戦士を痛めつけた巨人がここに……!?」
「ふん、お前等が調子に乗っていられるのもここまでだ!!さあ、俺を助けろ!!そうすればどんな望みもくれてやるぞ!!」
甲冑の巨人ならばこの状況を打破できると判断したアントンは高笑いを浮かべ、周囲の者達は警戒したように辺りを見渡すが、特に変化はない。
普段ならばアントンの身に危険が迫った時、彼の前に謎の少年とそれに従う甲冑の巨人が現れ、彼を守ってきた。しかし、どういうわけか今回はいくら呼びかけても現れる様子はなく、アントンは冷や汗を流す。
「ど、どうした!?何故、出てこない!?この俺が呼んでいるんだぞ、ふざけていないで早く出て来い!!」
「……どうやら奴等にさえも見捨てられたようだな、アントン」
「う、嘘だ!!そんなはなずはない、何をしている!?早く出て来い!!」
「哀れな男だ……我が弟ながら情けない」
ジャイはアントンに対して剣を抜くと、それを見たアントンは怯えた表情を浮かべ、必死に壁に縋りつく。そんな彼にジャイは剣を構えると、淡々と告げた。
「貴様に王の資格はない、ここで自害するか、それとも僕に討たれるかを選ぶがいい!!」
「ひいっ!?い、嫌だ!!どっちも嫌だ!!」
「王子、お待ちください!!殺してしまえば鍵の居場所が……」
「それは時間をかけて探せばどうにでもなる。だが、この愚か者だけは見逃すわけにはいかん!!」
「あの、すいません。ちょっといいですか?」
ダイゴロウはジャイを引き留め、ここでアントンを殺せば牢獄の鍵は手に入らない事を告げる。だが、そんな彼等を横切ってレイナはアントンの元へ向かう。
「なっ!?止めろ、何をする気だ!?」
「大丈夫ですって、いいから見ていてくださいよ」
「見ていろと言われても……」
レイナが特に警戒した様子もなくアントンに近付く光景に他の者は焦るが、リリスはレイナの行動の意図を察すると他の者を引き留める。レイナは改めて怯えきったアントンの前に立つと、黙って手を伸ばす。
アントンはレイナが自分に対して腕を伸ばしてきた事に怯えるが、それに対してレイナは別に彼を傷つける様子はなく、むしろ優しく彼の手に触れて微笑む。そのレイナの行為に誰もが唖然とするが、ここでアントンには変化が起きた。
「はぐぅっ!?」
「アントン王子!?」
「いったい何を……」
「ふうっ……王子、俺の言う事を聞いてくれますね?」
奇怪な声を上げたアントンにダイゴロウとジャイは焦った声を上げるが、レイナは優しくアントンに語り掛けると、彼はその場で跪き、レイナの右手を両手で覆い込む。
「はい、何なりとお申し付けください!!」
『はっ!?』
「良かった……上手く行った」
「なるほど、やっぱり魅了の能力を使ったんですね」
レイナは吸血鬼を倒した時に得た「魅了」を使用し、その力でアントンを魅了の虜にさせ、自分のいう事ならば何でも従う傀儡へと変化させた――
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