第739話 愚王
「ダイゴロウ大将軍、これ以上に争いたくはないんです。お願いします、俺を国王の所まで連れて行ってください」
「……本気で言っているのか?」
「だ、大将軍……どうしますか?」
ダイゴロウの元にレイナは近寄り、黙って両腕を差し出す。その様子を見てダイゴロウは本気でレイナが捕まるつもりなのかと思い、兵士達は彼に戸惑いの表情を浮かべた。
しばらく考えん込んだ後、ダイゴロウは意を決したようにレイナの元へと近づき、彼女の両肩に手を伸ばす。そして正面を見据えた状態から尋ねる。
「いいだろう、望通りにアントン王子に会わせよう……お前達は捕虜として突き出す、それでいいな?」
「はい、お願いします」
「ならば付いて来い、他の者はここで待っていろ……」
「ダイゴロウ!!これは何の騒ぎだ!!」
レイナの提案に乗ってダイゴロウは彼女を連れていこうとしたが、レイナを拘束する前に男の声が響く。その声を聞いてレイナ達は驚いて振り返ると、そこには酒瓶を手にしたアントンが立っていた。
「ア、アントン王子……どうしてこちらに!?」
「王子だと?ふざけた事を抜かすな、俺はもう国王だ!!何度言わせれば分かる!?二度と言い間違えるなよ!!」
「アントン……昔から変わっていないな」
「ああっ!?何だお前達は?」
アントンが姿を現すと巨人族の兵士達はひれ伏し、リルは彼の姿を見てため息を吐き出す。子供の時に出会った時からアントンは粗暴な性格をしており、あれから年月が経過したというのにアントンは変わっていなかった。
城内に存在するレイナ達の姿を確認してアントンは疑問を抱くが、すぐに彼はリルに視線を向け、何処かで見覚えがある事に気付く。だが、すぐに気を取り直してダイゴロウに問いかける。
「ダイゴロウ、こいつらは何なんだ?」
「そ、それは……」
「アントン王子!!私の名前はリル、ケモノ王国の女王だ!!」
「何だと……思い出した、あの時の娘か!?」
リルの発言にアントンは目を見開き、彼がまだ若かったころにアントンは帝都で行われた皇帝の誕生会にてリルと出会った事を思い出す。その時のリルは子供ながらに容姿も整っていたため、根強く記憶に残っていた。
「思い出したぞ、リルといったな……ケモノ王国の女王がどうしてここにいる!?」
「おかしな事を言うな、先王が送ってきたこの書状を知らないわけがないだろう?手紙には巨人国はケモノ王国と同盟を結びたいと記されている。この同盟を結ぶために私達もここへ来た!!」
「父上が……ふざけるなっ!!そんな手紙など無効だ!!今はこの国の王は俺だ!!」
「笑わせるな、お前に王を名乗る資格はない!!民を苦しめ、配下を脅し、大きな力の影に隠れて指示する事しか出来ない貴様は王の器ではない!!私は貴様を王とは認めないぞ!!」
「こ、このガキが……!!」
アントンは自分よりも年下のリルの言葉に王を説かれて憤るが、その言葉に対してアントンの配下は何も言わず、彼等の誰一人もアントンを心の中では王に相応しい存在だとは認めていない。
「アントン!!お前こそがこの国の膿だ!!少しでも先王に対する愛情や恩義が残っているのならば、王の座から下りろ!!」
「舐めやがって……俺以外に誰がこの国の王に相応しい!?上の兄は死んだ、もう一人の兄は逃げ出した!!ならばこの国の王は俺だけだ!!」
「その言葉を聞いて安心したぞ、逃げたという事はまだもう一人の兄は生きているという事だな?」
「ああっ!?それがどうした!!あいつは俺を恐れて逃げ出した臆病者だ!!」
「それは違うぞ!!」
ここで一人の兵士が突如として大声を上げると、その言葉に誰もが驚いて振り返る。すると、兵士は兜を取り外して素顔を晒す。その顔を見た瞬間、ダイゴロウは焦った声を上げた。
「ジャイ様!!いけません、お姿を晒されては……」
「ジャイ様だって!?」
「まさか、ジャイ王子様!?」
「生きておられたのか!!」
「皆の者、良く聞け!!私はここにいるぞ!!今まではダイゴロウ大将軍の配下の兵士に変装して隠れていたのだ!!」
兵士の正体がこの国の第二王子であるジャイだと判明すると、兵士達に間に衝撃が広がる。特にアントンの方は信じられない表情を浮かべ、まさか自分を恐れて逃げたと思われた第二王子が現れた事に理解が追いつかない。
兜を脱ぎ捨てたジャイは鎧を取り外すと、改めてアントンとにらみ合う。彼は第一王子が殺された時、次は自分が狙われると思って今まではダイゴロウの側近の一人に化けてこの城の中で過ごしていた。まさかアントンも逃げたと思われるジャンがこの城に残っていたとは思わず、正に灯台下暗しであった。
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