第738話 同盟を結ぶために

(頼む、ダイゴロウ大将軍……こんな事で争う必要はない)



リルは祈るようにダイゴロウに視線を向け、表向きは堂々とした態度ではあるが、ここでもしもダイゴロウが攻撃を仕掛ければ巨人国とケモノ王国は敵対してしまう。


その一方でダイゴロウの方も乗り込んできたリル達に視線を向け、状況は一変した。女王であるリルが率いてきた白狼騎士団は国内の中でも精鋭の騎士達が勢揃いしており、エルフの集団に関しても噂に聞く「森の民」である事を彼は見抜く。



(この身体でこれだけの人数を相手にする事は出来ん……だが、何とかしなければアントンに気付かれてしまう)



ダイゴロウは非常に悩み、ここで戦闘に陥れば自分達に勝ち目は薄い事は理解していた。いくら巨人族といえど、魔法を得意とするエルフと戦うのは分が悪い。しかも帝国の騎士団を打ち破った白狼騎士団も揃っており、状況は自分達が不利だとダイゴロウは気づいていた。


それでもここで彼等に従えばアントンに捕まった家族の身が危険であるため、彼は意を決したように武器を手にして立ち上がろうとした。だが、そんな彼の元にレイナは近寄ると、手元を伸ばす。



「動かないでください」

「な、何をする……!?」

「いいから動かないで!!」



レイナは負傷中のダイゴロウに近寄ると、リリスに顔を向けた。そのレイナの行動にリリスは回復薬を取り出すと、レイナへと渡す。それを受け取ったレイナは回復薬をダイゴロウの膝に流し込む。



「動かないでくださいね、その傷を治しますから」

「や、止めろっ!!敵からの情けなど……」

「落ち着いて下さい、俺達が戦う理由はもうないんです」



自分の傷を治療しようとするレイナに対してダイゴロウは慌てて押し退けようとしたが、純粋な腕力はレイナの方が勝り、無理やりに回復薬を流し込む。すると砕けたはずの膝が完全に治り、ダイゴロウは驚いた表情を浮かべた。



「こ、これは……!?」

「楽になりました?うちの国の一番の薬剤師が作ってくれた上級回復薬です」

「えっへんっ!!私が作りました!!」

「ぷるぷるっ(おやつとしても美味しいよ)」

「あ、こら!!また勝手に私の回復薬を飲むんじゃありません!!めっ!!」



上級回復薬の効果によってダイゴロウの怪我は完治すると、彼は自分の足が直った事に驚き、同時に負傷した自分を助けたレイナに信じられない表情を浮かべる。


先ほどまで戦っていた相手を治療したレイナに対してダイゴロウは余裕のつもりかと思ったが、レイナはそんな彼に対して目の前で身に付けていた武器を下ろし、両手を上げる。その行為に誰もが驚く中、レイナは告げた。



「こんな事を仕出かした俺達の事を信じられない気持ちは分かります。でも、それでもお願いします。俺達をアントン国王の所まで連れて行ってください」

「な、何が目的だ?」

「俺達はアントン国王の非道を止めるため、そして彼の傍に現れた二人組を捕まえるためにここへ来ました。だから、協力して下さい……それが無理というのであれば大人しく捕まります」

「レイナさん!?何を言ってるんですか!?」

「そこまでする必要は……」

「隊長、止めろ!!」



レイナの言葉に他の者は驚いた表情を浮かべるが、そんな彼等に対してレイナは首を振り、結果的には城の兵士に迷惑をかけた事に変わりはない。



「大将軍、お願いします。俺が人質になりますから他の人には手を出さないでください。どうか、捕虜として国王に会わせてください。そうすれば大将軍は罰せられないでしょう?」

「何だと……!?」

「勇者殿……そこまでこの者達に尽くすというのか。ならば我々も共に捕まりましょう、皆の者!!武器を捨てよ!!」

『はっ!!』



カレハはレイナの気持ちを汲み取り、彼女は手にしていた芭蕉扇を地面に下す。他の者達も手にしていた武器を下ろすと、それを見ていた白狼騎士団の者達も次々と武器を下ろす。



「くそっ……隊長は人が良すぎるぞ!!」

「そういう隊長だからこそ、お前もここまで付いてきたんだろう?」

「俺達も付き合いますよ!!」

「全く、お前という奴は……こんな事をされたら私達も戦うわけにはいかないだろう」

「レイナは人が良い……でも、そういう甘さは嫌いじゃない」

「仕方ありませんね、なら私はクロミンを置きましょう」

「ぷるんっ(僕、武器扱い!?)」

「……ふう、やはりこうなるのか」



白狼騎士団の団員達も武器を下ろし、続けてチイやネコミンやリリスもそれに続き、リルも仕方がないとばかりに剣を地面に捨てる。その行為を見ていた兵士達は信じられない表情を浮かべ、自ら武装解除したレイナ達に戸惑う。


最後にレイナはティナとリュコに視線を向けると、二人も頷いて武器を下ろしてくれた。これでレイナ達は戦う意思がない事を伝えるために両腕を上げると、ダイゴロウは判断に迫られた。

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