第737話 アントンの元へ

「だが、他に方法はなかったのか?解除の技能を持つ暗殺者を雇ったり、牢を破壊する方法は試さなかったのか?」

「不可能だ……牢の鍵は魔道具製の鍵にしか反応しない。それに破壊しようにも砲撃魔導士の攻撃魔法でもびくともしない頑丈さを誇る。それでも壊そうとしても必ず奴等が現れて破壊を試みようとした者は処分された」

「そんな事情があったのか……」



アントンの非道をどうして国の上層部が黙って従っていた理由が判明し、彼等もアントンに忠誠を誓っているわけではなく、あくまでも家族を人質に脅されているだけだという。


それでもアントンの凶行を見かねて彼を殺そうとする者もいたが、アントンが危機に晒されると必ずや彼が招いた二人組が現れるという。ここでレイナ達は初めてアントン以外にも彼に協力する人間がいる事を知った。



「さっき、二人と言ってましたよね。甲冑の巨人以外にも誰かいるんですか?」

「……見た目は少年のような風貌をしている。奴はアントン王子の前に急に現れ、客人として迎え入れられた。奴等さえいなければこの国はこんなにおかしくなる事はなかったというのに……!!」

「その二人組は何処にいるんですか?」

「知らん、奴等は急に何処からか現れては問題を起こす……だが、アントン王子が窮地に陥れば必ずや現れるだろうがな」



ダイゴロウの言葉を聞いたレイナ達は頷き、ともかくアントンの元へ向かえばその漆黒の巨人と謎の少年に会える事が判明した。漆黒の巨人の方はケモノ王国で暴れた存在であるのは間違いなく、遂に対面する時が来たのかとレイナは剣を握りしめる。



「私達をアントンの元に連れていけ!!そうすれば奴から鍵を奪い取り、お前達の家族を解放してやろう!!」

「……無理だ、いくらお前達が強かろうとあの甲冑の巨人には勝てん。第一にそんな事をすれば俺達の家族の身が危ない!!」

「でも、そこまで事情を話してくれたのなら貴方達だって本当はアントンに不満を抱いているじゃないんですか?なら、一緒に戦いましょう。家族を救い出しましょうよ!!」

「お、俺達が……」

「耳を貸すな!!失敗すれば自分の命どころか家族も殺されるんだぞ!?」



レイナの言葉に兵士達の何人かが反応しそうになるが、それをダイゴロウが抑える。その様子を見てやはり兵士達を味方に付けるのは無理かとレイナは思った時、ここで城門の方から聞き覚えのある声が響く。



「久しぶりだな、ダイゴロウ大将軍!!私の事を覚えているか!?」

「何!?そ、その声は……」

「リルさん!!それに他の皆も……来てくれたんだ!!」

「レイナ、無事か!?」

「勇者殿のためであれば我等も力は惜しまぬ、さあ、行くぞ皆の者!!」

『おおっ!!』



城門の方から白狼騎士団を率いたリルと、森の民の族長であるカレハが数十名の戦士達を引き連れて駆けつけてきた。その様子を見てダイゴロウと他の兵士達は戸惑い、いきなり現れた獣人族の騎士達と森人族の戦士達に動揺を隠せない。



「ダイゴロウ大将軍!!ケモノ王国の女王がここへ来たことをすぐにアントンとやらに伝えろ!!我々は先王の意思を尊重し、この国との同盟を結ぶために訪れたとな!!」

「リル、女王……まさか、本物なのか!?」

「その通りだ!!昔、貴方ともあった事があるな!!あれは確か、帝国で開かれた宴の席で顔を合わせたはずだ!!」



リルがまだ子供の頃、ヒトノ帝国では皇帝の60才の誕生会で各国の代表が集まり、そこでリルは義弟のガオと共に国王に連れられてダイゴロウと顔を合わせている。


ダイゴロウはリルの顔を見て子供の頃の彼女の面影がある事から本人だと気付き、現在は彼女がケモノ王国の女王になった事も知っていた。だが、そんな彼女が騎士団と森人族の集団を引き連れて城に乗り込んできた事に激しく混乱した。



「ど、どうして其方がここに……」

「どうしても何も、私達を呼び寄せたのは先王だ!!先王は死ぬ前にこの手紙を書き残し、ケモノ王国と巨人国の同盟を提案していた!!我々は彼の意思を尊重し、正式に同盟を結ぶためにこの国へ来たんだ!!」

「国王陛下が……」

「ケモノ王国と同盟だと……」

「そういえばそんな話を聞いた事があるような……」



国王が直筆した手紙をリルは差し出すと、その内容を見てダイゴロウや他の兵士達も騒ぎ出す。彼等が困惑するのも当然の話であり、まさか同盟を求める国の女王が直々に城に訪れたとあらば動揺せずにはいられない。


一方でリルの方も内心は冷や冷やしており、勢いでここまで連れて来られたのはいいが、彼女の行動は問題が多い。まずはレイナ達が城門を破壊して突入した時点で大問題だが、そこから更に許可も得ずに乗り込んできたリルの行動も非常にまずかった。

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