第736話 大将軍ダイゴロウ
「はぁあああっ!!」
「正面から来るとは……愚かなっ!!」
「レイナ様!?」
「レイナ!!」
レイナは正面からダイゴロウに向けて駆け抜けると、それを見たダイゴロウは両手の大剣を振りかざし、正面から振り下ろす。その様子を見てティナとリュコは声を上げるが、頭上から接近してきた大剣に対してレイナはデュランダルとアスカロンの刃を重ねて受け止める。
激しい金属音が鳴り響き、あろうことかレイナはダイゴロウの巨大な二つの大剣を受け止めた。その様子を見て誰もが驚愕し、一番に驚いたのはダイゴロウだった。まさか、自分の全力の攻撃を受け止められるとは思わず、予想外の事態に彼は愕然とした。
「ば、馬鹿なっ!?我が一撃を受け止めただと……」
「ぐぎぎっ……だあっ!!」
「ぬあっ!?」
大剣を受け止めたレイナは力ずくで弾き返すと、自分の大剣が受け止められただけではなく、腕力で弾かれた事にダイゴロウは戸惑う。その一方でレイナは彼に向けて飛び上がると、今度は自分から攻撃を繰り出す。
「兜……割りぃっ!!」
「ぬうっ!?」
「だ、大将軍!?」
「そんな馬鹿なっ!?」
レイナが剣士が扱う「兜割り」と呼ばれる上段から剣を振り下ろす戦技を模倣すると、その攻撃に対してダイゴロウは大剣で受け止めようとした。だが、あまりのレイナの攻撃の重さに二つの大剣が罅割れ、砕けてしまう。
自分の武器が破壊される光景を見てダイゴロウは愕然とするが、その間にレイナは地上へ着地すると、アスカロンを手放して両手でデュランダルを掴み、剣の腹の部分を振りかざし、ダイゴロウの右足に叩き込む。
「だああっ!!」
「ぐああっ!?」
「やった!!」
「……流石だな」
右足の膝にレイナの一撃が叩き込まれ、その攻撃で完全に膝が砕けたダイゴロウは立っていられず、へたり込んでしまう。その様子を見たティナは歓声を上げ、リュコもレイナの強さに褒め称える。
一方で攻撃を受けたダイゴロウは膝を抑えた状態でうずくまり、レイナを見つめる。彼は信じられない物を見るような表情を浮かべるが、レイナからすればダイゴロウはこれまでに戦った相手と比べると強敵とは感じられない。
(最近、海龍やらゴーレムキングやら馬鹿みたいにでかい奴らと戦ったばかりだからな……あいつらと比べたらこの人、あんまり大きく見えなかったな)
最近は巨大な生物と戦う事が多かったせいか、レイナだけはダイゴロウを見ても特に怖気ず、むしろ自分と戦った相手と比べても小さい方なので少し案していた。
ダイゴロウは武器と膝を破壊され、もう戦える状態ではないのは明白だった。しかし、彼は歯を食いしばって無理やりに立ち上がろうとする。
「ぐううっ……!!」
「だ、大将軍!!もうお辞め下さい!!」
「これ以上はもう……!!」
「だ、黙れ……ここで退くわけにはいかんのだ!!」
「……どうしてそこまで」
右膝を破壊されながらもダイゴロウは起き上がると、彼は必死に右膝から血を流しながらも立ち上がり、血走った目を向ける。どんな怪我を負おうと立ち上がる彼の姿にレイナ達は戦慄し、その一方でリュコは疑問を抱く。
「ダイゴロウ大将軍……どうしてそこまで奴のために戦う?アントン如きに男に貴方程の御方が尽くす理由はなんだ!?」
「……私とて、あの御方が正しい事をしているとは思っておらん。だが、逆らうわけにはいかぬ……奴に逆らえば私の孫が、この城に存在する者の家族の身が危ういのだ……!!」
「何ですって!?それはどういう意味ですか!?」
家族の身が危ういという言葉にティナは驚いて反応すると、ダイゴロウは痛みを我慢しながらも事情を説明した。どうしてアントンの非道を他の者が正さないのか、それは少し前に彼に近付いてきた人物のせいだと告げる。
「アントン王子が即位した時、我々は家族を人質に取られた……私は孫を奪われたが、他の者は両親や妻、子供かあるいは恋人を人質に取られている。人質はこの城の牢の中に閉じ込められ、その鍵を所持しているのはアントン王子だけだ」
「家族を人質に……でも、どうして助け出そうとしないのですか?」
「我々も何度も助けようとした!!だが、人質が捕まった牢獄はただの牢獄ではない!!大型魔獣用に設計された特別に頑丈な牢獄だ!!鍵を開けるにしても専用の鍵でなければ開く事は出来ない!!そして鍵を持っているのはアントン王子だ!!」
「鍵……」
ダイゴロウや他の者がアントンに従う理由は彼が人質を閉じ込めた鍵を隠しているからであり、彼等が逆らえない理由は鍵がなければ人質を解放する事が出来ないからだと告げる。
人質が捉えられた牢獄はただの牢獄ではなく、専用の鍵なければ絶対に開かない仕組みとなっており、大型の魔獣を捕縛するために設計された非常に頑丈な牢のため、破壊して助ける事も難しいらしい。
「家族が人質に取られていなければ……いや、アントンの傍にあの二人が現れなければ我々だってあの男に従いはしない!!」
「あの二人……?」
「それはまさか、漆黒の甲冑を纏った巨人の事か?」
「そうだ……どんな時もアントンはあの二人に守られ、手を出す事は出来ない。奴等の強さは異常だ……この俺でさえも子供扱いだ」
ダイゴロウは悔し気な表情を浮かべ、大将軍である彼でさえも漆黒の巨人には手も足も出ず、逆らう事が出来ない事を告げた。
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