第735話 説得開始
「こんな非道が許されるのか!!国王の命令だからといってなんでも言う事を聞くのか!?それは忠誠じゃない、ただの服従だ!!」
「ぐっ……我々だってこんな事はしたくはない!!だが、逆らえば……」
「聞く耳を貸すな!!早くこいつらを捕まえろ!!」
リュコの言葉に兵士の殆どが動揺するが、その中でも将軍らしき格好をした巨人族の男性が怒鳴りつける。彼はリュコに対して剣を引き抜き、振り翳す。
「覚悟しろ、侵入者め!!」
「愚か者が……」
「リュコさん、ここは私がっ!!」
将軍が振り下ろそうとした剣に対してリュコは構えるが、その前にティナが彼女の前に出ると、大剣を身構える。振り下ろされた剣を受け止めると、正面から押し返した。
「はああっ!?」
「うおっ!?」
「なっ!?そんな馬鹿なっ!?」
「将軍の剣が弾かれただと!?」
「人間に力負けするなんて……」
巨人族と人間の間では大きな力の差があるはずだが、ティナは純粋な人間ではなく、ドワーフの血も混じっている。そのせいで彼女は見た目よりも怪力を誇り、将軍を務める巨人族の一撃さえも跳ね返す。
将軍の攻撃を弾いた彼女は今度は自分から大剣を振りかざし、勢いよく踏み込む。体勢を崩した将軍に向けて渾身の一撃を叩き込む。
「せりゃあっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「将軍!?」
「そんな馬鹿なっ!?」
体勢を崩したところに大剣を叩きつけられた将軍は身に付けていた鎧が壊れ、地面に倒れ込む。仮にも国の将軍を務める巨人を叩きのめしたティナに他の兵士達は戸惑う。
「さあ、まだやりますか!?」
「お前達にも良心があるのならば愚鈍な王に従うのは止めろ!!共に戦え、この国の平和を取り戻すのだ!!」
「う、ううっ……」
「簡単に言うな!!お前等はあいつの恐ろしさを知らないからそんな事が言えるんだ……!!」
「あいつ?」
兵士達の言い分にレイナは気にかかり、どういう意味なのかと尋ねようとした時、ここで兵士達を掻き分けて先ほどティナが倒した将軍よりも一回りは大きい巨人が出現した。その姿を見たリュコは驚いた声を上げる。
「まさか……大将軍、ダイゴロウか」
「大将軍……という事はあの有名な!?」
「でかっ……!?」
「ほう、お前達が侵入者か……人間がこの城に入り込むなど久しぶりだな」
ダイゴロウという男性は並の巨人族よりも一回り程大柄であり、年齢は50代程度だと思われた。その背中には巨大な大剣を二つも装備しており、正に大将軍に相応しい威圧感を誇る。
ケモノ王国の大将軍であるライオネルや元大将軍のガームは見た事があるレイナ達だが、その中でもダイゴロウは身体の大きさもあって一番の迫力を誇り、彼は背中の大剣を手にするとレイナ達に刃先を向けた。
「悪い事は言わない、今すぐにここから立ち去るがいい。そうすれば見逃してやろう」
「だ、大将軍!?こいつらは侵入者ですよ!?」
「この国の事を思っての行動だろう。その気持ちはよく分かる……だが、今の状況ではどうしようも出来ん。ここは黙って引き返してくれぬか?」
「……どうして貴方程の方がアントンなどに仕える!?この国の将来を想えばあんな王に任せるのは間違いだと気付いているのだろう!?」
リュコはダイゴロウに対して怒鳴りつけると、その言葉を聞いてダイゴロウは目を瞑り、やがて意を決したように両手の大剣を構えた。
「言葉で説明しても納得はしないだろう。ならば剣で語り合おうではないか」
「大将軍……!!」
「そういう事なら、俺が相手です」
「ほう、人間であるお前が私の相手をするというのか……見上げた根性だ」
剣を構えたダイゴロウに対してレイナはデュランダルとアスカロンを引き抜いて身構えると、その様子を見てダイゴロウは意外な表情を浮かべる。人間の剣士を相手にするのは久しぶりであり、しかも見目麗しい女剣士を相手にするのは数十年ぶりだった。
二人は互いの剣を構え合うと、お互いに距離を見は狩り、緊迫した雰囲気が広がる。ダイゴロウは相対したレイナを見て疑問を抱き、何故か彼は踏み込む事が出来ない。
(何だ、この女子は……本当に人間なのか?)
まるで自分よりも巨大な相手を目の前にしたかのような雰囲気を感じ取り、自分よりも圧倒的に小さいレイナを前にしてダイゴロウは精神的に追い詰められる。大将軍である彼は一度として人間を相手を臆した事はないが、この目の前の少女からは異様な雰囲気を感じとる。
(馬鹿な、この私が精神的に追い詰められているだと!?)
ダイゴロウは目の前のレイナに自分自身が恐れている事に気付き、動揺を隠せない。相手はただの人間であり、普通ならば巨人族と比べれば非力な存在である。だが、それなのにダイゴロウは踏み込む事が出来なかった。
その一方でレイナの方は特に変化はなく、どのようにしてダイゴロウを倒すのかを考え、やがて自ら踏み込む。彼女が近付いた瞬間、ダイゴロウも反射的に剣を振りかざす。
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