第734話 王城へ突入

――ギガンの虐殺が行われた同日、レイナ達も王都へと辿り着いていた。彼女達が到着した時には騒動は既に終了していたが、王城の前には未だに多数の死体が放置されていた。



「な、何だこれは……何があったんだ!?」

「これは……酷いですね、一方的に殺されたようです」

「何てことを……こんなの人のやる事ではありません!!」

「酷すぎる……」



レイナ達は倒れている多数の巨人族の死体に視線を向け、その殺され方は酷かった。力ずくで首をへし折られたり、首や胴体を引きちぎられていたり、酷い人間は全身を引きちぎられた状態で散らばっていた。


人間技とは思えない程に強大な力を持つ存在が巨人族を殺した事は間違いなく、肉体の頑丈さならば人種の中で一番を誇るはずの巨人族がここまで無惨な殺され方をされている事にレイナ達は戦慄する。



「誰が、誰がこんな酷い真似をした!?」

「あ、あんたら……旅人かい?悪い事は言わない、そいつらに手を出すんじゃない」

「何だと!?どういう意味だ?」



放置されている死体を前にしてリュコは嘆くが、そんな彼女に近くに立っていた街の住民が死体に触れないように注意する。こんな酷い殺され方をされた者達を放置した状態で何もしない民にリュコは憤慨するが、彼等も事情があるらしい。



「死体を勝手に動かせば厳しく罰せられるんだよ!!前に殺された家族を見て死体を持ち帰ろうとした奴等もいたが、そいつらは捕まって拷問された上に最終的には磔にされたんだぞ!?」

「そんなっ!?」

「じゃあ、この死体はどうなるんですか?」

「見せしめのために残しておいたんだろ……大丈夫だ、1日も経過すれば死体を処理するために兵士がやってくる。あんたらも迂闊に近づかない方がいいぞ……こんな事はここでは珍しくもないんだ……!!」

「何てことを……」



王都の住民によれば現在の状況はよく見慣れているらしく、今回のような出来事が幾度も繰り返して行われているという。その話を聞いてリュコは増々にアントンに怒りを抱き、レイナ達も放置できなかった。


勝手に死体を葬る事は禁じられ、それに逆らった者は磔にして晒す事で国王は恐怖を民衆に刻み込み、彼等が自分に逆らえないようにさせる。そんなやり方でこの国の民衆を従えているという事に流石のレイナも我慢の限界であった。



「……こんなに腹が立ったのは久しぶりだよ、あの大臣よりもむかつく奴がいるなんて思わなかった」

「レイナさん、気持ちは分かりますが一人で突っ走っては駄目ですよ」

「ですが、私も見過ごせません……!!」

「……あたしは行くぞ」



レイナが心の中で怒りの炎を燃やす中、リュコの方はもう我慢できないとばかりに死体を横切って王城へと向かう。その様子を見てティナも止める事が出来ず、レイナもその後に続く。その様子を見てティナはため息を吐きながら3人に問いかける。



「まさか、このまま3人だけで城に乗り込むつもりですか?」

「そうだ、あの愚鈍な王を殴り飛ばさないとあたしの気は晴れない!!」

「落ち着いて下さい……なんて言っても無駄でしょうね、そういう事なら先に向かってください。私も準備を終えたら手伝いに駆けつけますから」

「……頼んだよ、リリス」



リリスの言葉を聞いてレイナは鞄からフラガラッハとアスカロンを取り出し、装備を行う。ティナも自分の大剣を握りしめ、リュコは闘拳を装着する。その様子を見てリリスは自分では3人を止められないと悟り、彼女は背中を後押しした。



「気を付けてくださいね、出来る限り急いで援軍を呼びますから」

「頼んだよ……じゃあ、行こう二人とも」

「ああっ!!」

「はいっ!!」



レイナはデュランダルを引き抜くと、たった3人だけで王城の城門の前に立ち、聖剣の力を発揮して城門の扉を破壊した。



「吹き飛べっ!!」



デュランダルの刃を振動させ、フラガラッハの「攻撃力9倍増」の効果も加わり、レイナが大剣を振り下ろした瞬間に強烈な衝撃波が城門を襲う。


衝撃波によって巨大な扉は破壊され、出入口が開け放たれる。轟音を耳にした兵士達は何事かと慌てて駆けつけると、そこには破壊した扉を乗り越えて城の中に入り込むレイナ達の姿が存在した。



「国王!!聞こえているか!?姿を現せ!!」

「自国の民にあのような酷い真似をするなんて……決して許しません!!」

「出て来い!!この……馬鹿国王!!」



3人の怒声が響き渡ると、その声を聞いていた者達は慌てふためき、即座に城内の兵士達が駆けつける。流石に王都の王城なだけはあって相当な数の兵士が警備しており、数百人の巨人族の兵士が集まってきた。



「貴様等!!何者だ!?ここを何処だと思っている!?」

「やかましい!!貴様等の方こそ何を考えている!?この酷い有様を見ろ、この光景を見て何とも思わないのか!?」

「そ、それは……」



リュコは城門の前に倒れている無数の死体を指差すと、兵士の殆どが顔色を変え、彼等も死体の惨たらしさに目を合わせられなかった。そんな兵士の様子を見てレイナは兵士の中にはアントンのやり方に納得していない者も多数存在する事を知り、説得を試みた。

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