第733話 巨人国の秘宝
――しばらく時間が経過した後、宴の席にてアントンは兵士からの報告を受けた。それはギガンが押し寄せてきた民と反抗に加わった兵士を殺したという報告だった。
「陛下、反乱を企てた者の大半は死亡し、残った者は逃げ去りました……」
「ふん、そうか……」
「陛下!!どうしてあのような者達を受け入れたのですか!?いくら陛下の命令といえど、あんな虐殺者共をこの城に置くなど正気の沙汰ではありませぬ!!」
「……下がれ」
アントンは兵士の報告を受けても顔色一つ変えずに酒を飲み込み、その様子を見てこの国はもうお終いだと家臣は悟った。このままアントンが国の頂点に立ち続ければこの国は終わる、そう考えた家臣の一人は机の下に隠していた短剣を取り出す。
「陛下、御覚悟を!!」
「っ……!?」
思い至った家臣の一人が短剣を取り出すと、アントンの元に駆け出して彼の心臓を突き刺そうとした。しかし、それに対してアントンが動く前に家臣の背後から剣で貫かれた。
「ぐああっ!?」
「なっ!?」
「ば、馬鹿なっ!?」
「くっ……お、驚かせおって!!守るのが遅いぞ!!」
「申し訳ありません、陛下」
家臣の男を後ろから剣で刺したのは先ほどの少年であり、いつの間にか戻っていたのかその手には漆黒の剣が握りしめられていた。家臣の男は自分よりも小柄な少年に背中を刺されたという事実に信じられない表情を浮かべる。
突如として姿を現した少年は柄の部分を握りしめると、やがて背中を貫かれた家臣の男の肉体に異変が生じ始めた。刺された箇所から肌が黒色化していき、やがては全身が黒く染まっていく。
「ああああっ……!?」
「な、何を!?」
「止めろ!!止めるんだ!!」
「陛下に逆らった反逆者を見逃せと?」
他の家臣が少年を止めようとしたが、それに対して少年は聞く耳を持たず、やがてアントンの暗殺を企てた男は全身が黒く染まった瞬間、灰と化して消えていく。やがてその灰も消え去ると、残されたのは漆黒の剣を構えた少年の姿だけだった。
かつて剣聖のツルギは魔剣「紅月」で他者の血を吸い上げ、その生命力を奪う力を持っていた。しかし、この少年の持つ剣の場合は命その物を消し去る力を持ち、その力は聖剣にも匹敵するか、あるいはそれ以上の力を持つ。
「陛下、邪魔者は排除致しました」
「そ、そうか……ご苦労だった。何か褒美を渡そうか」
「……では、巨人国の秘宝と呼ばれる「ドラゴンスレイヤー」を拝見させて貰ってもよろしいでしょうか?」
「何……?」
「ドラゴンスレイヤー……だと!?」
少年の言葉にアントンは戸惑い、他の者達もざわつく。確かにこの国には巨人国が建国した頃から伝わる武器が存在し、国宝として扱われている。しかし、その武器は長き時を経たせいで錆びてしまい、もう武器としての価値は存在しない。
この世界には神話上の武器と同名の武器はいくつか存在するが、その製作者は地球から転移した勇者である。だが、巨人国に伝わるドラゴンスレイヤーに関してだけは勇者は関与しておらず、この巨人国を建国した男、つまりはアントンの先祖が作り出した代物である。
「遥か昔、上位竜種を打ち破ったという伝説の大剣……その剣の居場所をどうか教えてください」
「あんな物が気になるというのか?まあ、いいだろう……ドラゴンスレイヤーはこの城には存在しない。あの大剣が存在するのは王家の人間だけが立ち入る事が許されるホムラと呼ばれる火山の麓にある洞窟の奥にある」
「陛下!?いけません、それは他人に口外しては……」
「お前達は黙っていろ!!俺が襲われそうになった時に何もしなかったくせに!!」
国王の言葉に慌てて家臣たちは止めようとしたが、ドラゴンスレイヤーの居場所をアントンは少年に教えてしまい、その言葉を聞いた少年は頷くと頭を下げて立ち去る。
「失礼しました」
「……ふん、変わったガキだ」
アントンは少年の後ろ姿を見送り、不気味な事に視界に少年の姿が映っているというのに彼を目の前にしても気配は全く感じられず、それどころか足音さえも立てない。まるで幽霊を相手にしているような気分に陥るが、気を取り直してアントンは宴を再開した――
――しかし、後にアントンは少年にドラゴンスレイヤーの居場所を教えた事を激しく後悔する事になる。
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