第732話 剣の魔王の右腕
――甲冑の巨人の名は「ギガン」と呼ばれ、生前は剣の魔王の配下の中でも最強の一角として恐れられていた。ギガンは全身に甲冑を見に包み、その圧倒的な腕力だけで魔王の右腕の座に収まった。
ギガンは剣の魔王の配下の中でも唯一の格闘家であるが、実際の所は彼の戦い方は格闘家というよりもまるで野人のように暴れまわるしか戦い方を知らない。小手先の技術など捨て、力任せに暴れる事しか出来ない。
そんな戦い方でも魔王の右腕の座に就けたのは彼が規格外の強さを誇ったからでもあるが、彼が身に付けている甲冑も関係していた。渾名の代名詞でもある甲冑はギガンにとっては身を守る防具ではなく、破壊のための兵器と言える。
『ウオオオオオッ!!』
「く、来るぞ!!全員、抑えつけろ!!」
「これ以上好きにさせるか!!」
「何としても民を守るんだ!!」
巨人族の兵士達はギガンの前に立ちふさがり、彼から民衆を守るために彼等は武器を構えた。それに対してギガンは怖気もせず、両腕を広げて突っ込む。
数名がかり兵士達はギガンを止めようとしたが、彼を抑えつける所か数人がかりでもギガンの突進は止められず、逆に押し込まれてしまう。兵士の中でも力自慢の者達が集まっているにも関わらず、ギガンは怯むどころか抑えつける事も出来なかった。
「ば、馬鹿なっ!?」
「な、何だこの力は!?」
「あ、あり得ない!!」
『フンッ!!』
ギガンは数名の兵士を押し寄せると、彼等を振り払いながら民衆の元へ向かう。そんな彼をどうにか止めようと兵士達は絡みつくが、ギガンは全く歩みを止めない。
「くそっ!!止まれ、止まれっ!!」
「な、何なんだこいつは!?」
「どうして……止まらないんだ!?」
『ウットウシイッ!!』
自分に絡みついて止めようとしてくる兵士を振り払い、遂にギガンは民衆の前に立つ。彼の前には数百人の巨人族とドワーフが立ちふさがるが、それを見てもギガンは怯まず、それどころか興奮したように両腕を開く。
『カクゴシロ……!!』
「ひ、ひいっ!?」
「何なんだこいつ!?」
「怖気づくな!!全員でかかればこんな奴……!!」
「待て、早まるな!!そいつに手を出すんじゃない!!」
血気盛んな男達はたった一人で挑もうとしてくるギガンに対して手持ちの武器を構え、戦う覚悟を決める。いくら相手が鬼のように強いと言っても数の利はこちらにあり、全員で挑めば勝機はあると考えた。
しかし、武器を手にした者達を前にしてもギガンは怯みもせず、それどころか両腕を広げて堂々と隙を晒す。そんな姿を見た者達は挑発のつもりかと思い込み、一斉に攻撃を仕掛けた。
「このっ……図に乗りやがって!!」
「こいつを倒せば全部終わるんだ!!」
「やっちまえっ!!」
『コイッ……ザコドモガッ!!』
槍を手にした者達が前に出ると、ギガンに対して槍を突き出す。周囲から同時に繰り出された槍はギガンへと衝突し、鎧越しにギガンの肉体に衝撃が走る。いくら甲冑で身を守っても衝撃だけはどうしようも出来ず、並の人間ならば耐え切れなかっただろう。
「なっ!?」
「そ、そんな……」
「槍がっ!?」
『……ソノテイドカ』
だが、攻撃を仕掛けた側の槍の方が呆気なく砕け散ってしまい、一方でギガンの方は特に変化はなく、何の影響も受けていない様子だった。彼は自分の足元に転がった槍の破片を踏み潰し、本格的に攻撃を開始した。
『ガアアアアッ!!』
「うわぁっ!?」
「ぎゃあああっ!?」
「に、逃げっ……ああっ!?」
あろうことかギガンは近くに存在した二人の巨人の顔面を掴むと、恐ろしい握力で締め付け、圧倒的な腕力で持ち上げる。二人の巨人を持ち上げたギガンは信じられない力で振り回し、他の巨人を蹴散らす。
ギガンの腕力は巨人族の域を超えており、彼は軽々と巨人を振り回すと他の者に対して放り投げる。その結果、投げ飛ばされた巨人に衝突した者達は倒れ込み、あまりの衝撃に身体の骨が折れ、立ち上がれなくなってしまう。
『フンッ!!』
「うぎゃあっ!?」
「は、離して……わああっ!?」
「に、逃げろ!!こんなの勝てるわけがねえっ!?」
次々と捕まった巨人は投げ飛ばされ、他の者を巻き込んで倒れ込む。ギガンは巨人を捕まえる時は確実に頭蓋骨を粉砕する勢いで握りしめ、投げ飛ばされた巨人は絶命は免れない。
腕力が最も優れた巨人族を相手にギガンはその腕力を踏みにじるような強大な力で次々と排除していく。その姿を見た者は戦意を失い、逃げる事しか出来なかった。兵士達も必死に止めようとするが、仮に邪魔をすれば兵士であろうと容赦なくギガンは殺す。
「お、おのれ!!もうて見ていられん!!」
「止めろ、止めるんだ!!」
「この化物がっ!!」
『フンッ……ナラバ、オマエタチモシネ!!』
この日、ギガンは数十人の一般人と兵士を虐殺し、その噂は王都に知れ渡る。この話を聞いた者達は増々に逆らう気力を失い、下手に歯向かえば自分達も彼等と同じ運命を辿る事を嫌でも認識した――
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