第731話 巨人国の王都

――巨人国の王都に存在する王城、ヒトノ帝国やケモノ王国の城をも上回る敷地を誇り、正確に言えば城というよりも「要塞」という言葉が相応しい。


王都の3分の1近くを占有する程の広大な城には新たな国王となったアントンが君臨し、彼は王の権力を利用して好き勝手に生活をしていた。民衆に重い税を課し、民から搾り取った金を利用して彼は毎日のように宴を開く。



「ははははっ!!どうしたお前達、もっと騒げ!!楽しめ!!金ならいくらでもあるのだぞ!!」

「こ、国王様……どうか、もうこれ以上はお辞め下さい!!こんな事をして何の意味があるというのですか?」

「やかましいぞ宰相!!お前は黙っていろ!!」



アントンの前には家臣が勢揃いしており、彼等の前には豪勢な食事が山のように並べられ、更には大勢の見目麗しい女性が集まっていた。だが、家臣の殆どは顔色が悪く、アントンを諫めようとする。



「陛下!!またもや城の前に民衆が集まって抗議を訴えています!!」

「それだけではありません、城内の兵士が次々と離脱しております!!このままでは城の守りが……」

「ふん、愚かな者どもめ……おい、そこの……名前はなんと言ったか?」

「名乗っておりません、国王陛下」



兵士の報告を聞いたアントンは面倒くさそうに自分の近くに控える漆黒のマントで全身を覆いつくした人物に話しかける。その人物は外見は子供のように小さく、顔の中身も見えないが、少年のような声音をしていた。



「まあ、名前などはどうでもいい。また俺に逆らう者が現れた、どうにかしてくれるか?」

「陛下の頼みならばすぐにでも……」

「よし、やれ」

「へ、陛下!!お待ちください、彼等は何も陛下に逆らったわけでは……」

「やかましい!!俺に歯向かう者は全員容赦せん!!」



少年が従うと、その場を立ち去り、他の者は顔色を青くして陛下を引き留めようとした。だが、アントンは聞く耳を持たずに酒を飲む――






――城の前には大勢の巨人族の民衆が集まっており、その中には王都の民だけではなく、他の街から訪れた住民も含まれていた。更に彼等の中には兵士も混じっており、抗議を行う。



「国王を出せ!!」

「税金を取り下げろ!!」

「私達の事を何だと思ってる!?」

「ここを開けろ!!」



城門の前に数百人の巨人が押し寄せ、その中にはドワーフも多数含まれていた。彼等は重い税金のせいで生活を追われ、このままでは生きていけない者ばかりだった。


城壁には兵士も多数配備されているが、彼等は民衆を抑えつけるのが精いっぱいであり、申し訳なさそうな表情を浮かべる。彼等とて国王のやり方に納得しているわけではないが、それでも通すわけにはいかなかった。



「お前達、気持ちは分かるが今すぐに解散するんだ!!これ以上ここに残れば命はないぞ!?」

「命はないだと!?俺達を殺すつもりか!?」

「お前等、それでも国を守る兵士かよ!!」

「違う!!お前達の命を奪うのは我々ではない!!いいから早く逃げるのだ!!」

「いったい何を言って……うわぁっ!?」



城門に押し寄せてきた民衆を兵士達は必死に引き返そうとするが、その時に城門が内側から開かれ、やがて漆黒の甲冑を身に纏った巨人が出現した。その光景を見て兵士達は目を見開き、民衆は戸惑う。



「な、何だあいつは……」

「ちょっと待て、あの格好……まさか、噂に聞く甲冑の……!?」

「本当に存在したのか……」

「だ、駄目だ!!お前達、早く逃げろ!!殺されるぞ!?」

「お辞め下さい、この者達は我々で対処します!!どうかお引き取り下さい!!」

『…………』



甲冑の巨人が出現すると、民衆を止めようとしていた兵士達は立ちふさがり、すぐに戻るように促す。だが、それに対して甲冑の巨人は黙々と歩き、やがて兵士達の前に移動を行う。



「うっ……ど、どうかお引き取りを」

『ドケ、ドカヌナラ……オマエタチモコロスゾ』

「ひいっ……!?」



巨人族は気の強い性格の持ち主が多いが、兵士達は甲冑の巨人が放つ異様な威圧感に後退る。だが、ここで勇気ある兵士の一人が甲冑の巨人の背後に近付き、後ろから抑えつけようとした。



「こ、このぉっ!!」

「なっ!?お前、何を……」

「こんな奴に従うの何てもう御免だ!!皆で力を合わせるんだ、そうすればこんな奴……!?」

『……イイダロウ、ソレナラバミナゴロシダ』



甲冑の巨人は力ずくで巨人族の兵士を引き剥がし、その光景を見て他の者達は戦慄した。巨人を相手に腕力で買った甲冑の巨人は咆哮を放つと、その声を聞いただけで巨人達は身が震える。


まるで小動物が大型の肉食獣に相対したかの様な感覚へと陥り、彼等は震えが止まらない。そんな巨人達に対して甲冑の巨人は虐殺を開始した――

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