第730話 法外な税金

「ほら、飲みな……最初の一杯は俺の奢りだ」

「奢りって……」

「ただの水じゃないですか?」

「悪いが今ではただの水でも金を取らないといけなくなったんだよ」



店主から渡された水を飲んだレイナは、別に何か特別な水とは思えず、普通の店ならば無料で提供する水でもこの酒場では金を取るという。正確に言えばこの酒場以外の飲食店も現在はただの水でも金を取るらしい。



「水を飲むだけでも銅貨1枚を支払ってもらってるんだ。それぐらいしないとうちも店を経営できない程に追い詰められていてな……」

「追い詰められているって……どういう意味ですか?」

「新しい国王の野郎が馬鹿げた額の税金を要求してきたんだよ。この国では他の国と比べて税金は少ない方だったが、今では前の税金の5倍以上だ」

「5倍!?そんな法外な税金を支払わされているんですか!?」



ドワーフの店主によると現在の巨人国の民は法外な税金を支払わされているらしく、そのせいでどの店も法外な値段で商品の売買を行うしかない状況に追い込まれていた。



「例年の税金の5倍だと……そんな事が許されるのか?」

「許されるもなにも、この国の王様の命令だ。俺達にはどうしようも出来ねえよ」

「それでもそんな法外な税金を支払い続けて生活できるんですか?」

「無理、だろうな……うちの店も来月分の税金を支払えなければ今月で潰れる始末だ」

「どうして抗議しないんだ?この国の民衆が力を合わせればそれぐらいは出来るだろう?」



話を聞いていたリュコは納得できない表情を浮かべ、巨人国の民衆は他の国と比べれば数は少ないが、それでも力を合わせれば抗議出来ないはずがない。法外な値段を要求してくる国に対して不満を抱く者も大勢いると思われるが、店主は首を振った。



「無駄だ……確かに最初の頃は反発する奴等も多かったさ。だが、今ではもう誰一人として国王に逆らう奴等はいない」

「何故だ!?どうして逆らおうとしない!?そんなに国王が怖いのか!?」

「簡単に言うんじゃねえっ!!俺達だって好きであんな奴に従っているわけじゃないんだよ!!」

「そうだそうだ!!」



リュコの言葉に周囲で飲み食いしていた巨人達も騒ぎ出し、彼等も国王の貸した税金の重さに反発し、逆らおうとはしたらしい。だが、彼等は国王に逆らえない理由があった。




――事の発端は第一王子が死亡し、第二王子が行方不明になったと、アントンが王位に即位した事から始まる。彼は即位した直後に民衆に対してこれまでとは比べ物にならない程の重い税金を課す。




当然だがアントンのやり方に民衆は納得いかず、大勢の巨人が集まって彼に抗議しようと王都の王城まで押し寄せた。しかし、アントンはそんな彼に対して恐ろしい戦士を派遣し、抗議に訪れた巨人を蹴散らす。


その戦士というのが漆黒の鎧を身に付けた巨人の如き体躯の戦士らしく、数十名の巨人が束になって挑んでも勝てず、返り討ちにしてしまう。その結果、抗議に訪れた巨人は返り討ちにされ、捕縛されてしまう。


捕まった巨人は数日は拷問され、税金を支払う事を約束させられると解放された。拷問によって変わり果てた彼等のを姿を見て税金に不満を抱いていた者達も戦意を失い、仕方なく従うしかなかったらしい。



「漆黒の鎧を纏った巨人だと……!?」

「ああ、そうさ……いったい何処から連れてきたのか分からないが、そいつのせいで誰も逆らえなくなった」

「屈辱だぜ……どんな野郎かは知らないが、まさか数十人がかりで挑んで負けるなんて普通ならあり得ねえ」

「あいつの強さは異常だ。俺達だってあの野郎がいなければこんな目に遭わずに済んだのによ……」



話を聞いていたレイナ達は顔を見合わせ、漆黒の鎧を纏った巨人という話を聞いて真っ先に思いついたのはケモノ王国内で出現した剣の魔王の配下だった。


巨塔の大迷宮にて唐突に出現したという漆黒の巨人、その後を追いかけた際、レイナ達は剣の魔王の配下だと知った。結局はケモノ王国内では探し出せず、姿を消してしまったが、まさかこの国に現れた甲冑の巨人と同一人物である可能性も出てきた。



「漆黒の巨人ですか……これは調べてみる必要がありますね」

「まさか、巨人国にも魔王軍の手が……?」

「……王都へ向かうぞ!!今すぐにだ!!」



故郷の危機だと知ってリュコはいてもたってもいられず、その甲冑の巨人が存在するという王都へ向かう事を決意した。レイナ達も彼女の意見に賛成し、急遽レイナ達は巨人国の内情を調べるのを中断し、王都へ向かう事にした――

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