第729話 元気のない民

――巨人国へと帰還したリュコは久しぶりに戻ってきた故郷を確認し、その変わり様に驚いていた。少なくとも彼女が暮らしていた時と比べ、明らかに人々は活気を失っていた。



「……いったいどうなっている、ここが私の国だというのか?」

「なんか皆さん、元気がありませんね」

「そうですね……体調が悪いようにも見えます」

「う〜ん、これも新しい国王のせいなのかな……」



巨人国へ入国したのはリュコ、ティナ、リリス、そしてちょっと久しぶりにレイナの姿へと変化したレアだった。勇者レアとして中に入り込むのはまずいため、今回は最初の頃の様に19才の女性の姿で中に入り込む。


この姿の状態で他の面々も顔を知られているかもしれない事を想定し、化粧道具を利用して外見を少しだけ変化している。変装を行うのは銀狼隊のリル、チイ、ネコミンの得意分野でもあり、3人に頼んで現在のレイナ達は知り合いと出会っても簡単にバレる事はない恰好をしている。



「それにしてもレイナさん、意外と褐色肌が似合いますね。これからは黒レイナさんと呼びましょうか」

「嫌だよ。でも、名前の方は人前では偽名を使った方がいいかな……」

「それもそうですね、何しろ私以外は全員が黄金冒険者ですし、他国にも名前が知れ渡っているかもしれません」



レイナの言葉にリリスは肯定し、この国に滞在する間はそれぞれが人前では偽名を使う事にする。今回のレイナ達の目的は巨人国の様子を伺う事であり、新しい国王の事を調べるつもりだった。



「あのアントンが国王になったなど未だに信じられない……しかも長男が死亡し、次男の兄が行方不明というのは出来過ぎている」

「国王が死んだ後に御二人も急にいなくなられたんですよね?それならアントンという人が何かした可能性がありますね」

「まさか、実の兄を殺して王位を奪ったのですか……!?」

「そんなに珍しい話じゃありませんよ。少なくともうちの国だって似たような物じゃないですか」



リリスの言葉にティナは黙り込み、ケモノ王国でもリルとガオが王位を争っていたのは事実である。巨人国の場合は一番下の弟のアントンが2人の兄を消してまで王位を奪い、この国を手にしてしまう。


国境を越えて国内に入り込んだレイナ達は適当な街に赴き、巨人国の内情を調べようとした。だが、分かった事と言えば民が異様なまでに元気がなく、街を守る兵士達でさえも顔色が悪い。



「うわ、なんですかこれ……」

「どうしたの?」

「ほら、これを見てください……宿屋の宿泊料が相場の倍以上の値段ですよ。食事なしで泊まるだけでも一人当たり銀貨3枚も要求しています」

「宿泊だけで銀貨3枚だと……?」

「……高級宿屋のようには見えませんね」



レイナ達は今日泊まる宿屋を探している途中、彼女達は寂れた宿屋を発見し、店の前の看板の料金表を確認すると泊まるだけでも銀貨3枚も支払わなければならない事に眉をしかめる。


ケモノ王国の王都の宿屋でもこれほどの値段の宿屋は存在せず、少なくとも食事無しで泊まるだけならば高級宿屋でも銀貨1、2枚程度である。だが、明らかに高級宿屋には見えない普通の宿屋が銀貨3枚も要求する当たり、この国の物価が上がっている可能性があった。



「食事つきの場合だと銀貨5枚、か……これだけの値段となると長期滞在も難しいな」

「仮に10日宿泊する場合は金貨5枚ですか……日本円で換算すると50万ぐらいですかね」

「50万……」



リリスの言葉にレイナは冷や汗を流し、明らかに物価がおかしくなっていた。店の中に客がいないのもこの馬鹿げた値段のせいだと思われるが、他の宿も似た様な有様だった。



「駄目ですね、何処の宿屋も同じぐらいの値段です。一番高い所だと金貨単位ですよ」

「そんな宿屋、泊まれるわけないのに……」

「それほど追い詰められているんですかね……法外な値段で商売しなければならないほど、重い税金でも課せられたんですかね」

「……酒場に行きませんか?そこなら人もいるかもしれませんし、情報が集まるかもしれません」



ティナの提案にレイナ達は賛同し、とりあえずは酒場へと赴く事にした。酒場に行けば何か情報を得られるかもしれず、宿を確保する前に食事を行う事も兼ねて酒場へ向かう。


この街の中でも一番大きな酒場へと辿り着いたレイナ達は中に入り込むと、客足は少ないがそれでも十数名の巨人が酒場内で飲み食いしており、酒場の店主はどうやらドワーフが担当しているらしく、カウンター内から椅子の上で立った状態で接客を行う。



「いらっしゃい……こいつは珍しいな、観光客か?」

「ええ、まあ……そんな感じです」

「私は里帰りだが……」

「そうか、なら運が悪かったな。今の時期にこんな国に来ちまうとは……」

「どういう意味ですか?」



ドワーフの店主はレイナ達が観光客だと知ると憐れみの表情を浮かべ、とりあえずは全員が席に着くと、何も言わずに男性はグラスを用意して水を入れて振舞う。

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