第728話 新国王アントン

「あのアントンが国王だと……なんてことだ」

「リュコさん?アントンという御方の事を知っているんですか?」

「……国王の息子の中でも一番に問題を起こしている男だ」



リュコはアントンという名前を聞いて表情を渋くさせ、彼女はアントンの事を知っているらしく、先王の息子たちの中でも一番に国王になってはならない性格の男だと語る。



「アントンは子供の頃から気性が荒く、国王の息子という立場で好き勝手してきた。国王の3人の息子の内、一番最後に生まれた王子だ。アントンは若い頃から様々な問題を起こし、国王から王位継承権を剥奪されていたはずだ」

「どんな人ですかそれ……」

「ガオ王子でもそこまで酷くはなかったぞ……」



アントンは巨人国の王子でありながら昔から色々と問題を起こし、王子でありながら彼は王位継承権を剥奪されている。リルの弟であるガオも似たような立場ではあるが、ガオの場合は味方となる人物が多くいた。


だが、アントンの場合は彼を支持する者はおらず、王子という立場を利用して好き勝手に振舞ってきた。そのせいで民衆からも彼の人気は低く、本来ならば国王になれるはずがない存在だった。



「どうしてアントンを国王になる事を許した!?他の二人の王子はどうした!?」

「そ、それが……本来継承するはずであった第一王子は事故死し、第二王子の方も現在は行方知れずとなり、必然的に王家の血を継ぐアントン様が国王になられたのだ」

「な、何だと!?第一王子が死んだ……!?」

「それに第二王子まで行方不明なんて……そんな偶然、あり得るんですか?」

「まさか……暗殺?」



本来ならばアントンよりも王位に相応しい二人の王子はいなくなり、そのせいでアントンが国王の座を継いだという。アントンが国王になった事で現在は彼に逆らえる者はおらず、兵士達もアントンの命令に従ってケモノ王国から派遣された使者は追い返す様に指示を受けていた。



「どうか、皆様もすぐにこの場を立ち去って下さい。アントン様は王国の使者が訪れても絶対に中を通すなと言われております。最悪の場合、力ずくで追い返せとも……」

「なんて事を……仮にも国の使者を門前払いなんて許される事じゃありませんよ?」

「それは我々も承知しております。しかし、ここを通す事は出来ないのです……どうか、ご理解ください」



隊長の男性は深々と頭を下げ、その様子を見て彼も本当に申し訳ないと思っている事が伝わる。国王になったとは言え、兵士達もアントンに従う事に不満を抱いている事はひしひしと伝わるが、この国にアントン以外に王位を告げる者はいない以上はどうしようもない。



「……どうしますか?戻るだけならすぐに戻れますけど、このまま引き返しますか?」

「どうすると言われても……チイはどう思う?」

「このまま引き返す事など出来るか!!我々は断固として抗議する!!国王に我々が着た事だけでも伝えろ、その上で追い返すつもりなのかを問う!!」

「そ、それは勘弁して下さい!!もしもアントン様に逆らえば我々の命が……」



チイは巨人国の対応に納得がいかず、せめて国王に抗議しようとするが、国境の兵士達はそんな事を伝えれば自分達の身が危うくなるので必死に引き留めようとした。


アントンに逆らう者は誰であろうと許されず、国境の守護を任されている兵士達は頑なにレア達を通そうとはしない。その様子を見てこれでは埒が明かないと判断したリュコが提案を行う。



「……国からの使者を通す事が出来ないのであれば、観光客として迎え入れるのはどうだ?」

「リュコさん?それはどういう意味ですか?」

「言葉通りの意味だ。あたしとしても巨人国の内情は知っておきたい、だから今から護衛の任務を解いてくれ。私は故郷に里帰りに来たという名目ならば通してくれても構わないだろう」

「え?いや、まあそれなら……」

「なるほど、そういう事なら私達も観光客として入る分には問題ないですよね」



リュコの言葉に巨人族の隊長は否定せず、彼等は追い払うように言われているのはあくまでも王国からの使者であり、他の者は通すなとは言われていない。


リュコは里帰りのために帰ってきたのならば問題なく入れ、他の人間も観光目的ならば入っても問題はない。但し、白狼騎士団の面々が入るのは色々と問題があるため、この中に入れるのは白狼騎士団に所属していないリュコ、ティナ、リリスの3名だけである。



「分かりました、それなら白狼騎士団の方々はここで退き返して貰いましょうか。私達は巨人国へ観光してから帰りますから」

「何だと!?このままおめおめと帰れというのか!?」

「いいからいいから、後は私達に任せてください。そこの兵士さん、勇者と騎士団の人たちは帰しますから私達は中に入れてくださいよ。それなら問題はないでしょう?」

「あ、ああ……我々が指示されたのは王国の使者を追い返せという命令だけだ。それならば問題はない」

「という事なので後は私に任せてください……あ、でもちょっと準備をさせてくださいね」



リリスは何かを思いついたのか兵士達の元を離れると、レアの耳元にぼそぼそと話しかける。彼女の話を聞いたレアは渋い表情を浮かべたが、背に腹は代えられず、彼女の提案を受け入れる事にした――

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