第725話 シュンの変貌
――魔剣を手に入れて以降、シュンはレベルを上げるために大迷宮に毎日のように潜り込む。彼は大迷宮の最下層に赴き、ロックゴーレムを相手に魔剣を振り続けた。
「このぉっ!!」
「ゴアアッ!?」
「ゴオオッ!!」
ロックゴーレムの群れに対してシュンは魔剣カグツチを振りかざし、次々と切りかかっていく。カグツチで斬られた敵は黒炎が襲い掛かり、岩石の外殻すらも溶かす。
「シュンさん!?一人で突っ込んでは駄目です!!」
「あ、危ないよ!?」
「何してんだ馬鹿!!」
「……また君達か」
大迷宮に潜っているのはシュンだけではなく、アリシアやヒナやシゲルも同行していた。シュンは一人でも十分だと考えていたが、大切な勇者の身に何かあれば危険のため、国王は他の勇者2人とアリシアを送り込む。
古王迷宮の最下層は帝国で最も危険地帯であるため、そんな場所に一人で潜り込むなど普通ならば自殺行為に等しい。だが、魔剣カグツチの力を完全に使いこなすため、そしてレベルを上げて一刻も早く強くなるためにシュンは戦い続けた。
「君達は下がっていろ!!こいつらは僕だけで十分だ!!」
「シュン、てめえっ……」
「危険過ぎます!!」
「や、止めてよシュン君!!」
シュンは一方的にロックゴーレムの群れに切りかかり、次々と黒炎がロックゴーレムへと襲い掛かり、全身へと燃え移って溶かしていく。それは最早戦闘ではなく、一方的な虐殺であった。
「はああっ!!回転!!」
『ゴガァッ!?』
「うわっ!?」
「危ない!!」
「くそっ!?」
身体を一回転させながらシュンはカグツチを振りかざすと、黒炎が周囲に放たれ、危うく彼を助けるために近付いたシゲル達にも燃え移る所だった。寸前でアリシアが反応してヒナを守り、シゲルはどうにか反応出来て避ける事に成功した。
カグツチから放たれる黒炎はただの炎ではなく、生物に付着すれば全身に燃え広がる。しかも普通の炎と違って簡単に消す事は出来ず、水を浴びても消えないどころか仮に消火しても傷跡は簡単には治らない。
刃から放たれる「黒炎」の正体は闇属性と火属性の魔力で構成された炎であり、普通の炎とは比べ物にならない力を持つ。本来は火や熱に強いロックゴーレムでさえも餌食にされていた。
(まだだ、もっと魔剣の力を引き出せるはずだ……!!)
ロックゴーレムを倒し続け、体内に存在する核を破壊する事に魔剣カグツチはまるで力を吸収するかのように日に日に「黒炎」の威力が増していた。それと同時にシュン自身も確実に経験値を得てレベルを上げる。
「うおおおおっ!!」
「くそ、この馬鹿野郎がっ!!」
「……ここを離れましょう。巻き添えを喰らう前に」
「シュン君……」
あくまでも一人で戦おうとするシュンに対してシゲルは悪態を吐き、それを見ていたアリシアは仕方なく巻き込まれないように撤退を提案する。そしてヒナはシュンの変わりように戸惑い、不安を抱く。このままシュンを放置すれば大変な事態に陥るのではないかと思わずにはいられなかった――
――それから数時間後、最下層で魔物を狩り続けてきたシュンはやっと大迷宮から抜け出す。だが、その時の彼は全身に魔物の血を浴び、鬼気迫る表情を浮かべていた。彼が倒したのはロックゴーレムだけではなく、他の階層の魔物達も餌食にしていた。
「……今、戻ったよ」
「お、お帰りなさいませ……シュン様」
「そ、その……国王様がお呼びです、後で玉座の間の方へお越しください」
「……今日は疲れたからね、明日にさせてもらうよ」
「ひっ……は、はい。そう伝えておきます」
城に戻った時の彼を見て兵士達は怖気づき、今現在のシュンは異様な雰囲気を纏っていた。以前のシュンは好青年でレアが有名になる前は勇者の中で最も優れた存在として慕われていた。
しかし、現在のシュンは以前とは全く雰囲気が異なり、近づいくだけでも恐ろしい程の威圧感を放っていた。その姿を見た兵士や使用人は怯えて距離を置き、誰も近づこうとはしない。
国王でさえも最近のシュンの勝手な行動を咎める所か、あまりの彼の気迫に文句も言えず、呼び出して注意しようにも当のシュンは碌に話を聞かない。それは他の勇者も同じことであり、城へ戻ってきたシュンの前にシゲルが現れる。
「シュン……お前、やっと戻ってきたのか」
「シゲルか……今日は疲れてるんだ。もう休ませてもらうよ」
「待てよ、まだ話は終わってないぞ!?」
「……何度も言わせないでくれ」
「うっ……」
シゲルはシュンのあまりの物言いに文句を付けるが、それに対してシュンは睨みつけると、その迫力にシュンは気圧され、何も言えなくなってしまう。
「僕はもう部屋に戻るよ、話があるというのなら明日にしてくれ」
「……くそっ!!」
堂々と悪びれもせずに立ち去っていくシュンにシゲルは悪態を吐く事しか出来ず、確実に勇者同士の関係に亀裂が入り始めていた――
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