第724話 サンの修行

「修行といえば……サンは元気ですか?確か、今は東里の戦士長の所で修行を受けていると聞いてますけど」

「サンか、うむ。あの子の修行は順調じゃ……というか、順調すぎて最近では他の戦士長の修行も受けておるほどだ」

「ほう、それはいい情報を聞けたね」



サンは現在はレアの元を離れ、森の民の元で修行を受けている。カレハの話によると現在は各里の戦士長が注目する程に成長しているらしく、近いうちに王都へ帰ってくるという。



「あの子は儂の目から見ても才能の塊、儂の元で1年も修行すれば立派な戦士になれるじゃろう」

「そうですか……サンは寂しがってませんか?」

「その点は大丈夫じゃ、あの子はすぐにたくさんの友達を作ってのう。特に頻繁に魔物の友達をよく作っておる。不思議とあの子は魔物の言葉が分かるように見えるが……」

「そ、そうですか……」



カレハはサンが魔物の言葉を本当に理解しているように見える事に首を傾げるが、サンの正体が「サンドワーム」と呼ばれる魔物である事を知っているレアとリルは苦笑いを浮かべる。


もうしばらくの間はサンは森の民の里で修行を受けなければならず、それが終われば王都へ戻ってくるという。サンもたくましく成長しているという言葉を聞き、レアもサンの親代わりとして負けていられないと思った。



「修行か……よし、それなら俺も3人と一緒に修行を受けようかな」

「おおっ、レア様も我が里で修行を受けられるというのか?だが、儂の見立てでは別に修行を受けずともレア殿なら問題ないと思うがのう……」

「そうでもないですよ、実際に今回は危なかったし……」



大抵の敵はレアの「解析」と「文字変換」の能力を使えば倒せるが、始祖の魔王や海の魔王、そして今回の地の魔王の件に関してはレアの能力は通じず、窮地に追い込まれた。


レアの弱点は彼が戦士が扱うような「戦技」魔術師が扱う「魔法」を使えない。他の3人はこのどちらかを習得しているが、一行にレアの場合は覚える素振りはない。


だが、戦技や魔法を扱えずとも聖剣などを使えば十分に戦える力はあり、魔法の場合は扱う事はできないだけでレアの体内にも魔力は存在する。解析や文字変換に頼らずとも戦える力は十分に持っているが、それでも油断は出来ない。



(これまでの魔王と戦った時も俺一人だとどうしようもなかった……もっと強くならないと)



レベルを上げる、技能を身に付ける、戦技の模倣を行う、これまでのレアも強くなるために色々と行動はしてきた。しかし、今のままでは駄目であり、今後の事を考えてレアはより強くなる方法を模索する時が来た。



(もっと強くならないと……)



レアが今以上の強さを追い求める中、一方で帝国の方ではレアよりも「強い力」を求める存在が居た――






――同時刻、帝都ではシュンが帰還した事は瞬く間に噂となり、しかも魔剣を携えて戻ってきたという話に民衆の間では話題になっていた。



「おい、聞いたか?例の魔剣の勇者の話……」

「魔剣の勇者?何だそれ?」

「剣の勇者様が戻ってこられたのは知ってるだろう?あの人、炎の魔剣を持って帰ってきたんだとよ……全く、何処から持ち出してきたのやら」

「魔剣だと!?それ大丈夫なのか?」



一般人の間では魔剣は聖剣と対を為す恐ろしい存在だと認識されており、しかも持ち帰ってきたのが勇者という話なので不安を更に煽る。



「ケモノ王国の勇者様が聖剣に選ばれたのに……うちの国の勇者様はよりにもよって魔剣かよ。だから最近では剣の勇者は魔剣の勇者だと言われてるんだよ」

「魔剣の勇者……名前の響きはちょっと格好良いじゃないか?」

「馬鹿野郎、魔剣なんて持ってたらそのうちに呪われて死んじまうという話だぞ?やれやれ、この国は本当に大丈夫なのかね……世界を救うはずの勇者様が魔剣なんて扱うなんて世も末だな」

「たく、どうして皇帝陛下はかい……かい、なんだっけ?ともかく、何とかの勇者様をケモノ王国なんかに奪われたんだよ」

「この国もお終いかもな……やれやれ、勇者が召喚されてから何も良い事はないよな」



民衆の間ではシュンが魔剣を持ち帰った事を問題視する輩も多く、それどころか勇者という存在が徐々に快く思われない方向になっていた。その様子を観察する者が存在し、は微笑む。



「……もうすぐ、勇者を崇拝する時代は終わる。そして、この世界は魔王の時代を迎えるのよ」



それだけを呟くと占い師の格好をしていたイレアはその場を立ち去り、次の手を打つために王城で滞在するはずのシュンの元へ向かう――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る