第723話 カレハの相談

――その日の夜は転移台を使用してレア達は安全な王都へと引き換えし、休息を取る事にした。転移台を使用すればいつでも砂漠に戻れるため、身体の疲れが癒えるまでは休む事にする。


レアは部屋で休んでいると、彼の元にリルが訪れた。彼女の傍にはカレハの姿も存在し、夜遅い時間帯に訪れた彼女達に驚きながらもレアは部屋の中へ招く。



「勇者殿、こんな夜遅くに申し訳ない……しかし、どうしても話さねばならぬことがあるのだ」

「え、どうかしたんですか?」

「実はカレハさんが他の帝国の勇者と顔を合わせたいそうなんだ。それで君に取り次いで貰いたいという事でね……」

「帝国の勇者……シュン君達に会いたいという事?」



リルの言葉を聞いてレアはカレハに尋ねると、カレハは頷く。彼女は他の3人の勇者と顔を合わせたいのは森の民が勇者に受けた恩を返したいためであるという。



「前にも話したが、森の民はかつて全滅の危機を勇者に救われた。その恩義を返すため、次世代に召喚される勇者様に尽くす、それが我々の掟です」

「そういえば前にそんな事を言っていた様な……」

「噂によると、帝国の3人の勇者はレア様と比べるとまだまだ力が粗削りと聞いております。それならば我々森の民が協力し、3人の勇者様に修行を付けようかと考えております」

「修行?」

「森の民は勇者様を強くさせるため、実は来るべき時に召喚されるであろう勇者様のための修行場を設けているのです。最初はレア様もお誘いしようと考えておりましたが、どうやらレア様よりも3人の勇者の方が修行が必要な様子……この事を帝国にいる3人の勇者に伝えてほしいと思い、御二人に頼み来たのじゃ」



カレハは理由を説明するとレアとリルに対して頭を下げ、その言葉に二人は顔を見合わせる。カレハとしてはレア以外の勇者も気にかける存在であり、森の民は次世代に召喚された全ての勇者のために力を貸すため、レア以外の3人の勇者も例外ではない。


彼女の頼みを聞く場合、カレハを帝都まで連れて行き、3人の勇者に話をしなければならない。だが、実際問題としてケモノ王国の領地内(厳密に言えば違うが)に暮らす森の民の修行を帝国の勇者が受けるとなれば色々と問題がある。



「私としては素直に帝国が受け入れるとは思えないな……もしも勇者を連れ出そうとすれば帝国は勇者を奪うつもりなのかと言い出しかねない。実際にレア君の時も自分達からあんな真似をしでかしておいて堂々と帰還を要求していたほどだ」

「それは……有り得ますね」



かつてレアはケモノ王国にて勇者として正式に迎え入れた後、この情報を掴んだ帝国はレアを返却するように言いつけてきた。当然だが帝国で残っていたらレアは無実の罪で処刑されていたかもしれず、そんな要求は断固として拒否した。


結局は帝国はレアを処刑しようとしたのはウサンの凶行だと言い張っていたが、最終的には帝国に送り込む食料の供給を中止するという脅迫紛いの行動をしてきた。結果的には帝都で魔王軍に襲われたアリシアを救助した事もあり、帝国もレアがケモノ王国の勇者として迎え入れる事を黙認する。


帝国からすれば勇者という貴重な人材を他国に渡る事は拒否したいらしく、3人の勇者をカレハが修行を付けると言い渡しても素直に従うはずがない。下手をしたら他の勇者まで奪うつもりなのかと警戒するのは目に見えていた。



「うむ、確かに簡単な話ではない事は理解しておる。しかし、この頼み事は御二人にしか任せられん。どうか協力してくれぬか?」

「どうする?僕としてはあまり賛成は出来ないが……君が良いというのならカレハさんを連れて帝都へ向かい、アリシアを通して3人の勇者に話を伝える事も出来るが……」

「う〜んっ……」



レアとしては3人の勇者が素直にカレハの修行を受けてくれるのかと疑問を抱くが、最近では帝国の方では先のケモノ王国とヒトノ帝国の騎士団の模擬戦でレアが表立って戦わず、白狼騎士団の団員だけで勝利した事で世間でも3人の勇者の立場は変わっていた。


帝国の民衆もレアがケモノ王国で魔王を倒したという噂は耳にしており、どうして一番優れた勇者を帝国は追放してしまったのだと嘆く人間も多いという話は諜報に赴いたハンゾウから話を聞いていた。


レアとしては自分のクラスメイトでもあった3人が一般人にも卑下されていると聞けば心苦しい所もあり、彼等がさえよければカレハの修行を受けないのか尋ねるのも悪く無いかと思う。



「分かりました。でも、今は巨人国の件が片付いてからでいいですか?こっちも重要な用事なので……」

「うむ、こちらは問題ありませぬ。レア様、我が頼みを引き受けて下さり、ありがとうございます」

「いや、気にしないでください。俺もあの3人には丁度会いたいと思ってましたし……」

「勇者の修行か……僕としても少し気になるな」



勇者を鍛えるための修行場が森の民の里に存在するという言葉にリルは強い興味を抱き、どんな場所なのかと疑問を抱く。だが、一方でレアは修行という言葉を聞いてある事を思い出す。

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