第720話 地の魔王
(今ので倒したのならいいけど……)
サンドゴーレムの残骸に近付き、この時にレアは「地図製作」の画面を開く。サンドゴーレムがまだ生きているのならば反応が確認できるはずであり、画面上に敵の反応があるのかを確かめる。
画面上には赤色と青色の反応が存在し、この青色の反応はレアが従えた「キング」の反応だと思われた。どうやらキングの方も先ほどの放水で肉体が崩れたようだが、核だけの状態でも生き延びていたらしく、未だにレアの味方らしい。
(キングの反応はあるけど、敵の反応も残っているな……でも、さっきと比べたら大分小さくなっている)
先ほど画面上に映し出された敵の反応と比べても大分規模は小さくなっており、急いでレアは反応がある方向に駆け出す。やがて赤色の反応が青色の反応に近付くと、ここで画面上から青色の反応だけが消え去る。
「あっ!?」
『ウウッ……アアアッ!!』
サンドゴーレムを倒した時、砂漠には大量の泥が散らばっており、やがて泥の中から人のような姿をした泥の塊が出現した。その泥の化物は手元にキングの核と思われる魔石を手にしており、それを口元に飲み込む。
「なっ!?」
『グゥウッ……!!』
核を飲み込んだ瞬間、泥の塊は徐々に全身が固まり、やがてロックゴーレムのような風貌へと変化を果たす。通常のロックゴーレムは大柄なのに対し、レアの目の前に立ったロックゴーレムは全体的に細身でより人間らしい姿をしていた。
恐らくはキングの核を飲み込み、その核の魔力を吸収して肉体を形成したと思われる相手にレアは目つきを鋭くさせる。味方になって戦ってくれたキングの核を吸収した敵に対してレアは怒りを抱く。
「くそ、よくもっ……!!」
『ウウッ……ニンゲン、ガァッ……!!』
「えっ!?」
しかし、唐突に泥の塊が人の言葉を話し始めた事に驚き、これまでに遭遇したゴーレムの中に人語を話せる存在などおらず、デュランダルを振りかざそうとしたレアは大剣を止める。
泥人形はレアと向き直るとより人間に近い姿に変貌し、やがて全身から黒色の魔力を滲み出す。その様子を見てレアはやはり相手が始祖の魔王のような死霊が憑依した存在だと気づく。
(始祖の魔王は死体に乗り移っていたけど、こいつはゴーレムに憑依しているのか……!?)
始祖の魔王と同じ存在である事から、恐らくは始祖の魔王を復活させた存在がレアの前に立つ泥人形を蘇らせたと思われる。だが、始祖の魔王は仮にも死骸に憑依していたのに対し、今回の相手は生身の肉体とは言い難い土砂の塊に憑依している事に疑問を抱いたレアは「観察眼」の技能を発動させた。
観察眼は一時的に観察力を高める能力であり、注意深く泥人形の身体を確認し、不審な点はないのかを探す。解析を使用しても始祖の魔王の時と同様に通じないのであれば他の能力で補えばよいだけの話であり、ここでレアは泥人形の胸元の一部分が妙に膨れている事に気付く。
(あの部分……魔力を感じる、というよりは胸の方から魔力が溢れている感じだ)
泥人形の胸元の部分から魔力が溢れている事に気付いたレアはデュランダルを構えると、それに対して泥人形は警戒したように距離を取ろうとした。
『ウウッ!?』
「逃がすか!!」
また砂の中にでも潜り込まれれば厄介なため、レアはデュランダルを振りかざすと泥人形の胴体部分を切り裂き、上半身と下半身を切り裂かれた泥人形は地面に倒れ込む。
『グアッ!?』
「はああっ!!」
上半身が地面に倒れた泥人形に対してレアはデュランダルを構えると、胸元の部分に刃先を向けた。その際に泥人形は怯えるように残された両腕で刃を抑えつける。
『ヤ、ヤメロッ……!!』
「……やっぱり、ここが弱点か」
必死に胸元を攻撃される事を阻止しようとする泥人形に対し、この胸元の部分に埋まっている何かが泥人形にとっては大切な物だと知り、ここでレアは海の魔王の事を思い出す。
海龍リバイアサンの死骸に憑依した海の魔王と戦った時、レアは「死霊石」と呼ばれる魔石を目にした。この魔石は魂を憑依させる性質を持ち合わせ、この死霊石のお陰で海の魔王は復活を果たした。
「そうか、やっぱりお前が……地の魔王タスマだな?」
『ウウッ……!?』
「図星か……という事はその胸に埋まっているのは死霊石か」
タスマという名前に泥人形は反応を示し、その様子を見てレアは確信を抱く。目の前に存在する泥人形こそが、かつて巨人国を追い込んだ地の魔王と呼ばれる存在であると知ったレアはデュランダルを構える。
これまでの魔王は会話をする余裕などなかったが、現在の地の魔王は力を失い、もう戦う術さえもない。逃げようとすれば身体の中に埋め込まれている死霊石を破壊すればいいだけであり、死霊石が破壊されれば憑依している魔王の魂も無事ではすまない。
「お前達には色々と聞きたいことがある、一緒に来てもらうぞ!!」
『ヤ、ヤメッ……グアッ!?』
レアは地の魔王に対してデュランダルを振り下ろし、今度は両腕を切り裂く。これで残されたのは頭部と胸元の部分となり、地の魔王は抵抗する事も出来なかった。
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