第716話 砂漠の主

「あれ!?砂船がこっちに向けて近付いていますよ?」

「もしかして、俺達を迎えに来てくれたのかな?」

「いや、様子がおかしい……何かから逃げているのか?」

「逃げている?いったい何から……」

「ぷるんっ!?」



砂船がレア達の方向に向けて全速力で移動し、船の背後からは派手な砂煙が舞い上がっていた。最初は砂船の移動によって砂煙が舞い上がっているいるのかと思われたが、砂煙の中から巨大な腕が出現した。




――ウォオオオオッ!!




砂漠に奇妙な鳴き声が響き渡ると、砂煙の中から現れた巨大な両腕は砂船を掴み上げると、恐るべき怪力で持ち上げる。砂船は浮揚石が搭載されているので外見よりも重量は軽いとはいえ、それでも大船である事に変わりはなく、積荷や船員を含めると普通の魔物ならば持ち上げる事が出来る質量ではない。


だが、砂煙から出現した巨人は軽々と砂船を持ち上げ、その際に船員達は慌てて砂船から下りて砂丘に飛び込む。その中には船長の姿も存在し、彼等は悲鳴を上げながら砂の上に落ちてきた。



『ぎゃああああっ!?』

「船長!?それに他の人たちも……」

「ちょ、何ですかあれはぁっ!?」

「砂の……巨人!?」

「という事は……サンド・ゴーレムか!!」




ロックゴーレムが岩石で肉体を形成したゴーレム種であるならば、砂の肉体で構成したゴーレム種は「サンドゴーレム」と呼ばれる。過去にレア達も相対した事がある敵だが、今回のサンドゴーレムはゴーレム・キングを上回る程の巨体だった。



「ちょ、何なんですかあの馬鹿げたサイズは!?さっきのゴーレム・キングよりもでかいですよ!?」

「まるで……小さな山だな」

「見てください!!船が……!!」

『ウオオオオッ!!』



サンドゴーレムは砂で構成された腕を利用し、砂船を持ち上げると近くの砂丘に向けて叩き込む。砂の肉体ではあるが巨人族の数十倍の怪力を誇るらしく、砂の中に埋もれた砂船を踏みつける。


砂船は見るも無残に破壊され、その光景を砂漠に降りた船長と船員は唖然と見つめる事しか出来なかった。自分達の大切な砂船が破壊される光景を見ても怒りを抱くどころか、目の前の光景に理解が追いつけず、唖然と見上げる事しか出来ない。



「な、何なんだこいつは……」

「せ、船長!!逃げましょう!!」

「逃げるって……何処にだよ?」



船長は砂船を破壊された事で逃げる手段を失い、こんな身を隠せそうな障害物も存在しない砂漠ではサンドゴーレムから逃げ延びられるはずがない。彼は呆然とサンドゴーレムを見つめていると、ここでサンドゴーレムが船長と船員に気付いたように顔を向ける。



『グゥウッ……!!』

「ひいっ!?」

「せ、船長ぉっ……!!」



サンドゴーレムが地面に尻餅をついている船長と船員に気付くと、両腕を伸ばす。このまま船長達が捕まるかと思われた時、強烈な衝撃波がサンドゴーレムの頭部に的中した。



「させるかっ!!」

『ッ……!?』

『うわぁっ!?』



デュランダルの刃から放たれた衝撃波が見事にサンドゴーレムの頭部に的中し、砂ので構成された頭部は簡単に吹き飛ぶ。その光景を見てリュコが歓声を上げる。



「頭が吹き飛んだ!!やったのか!?」

「いえ、サンドゴーレムも体内の核を破壊しない限りは倒せません!!それに身体を吹き飛ばした所で……」



サンドゴーレムは頭部を吹き飛ばされたが、即座に吹き飛んだ頭の部分に砂が集まり始め、再生を果たす。サンドゴーレムは砂の肉体であるため、仮に肉体の一部を失ってもすぐに砂を集めれば再生を行う。


ロックゴーレムの場合は岩石を破壊すれば再生に時間は掛かるが、サンドゴーレムの場合は肉体を構成する砂が傍にあれば瞬時に再生を果たす。しかもレア達が存在する場所は砂漠であるため、再生の材料はいくらでも存在した。



「やっぱり駄目です!!頭を吹き飛ばしてもすぐに再生します、体内の何処かに存在するを核を破壊しないと倒せませんよ!!」

「くそっ……それなら核に当たるまで吹き飛ばしてやる!!」



レアはデュランダルを振りかざし、今度はより強烈な衝撃波を発生させてサンドゴーレムの肉体を吹き飛ばそうとした時、ここで何を思ったのかサンドゴーレムはレアに視線を向けると、両腕を地面に叩き込む。



『ウガァッ!!』

「えっ!?いったい何をっ……」

「レアさん、後ろです!?」



リリスの言葉にレアは驚いて振り返ると、いつのまにかレアの背後にはサンドゴーレムの両腕が存在し、そのままレアの肉体を挟み込もうとした。前方に存在するはずのサンドゴーレムの両腕が後方に現れた事にレアは驚きながらもデュランダルで斬り裂く。


デュランダルによって切り裂かれた両腕は崩れ去るが、何処から腕が現れたのかとレアは視線を向けると、いつの間にか自分だけではなく、他の人間の元にも複数の「腕」が地面から生えている事に気付いた。

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