第715話 地の魔王
「ふうっ……危うく死ぬかと思いましたよ」
「あ、しまった……ゴーレム・キングも雨に溶けて消えちゃったかも。折角仲間にしたのに」
「あの状況じゃ仕方ありませんよ。まあ、惜しいゴーレムを亡くしましたね」
「ぷるるんっ(君の事は忘れないよ)」
雨を降らせたときにゴーレム・キングも溶けて消えてしまったのか見当たらず、巨大ゴーレムを相手に戦ってくれた心強い仲間だったのだが、別れを惜しむようにクロミンは目を閉じる。
それはともかく、逃げていった砂魔蠍の事も気にかかり、砂魔蠍がゴーレムのように岩石の外殻のような物を身に付けていたのは気になった。出来る事ならば砂魔蠍の方も解析の能力で調べるべきだったが、消えた以上は仕方ない。
「リリス、さっきゴーレムを解析した時に状態が「使役」になっていた。それと特徴の項目にはゴーレムの主が「タスマ」という名前の奴に操られているみたいだけど……」
「タスマ?」
「聞いた事がありませんね……」
「ぷるんっ(知らない)」
「……タスマ、だと……」
レアがタスマの名前を口にしてもリリスとティナは聞き覚えはないが、リュコだけはその名前を聞いた瞬間に目を見開き、何かを思い出したように頭を抑える。
「その名前、子供の頃に聞いた事がある……そうだ、確か祖母が語ってくれたおとぎ話の中にその名前を聞いた事がある気がする」
「えっ!?本当ですか?」
「リュコさんが子供の頃に聞いたおとぎ話となると……それはもしや、巨人国に伝わるおとぎ話なのですか?」
「ああ、そのはずだ……確か、その絵本を読んだことがある。そうだ、思い出したてきたぞ」
リュコは元々は巨人国に暮らす巨人族であり、彼女は子供の頃に自分の祖母に教わったおとぎ話を思い返す。そのおとぎ話の内容はまだ巨人国が誕生したばかりの頃、巨人国が攻め滅ぼそうとした悪者の名前が「タスマ」という名前であった――
―遥か昔、巨人国が世界一の強国だと謳われていた時代、ある時に「地の魔王」と名乗る存在が巨人国を攻め滅ぼそうとした。地の魔王は大量のゴーレムを操り、巨人国へと攻めてきた。巨人達は力を合わせて抵抗したが、いくら破壊しても再生するゴーレムの大軍を相手に追い詰められていく。
巨人達はこのままでは自分達が全滅すると悟り、どうにかそれを防ぐために帝国に助けを求めると、帝国で召喚された勇者が助けに来てくれた。勇者と巨人達は力を合わせた結果、地の魔王を倒す事に成功した。
しかし、巨人国が存在した都市は地の魔王との決戦で砂の大地と化し、都市は砂に飲み込まれてしまった。そのせいで巨人達は住む場所を南側へと移すしかなくなり、現在の巨人国が南側に存在するのは地の魔王が巨人国の都市を砂漠に変えてしまったからだと伝わっていた。
リュコは祖母から聞いた話はただのおとぎ話だと思っていたが、学者によるとこのおとぎ話は実際に起きた出来事を参考にして作り出されたらしく、現在は大陸の中央部に存在する広大な砂漠こそが地の魔王によって「砂漠に変えられた大地」ではないかと推察されているという。
「正直、私はおとぎ話だと信じていなかったが……確かに地の魔王の名前は「タスマ」というはずだ。何度も祖母から言い聞かされていたから聞き間違えるはずがない」
「タスマ……」
「まさか、この大地に敗れた魔王が復活したというのですか!?」
「有り得ますね、剣の魔王、海の魔王、それに始祖の魔王……今までも勇者に倒されていたはずの魔王が復活しています。ならば、地の魔王も本当に復活したのかもしれません」
「という事は……俺達を襲ったゴーレムはまさか、そのタスマという名前の魔王の仕業なのかな?」
「……その可能性が高いですね」
レアは驚いてゴーレムの残骸に視線を向け、確かにこれだけの数の巨大なゴーレムやゴーレム・キングなどを操る存在がいるとすれば、それは最早人間の仕業ではない。人間を越えた存在、それこそ「魔王」と呼ばれるような存在の力としか考えられなかった。
地の魔王が本当に復活しているのならば復活させた存在はレア達を敵対する存在である可能性が高く、それこそ始祖の魔王や剣の魔王を復活させた存在であると考えるべきだろう。
敵の狙いがレア達ならば今回のゴーレムや砂魔蠍の襲撃も偶然ではなく、明らかにレア達の命を狙った犯行だろう。そう考えるとこの場に残るのは危険であり、すぐに退去する必要があった。
「砂船の方へ戻りましょう!!今の戦力で魔王と戦うなんて危険過ぎますよ!!」
「そうですね、すぐに引き返しましょう」
「砂船の方は無事かな、襲われていないと良いけど……」
「ぷるるんっ!?」
レア達は砂船が存在する方向に視線を向けようとした時、突如としてクロミンが何かに気付いたように鳴き声を上げた。彼の方に視線を向けると、そこにはレア達の方へ向けて移動する砂船の姿が存在した。
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