第713話 服従のゴーレム

「ぷるぷるぷ〜るっ!!」

「クロミン!?どうしたの急に!?」



自分の身体に張り付いてきたクロミンにレアは驚くが、ここで彼が頭に生えている耳のような触手を動かす。その様子を見て最初は自分が牙竜に変身して戦いたい事を告げているのかとレアは思ったが、どうにも様子がおかしい。


クロミンは触手を伸ばして自分自身を指すと、その態度からレアはある事を察し、視界に表示されているゴーレム・キングの画面に視線を向けた。



「そういう事か!!」

「勇者殿、来るぞ!!」

「ひいいっ!?今度こそ押し潰されますよ!!」

「ゴガァアアッ……!!」



ゴーレム・キングが動き出すと、今度は両手を握りしめた状態でレア達を押し潰そうと振りかざす。その様子を確認したレアは即座に画面に指を伸ばすと、瞬時に文字を書き込む。



「これならどうだ!?」

「ゴガァッ!?」

「うわっ……あれ、止まった?」



攻撃がレア達に触れる寸前、画面に文字を書き込んだ途端に更新され、ゴーレム・キングの動作が停まる。その様子を見てリリス達は呆然と見上げると、他の巨大ゴーレムが動き出す。



『ゴォオオオッ!!』

「今度は他の奴等が動き出したぞ!?」

「ど、どど、どうするんですか!?」

「レア様!!」

「……大丈夫、心強い味方が出来たから」

「ぷるんっ!!」



レアの言葉にクロミンは何かを察したようにゴーレム・キングに視線を向けると、停止したと思われたゴーレム・キングの目元が光り輝き、握りしめていた両手を手放して両肘を突き出す。



「ゴガァッ!!」

「「ゴアッ!?」」

「えっ!?攻撃、した……?」

「な、仲間割れか!?」

「いや……違う」



ゴーレム・キングの左右に存在した巨大ゴーレムの顔面に肘が叩きつけられ、その威力は顔面を崩壊させる程の衝撃を与えた。顔面部分が崩れた巨大ゴーレムは後方へ倒れ込み、その様子を他の巨大ゴーレムは混乱したかのようにゴーレム・キングに視線を向けた。


唐突に仲間であるはずのゴーレムに攻撃を仕掛けたは今度は他の3体に視線を向けると、両腕を広げて突っ込む。この際にレア達を踏み潰さないように飛び越えると、キングは巨体を生かして3体のゴーレムを同時に地面に押し倒す。



「ゴガァアアアッ」

『ゴギャッ!?』

「な、何だ!?何が起きてるだ!?」

「レア様、いったい何を……」

「いや、ちょっとね……あいつを「服従」させただけだよ」

「服従……まさか!?そういう事なんですか!?」

「ぷるんっ♪」



唐突に巨大ゴーレムを襲い始めたキングを見てリリス達は戸惑うが、レアの頭の上に移動したクロミンは機嫌良さそうに身体を揺らす。




――クロミンの正体はかつて牙路を縄張りにしていた牙竜の亜種である「黒竜」であり、最初にレアが従えた魔物でもある。初遭遇の際にレアは「解析」と「文字変換」の能力を利用して彼の状態を「服従」に書き換えた瞬間、クロミンはレアに忠実に従う魔物と化した。




その後は種族がスライムに変化した後もクロミンは変わらずにレアに懐き、彼に付き従ってきた。そして現在、レアの前に現れたゴーレム・キングもクロミンと同様に「服従」され、レアを守るために戦う。



「ゴガァアアアッ!!」

『ゴアアッ……!?』



巨大ゴーレム達はキングが繰り出す攻撃を受ける度に身体が罅割れ、徐々に崩れていく。腕力、硬度、耐久力、体型は完全にキングが勝っており、3体の巨大ゴーレムは見るも無残に破壊されていく。


敵であるキングを服従化させる事が出来るかどうかは賭けであったが、例え「使役」の状態でも二文字ならば「服従」の文字へ書き換える事が出来る。その結果、牙竜に続いてレアは新たに忠実な僕を手に入れた。



「よし、キングの奴が注意を引いている間にここから急いで離れよう」

「あ、ちょっと待ってください!!まだ浮揚石の回収が……」

「そんなのは後回しだ!!戦闘に巻き込まれた私達が危ないんですよ!?」

「砂船に戻るぞ!!」

「ぷるぷるっ!!」



キングが他の巨大ゴーレムと相手をしている間、レア達は砂船が停泊している場所に目掛けて走り出そうとした。だが、ここであちこちの砂漠から砂煙が舞い上がり、次々と巨大な魔獣が出現した。



『キィイイイッ!!』

「うわっ!?砂魔蠍!?」

「しまった……ここは奴等の縄張りだという事を忘れていた!!」

「くっ……この数はまだこれほどの数がいたのですか」



周囲一面を覆いつくす程の大量の砂魔蠍が出現し、そのどれもが体長は4、5メートルは存在した。明らかに船長が効いていた成体の砂魔蠍よりも一回りか二回りほどは大きく、これによって砂漠の魔物が「巨大化」している事が同時に判明する。

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