第710話 巨大化した魔物
――キィイイイッ!!
砂漠に鳴き声が響き渡ると、地中から巨大な尾が出現し、真っ先に一番図体が大きいリュコへ向けて伸びてきた。毒針を彼女に突き刺そうとするが、それを見たレアはデュランダルを振りかざす。
この時にレアはデュランダルの能力を発動させ、刃を振動させた状態で振り抜く。その結果、衝撃波が発生して地中に隠れている砂魔蠍の本体ごと吹き飛ばす。
「そこだぁっ!!」
「ギィイイイッ!?」
「でかっ!?」
「な、なんて大きさ……!!」
「トロールよりも大きいぞ!?」
衝撃波を受けて姿を現したのは全長が10メートル近くも存在する巨大な砂魔蠍であり、船長の話では成体の砂魔蠍でも3メートルあるかどうかと言われているが、この個体はその3倍以上は存在した。
巨大な砂魔蠍は衝撃波を受けながらも地上に着地すると、3つの尾を振りながらもレア達と構える。その迫力にレア達は気圧されるが、すぐにレアはデュランダルを構えて攻撃を仕掛けた。
「このぉっ!!」
「キイイッ!!」
砂魔蠍はレアが大剣を振りかざすと、それを確認してその場を飛び上がり、衝撃波を回避した。事前にレアの行動を呼んで回避行動に移った砂魔蠍に他の者は驚くが、それに対してレアは冷静に対処する。
「逃がすか!!」
「ギィアッ!?」
空中に跳んだ砂魔蠍に大してレアはデュランダルを投げ放ち、放たれた大剣は砂魔蠍の3本の内の真ん中の尾を切り裂く。その光景を見てレア以外の者は驚き、よりにもよって武器を手放したレアの行動に戸惑う。
「ちょ、レアさん!?大丈夫ですか、武器を投げるなんて……」
「問題ないよ、こうすれば……」
レアは掌を伸ばすと、投げ放たれたデュランダルはまるで磁石のように吸い寄せられ、再びレアの元へ戻ってきた。その光景を見て他の者達は驚き、一方でレアは笑みを浮かべてデュランダルを構えなおす。
「どうやら聖剣に認められると、こうやって引き寄せる事が出来るみたい」
「そんな機能があったんですね!?私も初めて知りましたよ!!」
「凄いな……これも聖剣に認められた人間の力か」
「ですが、まだ倒しきれていませんよ!?」
「キィイイイッ!!」
尾の一つを破壊する事には成功したが、砂魔蠍は地上へ着陸すると、即座に砂を掻き分けて地中へと潜り込む。巨体でありなが動きは素早く、その様子を見てレアは冷静に「地図製作」の能力を発動させた。
いくら地中に姿を隠そうと、気配感知や魔力感知を発動させればだいたいの位置は掴める。更にそこに地図製作を重ねればより正確な位置を把握するのは容易く、すぐにレアは位置を捉えて攻撃を行う。
「そこだぁっ!!」
『ッ……!?』
地中を移動する砂魔蠍に向けてレアはデュランダルを振りかざすと、今度は地面に突き刺した状態で衝撃波を放ち、砂の中に潜り込んでいた砂魔蠍を派手に吹き飛ばす。
『ギェエエエッ――!?』
砂魔蠍の断末魔の悲鳴が響き渡り、地上に砂魔蠍の残骸が飛び散る。衝撃波の威力でどうやら砂魔蠍は吹き飛んだらしく、その光景を確認したリリスは口元を抑えた。
「うえっ、スプラッタですね……少しやり過ぎじゃないですか?」
「ふうっ……でも、これで邪魔者はいなくなったよ」
「しかし、こんな巨大な蠍が潜んでいるとは……砂漠とは恐ろしい場所だな」
「……この砂魔蠍は亜種でしょうか?話を聞いていた限りではここまで大きい個体がいるとは思いませんでしたが」
砂魔蠍の残骸をティナは見つめ、ある疑問を抱く。船長に聞いていた話よりも砂魔蠍が巨大である事に戸惑いを隠せず、突然変異によって身体が巨大化した「亜種」なのかと推察する。
確かに普通に考えれば魔物がここまで「巨大化」するなど異常な事であり、普通ならば考えにくい。だが、レア達は昨日も通常よりも大きい砂魔蠍を発見しており、ただの偶然とは思えなかった。
「昨日も遭遇した砂魔蠍にしろ、この砂魔蠍にしろ、普通なら考えられない程の大きさらしいですからね。もしかしたら、この砂漠に何か異変が起きているのかも……」
「異変?異変とはなんだ?」
「そうですね……例えば、砂漠の環境が変化して魔物達がより巨大化するようになったとか、あるいは魔物を巨大化させる原因が他にあるとか……現状では何も言えませんね」
「砂魔蠍だけじゃなく、砂鮫もでかかったからね」
「ちょっと死骸を調べてみましょうか、何か原因が分かるかもしれませんし……ん?」
異変は砂魔蠍だけではなく、昨夜にレア達に襲い掛かった砂鮫も通常よりも一回りは大きかった。巨大化している魔物は砂魔蠍だけではなく、もしかしたらこの砂漠に生息する魔物が巨大化の影響を受けている可能性も十分に考えられた。
魔物の巨大化は調べてみる必要があるかもしれないが、一先ずはレア達は浮揚石の発掘のために岩山へ向かう。まずは仕事を終えてから改めて調査しても問題ないと思われるが、この後にレア達は想像を絶する存在と遭遇する事になるとは夢にも思わなかった――
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