第709話 砂魔蠍の住処
「ふむ……匂いは悪くねえな、なら味の方は……」
「船長、俺達にも飲ませてくださいよ!!」
「馬鹿、まずは俺が飲んでからだ!!」
「ずるいぞ船長!!」
船長が日本酒の瓶を開け、匂いを確かめた後にグラスに注ぐ。この世界には存在しない酒のため、気に入ってくれるかどうかレアは不安に思うが、一杯飲みほした瞬間に船長は頬を赤くして頷く。
「ぷはぁっ!!こ、こいつは悪くねえな!!」
「船長、俺達にも!!」
「分かった分かった、ちゃんとやるから落ち着け!!」
「……どうやら気に入ったみたいですね」
日本酒を持つ船長に船員が押し寄せ、彼は仕方なく一人一人に酒を注ぐ。その様子を見てレア達は船乗りたちが酒を気に入った事を確信し、安堵する。
やがて日本酒を飲み切ると船長は上機嫌となり、船に乗り込むように促す。酒の影響かどうやら彼はレアが勇者である事を認めてくれたらしく、浮揚石が発掘できる岩山まで案内する事を約束してくれた。
「よし、気に入ったぜお前等!!俺が責任を持って鉱山まで連れて行ってやる!!」
「あ、はい……お願いします」
「ひっく、それにしても中々に強い酒だな……ちょっと酔っちまったぜ」
「……本当に大丈夫なのか?」
「日本酒って、そんなに強かったんですかね?」
船長も船乗りたちも全員で分けたので酒の量は少ないはずだが、心なしか全員がほろ酔い状態に陥っていた。こんな状態で船を動かせるのかと心配したが、とりあえずは目的地を変更して浮揚石が発掘できるという砂漠内に存在する岩山まで案内してもらう事にした――
――翌日、長い時間をかけて遂にレア達は浮揚石が発掘できるという岩山に到着を果たす。正確に言えば岩山が目視できる距離まで近づいたのだが、ここから先は砂船で近づく事は出来ないという。
「悪いが船で近付けるのはここまでだ。これ以上に進むと船が砂魔蠍に見つかって攻撃を受ける可能性があるからな」
「船に乗っていても攻撃を仕掛けてくるのか?」
「ああ、大抵の魔物のは砂船を見かければ勝手に離れるんだが、砂魔蠍は躊躇なく襲い掛かってきやがる。だから船に乗ってあの岩山に近付けば一気に襲い掛かってくるんだよ」
「という事はここから徒歩で向かえという事か……」
「本当にお前さん達だけで行くのか?言っておくが、砂魔蠍に見つかっても俺達は助けられねえぞ?」
「大丈夫ですよ、こっちには魔王を倒した勇者もいますからね」
船長は岩山に向かおうとするレア達を心配するが、それに対してリリスはレアの肩を掴み、砂魔蠍が現れてもレアに任せる事にした。今回はレアも最初からフラガラッハを装備しており、デュランダルも背負った状態で挑む事にした。
レア達は砂船から下りると岩山に向けて出発する。距離的には1キロほど離れており、この距離が砂魔蠍に見つからないぎりぎりの距離だと船長は語っていた。ここから先は歩いて近づくしかなく、無数の砂丘を乗り越えながらもレア達は岩山に向かう。
「なるほど、言葉通りに岩山ですね……あそこに貴重な浮揚石が発掘できるんですか」
「リリス……俺、発掘とかした事ないから浮揚石を見つけられる自信がないよ」
「大丈夫です、発掘なら私は何度か仕事でやった事があります」
「私もだ」
鉱石の発掘などないレアは岩山に辿り着いても浮揚石を見つけ出す自信はないが、冒険者としての仕事でティナもリュコも発掘の経験があるらしく、浮揚石の発掘は二人に任せる事にした。
必要な浮揚石はレア達が飛行船に使用する分と、砂船の分を合わせると相当な量を必要とする。だが、浮揚石を確認する事が出来ればレアも文字変換の能力で浮揚石を作り出せた。
(浮揚石の現物さえ見れれば作り出せるけどな……まさか「石」という文字だけで鉱石も作り出せるのは驚いたけど)
以前にレアは「剣」という一文字だけで聖剣が作り出した事はあるが、鉱石や魔石の類も「石」という一文字だけで作り出せる事が発覚した。どうやら魔石も功績も石という名前が付いているので石として種類として分類されるらしく、浮揚石を直に見て存在を確認する事が出来ればレアの能力でいくらでも作り出せる事が判明する。
(発掘出来なかった場合は俺の能力で浮揚石を作り出して持って行こうかな……なんだ!?)
砂漠を歩きながらレアは浮揚石なる鉱石がどのような物なのかと考えていると、ここで歩いている最中にレアの「気配感知」と「魔力感知」が同時に発動し、敵が接近している事に気付く。
「皆、止まって!!敵が近付いてきている!!」
「えっ!?」
「何処からだ!?」
「……こういうパターンの時はだいたい下からですね!!」
レアの言葉に全員が歩くのを止めて身構えると、周囲を見渡す。だが、周囲には敵の姿は見えず、リリスは地面に視線を向けた。彼女の予感は的中し、地中の中から巨大な尾が出現した。
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