第707話 魔物の巨大化

「キィイイイッ!!」

「……蠍!?」

「ば、馬鹿な……どうしてこんな場所に砂魔蠍が!?」



地中から出現したのは全身が茶色に覆われた巨大な蠍であり、その姿を目撃した船長は驚愕の声を上げる。巨大蠍の全長は少なくとも5メートルは存在し、彼から聞いていた話よりもかなり大きい。


砂の中から現れた砂魔蠍はレア達の存在を確認すると、尻尾を向けてきた。この時に砂魔蠍の尾は3つ存在する事をレア達は初めて知り、3つの尻尾が同時に放たれた。



「キィイッ!!」

「うわっ!?」

「くぅっ!?」

「ぐあっ!?」



放たれた3つの尾に対してレアは回避に成功し、ティナは大剣で弾き返すが、リュコは尾を掴んでどうにか止める。尾を掴んだ際に先端の毒針が危うくリュコの身体を貫きそうになったが、どうにか抑えつけた。



「キィイッ!!」

「ぐぐぐっ……はあっ!!」

「キィッ!?」



リュコは尾を掴んだ状態で引き寄せると、砂魔蠍は必死に引き剥がそうとするがリュコは手を離さず、逆に尾を引き千切る。尾が千切れた砂魔蠍は悲鳴を上げ、その場で悶える。



「キィイイイッ!?」

「今です!!」

「はああっ!!」



レアとティナは砂魔蠍が倒れたのを確認すると動き出し、二人は同時に大剣を叩き込もうとした。だが、その光景を目にした砂魔蠍は刃が触れる前に砂の中に潜り込む。


巨体でありながら動作は俊敏で砂魔蠍は砂の中に潜り込むと、レアとティナの大剣は地面に刃がめり込む。その光景を見て二人は驚きながらもその場を離れると、砂の中から再び尾が出現した。



「きゃあっ!?」

「危ない!!」



砂の中から現れた尾がティナを狙い、それを目撃したレアは咄嗟に彼女の身体を突き飛ばすと、尾はレアの背中に向かう。そして毒針の先端がレアの背中に突き刺さると、彼は目を見開いて倒れ込む。



「そ、そんな!?」

「レア様!?」

「馬鹿な……勇者殿!!」

「ゆ、勇者?」



毒針によってレアが倒れたのを見ると慌ててティナは彼の身体を抱き上げ、リリスも見ていられずに船から下りる。その一方で船長の方はリュコが咄嗟に発した「勇者」という言葉に戸惑う。


だが、砂魔蠍が再び現れると毒針で倒れたレアを確認し、両腕の鋏を構えた。毒で倒れたレアを守るためにティナが立ちはだかる。



「おのれ、よくもレア様を……許しません!!」

「別にそんなに怒らなくてもいいよ……」

「えっ?」

「キィッ!?」



レアを守るために戦おうとしたティナの耳元にあり得ぬ声が響き、直後に砂魔蠍に向けて漆黒の大剣が放たれる。大剣は真っ直ぐに砂魔蠍の顔面へと向かい、見事に的中した。



「ギィイイイイッ……!?」

「ふうっ……流石に死ぬかと思った」

「レア様!?」

「無事だったんですか!?」

「あの攻撃を受けて……!?」



毒針にやられたと思われたレアが立ち上がる光景に誰もが驚き、その様子を見てレアは苦笑いを浮かべながら背中の傷を指差す。すると、いつの間にか確かに刺されたはずの背中の傷が消えていた。




――砂魔蠍から攻撃を受けた際、咄嗟にレアはステータス画面を開き、文字変換の能力を使用して肉体の状態を元に戻したのだ。刺された時にレアの身体は「猛毒」の状態に陥ったが、それを「健康」に書き換えて復活を果たす。


普通の人間ならば即死してもおかしくはない毒だったが、以前にレアは「毒耐性」という技能を身に付けており、この技能のお陰で毒に対する耐性が出来ていた。そのお陰で即死は免れ、身体が動けるうちに回復を行う。


まさか砂魔蠍も毒を受けて復活を果たす相手に遭遇した事はなく、完全にレアが動けないと思って油断していた。その隙を突いてレアは攻撃を行い、反応が遅れた砂魔蠍は顔面をデュランダルによって貫かれた。




「全く、冷や冷やさせないでくださいよ……危うく私の開発中の薬を使う所でしたよ」

「ごめんって……でも、声を上げたら相手に気付かれたでしょ?」

「ぶ、無事で良かったです……申し訳ございません、私のせいで」

「いいよ、気にしなくて……それよりもこのデカい蠍が砂魔蠍なのかな?」

「……話に聞いていたよりも随分と大きいな」



レア達は砂魔蠍を見つめると、船長に聞いていたよりもかなり大きく、最大でも3メートル程度の大きさだと聞いていたが、実際は5メートルを越える巨大な蠍だった。


いったいどういう事なのかとレア達は船長が乗っている砂船に視線を向けると、すぐに彼は船員たちを連れて砂魔蠍の方へと向かい、驚いた表情を浮かべて砂魔蠍を覗き込む。



「こ、こいつはどうなってんだ……どうしてこんな場所に砂魔蠍がいるんだ!?」

「ん?どういう意味だ?」

「砂魔蠍は自分の住処から滅多に離れるような真似はしないんだよ!!縄張りで餌が見つからないときは離れる事もあるが、それでも砂魔蠍が住処にしている岩山からここまで砂船でも半日以上はかかる距離にあるんだぞ!?」



船長によるとこの地域に砂魔蠍が現れる事自体が異常らしく、そもそも体長に関しても船長達が知っている砂魔蠍よりも大きい。もしかしたら亜種の可能性もあった。

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