第706話 黄金級冒険者の証

「あの、これを見てください」

「ん?何だってんだ……こ、こいつは!?」



レア、リュコ、ティナの3人が冒険者のバッジを取り出して差し出すと、それを見た船長は驚く。彼等が手にしているバッジは黄金製であり、この世界で黄金製のバッジを身に付ける事が許されているのは冒険者の中でも最高階級の「黄金級冒険者」だけである。



「ここにいる3人は黄金級冒険者なんですよ。実績もありますし、その砂漠の悪魔とやらを何とか出来ると思いますよ」

「ま、まさか……本物なのか!?という事はあんたら、腕利きの冒険者だったのか!!」

「魔物退治なら割と得意です」



船長はレア達が差し出したバッジを確認し、本物である事を知ると驚きを隠せない。3人ともかなり若く、特にティナとレアに至ってはまだ少年と少女にしか見えない。だが、これだけ若いのに黄金級冒険者を任せられる程の実力を持つ事を証明しているとも捉えることが出来た。


ちなみにレアの黄金級冒険者のバッジはレイナの姿で手に入れた代物であり、先日に正式に冒険者ギルド側から与えられた。最近は忙しくて冒険者活動は行っていないが、黄金級冒険者ならば他の国の冒険者ギルドに立ち寄る時に役立つかもしれず、一応は普段から身に付けていた。



「どうですか船長?私達を雇ってみませんか?そうすれば浮揚石を安全に回収できるかもしれませんよ?」

「むうっ……だが、黄金級冒険者となると金を結構取るんじゃないのか?」

「大丈夫です、私達の目的は浮揚石ですからお金はいりません」

「ほ、本当か?だが……いくら黄金級冒険者といえども、砂漠の悪魔を倒せるかどうか……」



船長は黄金級冒険者の存在は知っているが、それでも彼はレア達に砂漠の悪魔を倒せるのかと疑う。それほどまでに彼にとって砂漠の悪魔とは恐ろしい存在だった。



「あの、砂漠の悪魔とは異名なんですよね?本当の名前は何というですか?」

「あ、ああ……奴の名前は砂魔蠍すまさそりだ。奴の尾には猛毒があって、砂熊であろうと刺されれば一発で死んじまう。しかも蠍の癖にとんでもなくデカいんだよ」

「デカいというと、どれぐらいの大きさですか?」

「そうだな、成体なら3メートル程度だな。子供でも1メートル近くの大きさを誇る、だから現れたらすぐに分かるはずだ」

「そんなに大きいのか?」



体長が3メートルを誇る蠍型の魔物などリュコもティナも見たことはないらしく、船長によると大きいだけではなく蠍の尾には砂熊と呼ばれる赤毛熊と同程度の大きさと危険性を誇る魔物でさえも一撃で殺せる威力を誇るという。


砂魔蠍はこの砂漠に暮らす者にとっては正に悪魔のような存在だと言え、最も恐れられている魔物の1体でもあった。だが、浮揚石を手に入れる好機のため、リリスは引き下がらずに粘る。



「浮揚石を回収すれば皆さんも1年は安全に航海できるんですよね?なら、今が好機ですよ。黄金級冒険者が3人もこの砂漠に訪れる事なんて滅多に有り得ませんよ、この好機を逃していいですか?」

「ううん、そういわれてもな……本当にあんたらでどうにか出来るのか?」

「どうやら実力を疑っているようですね、仕方ありません……なら、この3人の力を見せてあげましょう」

『えっ?』



リリスの発言にレア達は声を重ねて呆気に取られるが、彼女は目的のためならば手段を択ばず、3人の実力を見せつけるために船長にある提案を行う――






――砂船が停止すると、レア、ティナ、リュコの3人は船から下りて砂漠の魔物と戦わされる事になった。実力を見せつけるには実際に戦っている場面を見せるのが一番だというリリスの提案により、3人は魔物に見つかりやすい場所に降りて待機する。



「皆さん、頑張ってくださいね〜応援してますよ……ごくごくっ」

「ぷるぷるっ(水、美味しい)」

「ちょっと!!安全な船の上で水を飲みながら応援しないでよ!!」

「あ、暑い……」

「……魔物が現れるまでずっとここに立っているのか?」



レア達は砂丘の上で待ち構え、魔物の姿を探す。その様子を砂船からリリス達は様子を伺い、魔物が現れるまで待機する。甲板に立っているリリスとクロミンはこれ見よがしに水を飲む光景にレアは怒るが、そうこうしている間に3人から少し離れた場所で砂煙が舞い上がった。



「うわっ!?何だ!?」

「また砂鮫が現れたのですか!?」

「いや……あれをよく見ろ、どうやら違う様だぞ」



突如として出現した砂煙を見て3人は再び砂鮫でも現れたのかと警戒したが、実際に出現したのは砂鮫ではなく、さらに巨大な生物だった。

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