第705話 砂船
――砂船と呼ばれる乗り物に乗り込んだレア達は砂漠を移動し、巨人国へと向かう。まさか砂漠を移動する船に乗り込む事になるなど思いもしなかったが、旅自体は快適であった。
砂船に乗っている間は砂漠の魔物に襲われる事もなく、定期的に食料や水は砂漠に存在するオアシスに立ち寄って補給を行う。順調にレア達は巨人国へ近付いており、この砂漠を越えれば巨人国の領地へと辿り着く。
「がはははっ!!他の人間をこの船に乗せるのは久しぶりだな!!ほら、遠慮せずに食えっ!!」
「ほほう、これは意外といけますね。珍味です」
レア達は砂船の内部に存在する食堂に招かれ、食事を味わう。この砂漠にしか生息しない魔物の素材を使った肉料理を味わう。船長と船員と共に飯を味わいながらもレアは色々と彼等から話を聞く。
「皆さんはずっとこの船に乗って暮らしてるんですか?」
「おうよ、俺は40年もこの砂船の船長を務めてるんだ!!時々、砂漠の街に立ち寄る事もあるが、俺達にとっての家はこの船だからな!!」
「なら、ずっと砂漠を旅してるんですか?」
「まあ、そういう事だな」
「こんな砂漠でどうやって生活しているんですか?いくら何でも自給自足で生活しているわけではないんでしょう?」
「そりゃそうだ、俺達だって何もずっと船に乗ってるだけじゃないからな」
ティナの質問に船長は頷き、彼は大きな骨付き肉に嚙り付きながら詳しく説明してくれた。ちなみに食事に出された肉はこの砂漠にしか存在しない「砂熊」なる魔物の食材を調理した肉である。
「俺達は砂漠の魔物を討伐して、その素材を回収して街に売っぱらってるんだ。後はこの砂漠にはいくつか貴重な鉱石が取れる岩山があってな、そこに立ち寄っては鉱石を採取して帰ってるんだよ。後はあんたらみたいに砂漠を渡りたい奴を船に乗せて金を貰ってるんだ」
「なるほど、そういう事でしたか」
「それにしてもこんな大きな船が砂漠を移動するなんて……いったいどういう原理なんですか?」
「がはははっ!!初めて砂船を見る奴は皆いつもお前さんと同じ事を質問してくるぜ!!」
レアの質問に船長は豪快に笑い、簡単に砂船の原理を説明してくれた。この船自体は特殊な木材で構成されており、実のところは並の金属よりも硬い木材で出来上がっているらしい。
船の構造自体は海に出る船と大きな差はなく、違いがあるとすればこの船の動力源が二つの魔石を利用している事である。この船の船底部分には「浮揚石」と呼ばれる魔石が装着されている。
この魔石は以前にレア達が飛行船を作り出すのに利用した魔石であり、不思議な事に物体に取り付けると重量を軽くさせる効果があり、物体の形状と重量によっては風船のように浮き上がるため、そのような名前が付けられた。
砂船は浮揚石と更に風属性の魔石が船には取り付けられ、任意で風を引き起こす事で船を自由に動かせるという。分かりやすく言えば浮揚石で砂船の重量を減らし、風の力で船を動かしているらしい。
「なるほど、自然界で取れる浮揚石を利用しているんですか……飛行船の開発の際に役立ちそうですね、余分に余っている浮揚石があったら分けてくれませんか?勿論、お金は払います」
「おお、本当か?だが、悪いが俺達も浮揚石に余裕はないんだ。この魔石を手に入れるにはちょいと厄介な場所に行かなくちゃならないからな……そう簡単には手に入る代物じゃないんだ。悪いな、嬢ちゃん」
「厄介な場所?」
「ああ……俺達が砂漠の悪魔と呼んでいる化物が住処にしている岩山があるんだ。そこの岩山に行けば浮揚石は回収できるんだが、砂漠の悪魔が邪魔をして簡単には回収できねえ」
「砂漠の悪魔、ですか……どんな魔物なんですか?」
「蠍だ。しかもバカでかくて猛毒を持った蠍型の魔物だ」
船長の話によるとこの砂漠で浮揚石が唯一取れる場所は「砂漠の悪魔」なる存在が住み着いているらしく、そこに行かなければ浮揚石は取れないのだが、この魔物のせいで回収が難しいという。
砂漠の悪魔はこの砂漠の魔物の中でも厄介な魔物らしく、砂船であろうと躊躇なく襲い掛かる程の獰猛性、刺されれば即死は免れない猛毒の尾、更には砂の中に潜り込んで獲物を待ち伏せする習性を持つ。
「浮揚石は加工してから1年間しか持たない、だから俺達は1年に1度は必ず浮揚石を回収しなければならないんだが……奴のせいで毎回浮揚石の回収は命懸けだ。悪いが浮揚石を回収する時が来ても、あんたらの分まで回収する余裕はねえよ」
「なるほどなるほど……事情はだいたい分かりました。じゃあ、その砂漠の悪魔とやらは私達が何とかしましょう。そうすれば貴方達は浮揚石を回収できるんですよね?天然物の浮揚石は私も興味あります」
「……お前等、話を聞いていたのか?砂漠の悪魔がどれだけ恐ろしい魔物なのか説明しただろ?」
船長の話を聞いてリリスは砂漠の悪魔を自分達に任せて浮揚石の回収を行うように促し、そんな彼女の言葉に船長は呆れるが、彼に対してレア達はある物を見せつける。
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