第704話 砂漠の魔物

「ぬぅううんっ!!」

「シャアアッ!?」

「す、凄い!!」

「なんて馬鹿力ですか!?」



砂鮫を持ち上げたリュコは怪力を生かして振り回すと、砂鮫は悲鳴を上げながら空中に放り出される。その光景を確認したレアは常備していたデュランダル(オリジナル)を取り出すと、砂鮫に対して大剣を振り払う。



「喰らえっ!!」

「シャギャアアアッ!?」



墜落してきた砂鮫に対してレアはデュランダルを振りかざすと、刃が衝突した瞬間に強烈な衝撃波が砂鮫へと襲い掛かり、粉々に砕け散る。ゴーレムと同様に砂鮫は普通の生物ではなく、破壊された肉体の破片から砂鮫の核が出現するとリリスが飛び込んで回収する。



「ひゃっほう!!砂鮫の核、ゲットです!!」

「ふうっ……危なかった」

「ぷるるんっ(元の姿だったら負けなかったのに)」



呑気に砂鮫の核を回収するリリスに呆れながらもレアはデュランダルを背中に戻し、この時に複製したデュランダルよりも本物のデュランダルの方が使いやすいように感じた。


複製品のデュランダルはオリジナルのデュランダルと全く同じ性能なのだが、感覚的には本物のデュランダルの方が力を引き出せやすい。これはレアが本物のデュランダルに認められているからなのが原因だと思われる。複製品の方もレアが所有者である事は間違いないが、やはり元々の素材が聖剣の模造品だっただけに本物とは何か違いがあるらしい。



「レア様、大丈夫でしたか?怪我をしていませんか?」

「俺は平気だけど……二人は大丈夫?」

「問題はない、少し手を切っただけだ……こんなの放置していればすぐに治る」

「あ、駄目ですよ。医者の前で強がらないでください、すぐに治療しますから」



リュコは牙を抑えつけた際に掌が切れてしまい、血が滲んでいた。そんな彼女に砂鮫の核を回収したリリスが治療するために薬を取り出すと、何故かリュコは一歩下がる。



「いや、本当に平気だ……気にしないでくれ」

「何を言ってんですか、ほら消毒しますから手を出して下さい」

「や、止めろ!!平気だと言っているだろう……近づくな!!」

「リュコさん、どうしたのですか?」



頑なに治療を拒むリュコにティナは驚き、どうしてそこまで拒むのかと不思議そうな表情を浮かべると、リュコは言いにくそうに答えた。



「その……昔から薬は苦手なんだ。怪我をしたときも自力で治してきた。大怪我を負った時は回復魔法で治して貰っていた」

「いや、子供ですか!!薬が苦手って……」

「しょ、しょうがないだろう……性分だ、この程度の傷ならすぐに治る」

「そりゃ、巨人族の回復力なら平気かもしれませんけど……」



巨人族は人間よりも肉体が強靭で自然回復力も高い。そのため、普通の人間なら治療を必要とする怪我であろうと放置していても治る事が多い。だが、リリスも薬剤師として意地でもリュコの怪我を治療しようと試みる。



「わがまま言わないで傷を見せてください!!巨人族の戦士なんだから消毒ぐらい我慢して下さい!!」

「や、止めろっ!!これぐらいの傷、舐めれば治る!!」

「動物じゃないんですから舐めたぐらいで治るわけないでしょ!!ほら、怪我を診せてくれないと何をしでかすか分かりませんよ!!」

「何をする気だ!?」

「二人とも止めなって……」

「ぷるぷるっ!!」



維持でも怪我の治療をしようとじりじりと近づくリリスに対し、警戒したようにリュコは両手を構えるが、そんな二人の間にレアが割り込む。この時にクロミンが何かに気付いたように身体を震わせた。


また敵でも現れたのかとレア達は警戒したが、クロミンが示す方向を確認すると全員が驚きのあまりに目を見開く。レア達が滞在している塔に向けて接近してきたのは砂の上をまるで海の上のように移動する巨大な木造船が近付いていた。



「な、何だあれ!?」

「船、か?」

「どうして砂漠に船なんか……」

「あ、やっときましたね。あれがこの砂漠を巡回する「砂船」ですよ」

「砂船!?」



リリスは砂船と呼んだ砂漠を移動する巨大船は塔の前にまで移動すると、そこで停止する。砂船を目の前にしたレア達は戸惑うと、砂船から男性が姿を現す。それはドワーフの老人であり、頭には三角帽子を身に付けていた。



「おい、あんたらこんな場所で何をしてんだ!?」

「何をしてるって……」

「私達は巨人国へ向かうためにここへ来ました!!貴方達の船に乗せてくれませんか?」



ドワーフの老人が甲板からレア達に話しかけると、リリスは巨人国へ向かうために船に乗せて欲しい事を伝える。すると老人は上機嫌な表情を浮かべる。



「何だ、客だったのか!!観光客か?それとも商人か?まあ、どっちでもいい……一人に付き、銀貨5枚だ!!払えるか!?」

「はい、問題ありません!!」

「よし、それならさっさと入りな!!巨人国へは三日後に辿り着く、それまでの間はこの砂船でゆっくりと過ごしな!!」

「砂船……」



レア達は砂船と呼ばれる巨大船に視線を向け、砂漠の上を移動する船がある事に驚く。リリスはどうやらこの船を待ち続けていたらしく、この砂船を利用して砂漠を通り抜ける予定だったらしい。

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