第703話 砂漠

――ケモノ王国から出発してから一週間ほど経過すると、遂にレア達は大陸の中央部にまで辿り着く。竜車から降りると、レアの視界には広大な砂漠が視界に映し出される。



「うわ、凄い……本当に砂漠だ」

「気を付けて下さい、巨塔の大迷宮の砂漠の階層と同様に危険な場所ですからね。油断しないように気を付けましょう」



リリスによると大陸の中央部に存在する砂漠は危険地帯として有名らしく、この砂漠には巨塔の大迷宮の砂漠の階層と同様に危険な魔物が生息しているらしい。巨塔の大迷宮にはサンドゴーレムなどの特殊な魔物が存在したが、この砂漠も同様にゴーレム種が生息しているという。


この砂漠を迂回するか、あるいは通り抜けなければ巨人国へ辿り着けない。但し、前者の迂回するルートだと時間が掛かり過ぎる。一方で通過する場合でも砂漠に迷い込めば命を落としかねない。



「砂漠を迂回する気か?それとも、このまま突っ切るのか?」

「突っ切りましょう。この砂漠を通り抜ければ巨人国の領地まですぐに辿りつけます」

「ですが、砂漠を移動するにしてもそれなりの準備は必要です。平地と違って砂漠を移動するのはクロミンでも難しいのでは……」

「ガウウッ……」



ティナの言葉に牙竜状態のクロミンは恐る恐る砂に足を踏み入れると、体重が重いせいで足が砂の中に埋まってしまう。平地と比べれば移動速度は引き出せず、それに砂丘が多いせいで馬車を引いて移動するのは難しそうであった。



「このまま進むのは流石に無理じゃないの?」

「大丈夫です、それを想定してこの場所に来たんですから。ほら、あそこに塔が見えるでしょう?あそこまで行けば大丈夫です」

「塔……?」



リリスの指差す方向には確かに砂漠と平地の境目に塔のような建物が存在し、その場所までレア達は移動する。こんな場所に辿り着いて何をするつもりなのかとレア達がは疑問を抱くと、ここでリリスは双眼鏡を取り出して周囲を見渡す。



「この塔は道標なんですよ。ここで待っていれば必ず迎えが来てくれます」

「迎え?それって、巨人国の人たちがわざわざ迎えに来るの?」

「まあ、そんな感じです。ちょっと予定の時刻よりも早く辿り着きましたね……もうしばらくはここで待ちましょう」

「暑いな……」

「ふうっ……」



とりあえずはリリスの言う通りに砂漠の隅に存在する塔にてレア達は待機していると、あまりの熱気にリュコは眉をしかめ、ティナは鎧を脱いで軽装となる。レアの方も暑いが前に「熱耐性」の技能も習得しているため、耐え切れない程ではない。


クロミンが牙竜のままだと目立ちすぎるのでスライムの状態に戻すと、レアはクロミンを両手に抱えた状態でリリスの言う迎えとやらを探す。だが、いくら待っても一向に誰も現れる様子はなく、流石にしびれを切らしたリュコが尋ねる。



「遅いな……まだ来ないのか?」

「おかしいですね、もうそろそろ来てもおかしくはないんですけど……」

「ぷるんっ!?ぷるぷるっ!?」

「うわ、どうしたのクロミン?トイレ?」

「ぷるるんっ!!(スライムはトイレなんてしないよ!!)」



唐突にレアに抱かれているクロミンが震え出し、何かを伝えるように身体を激しく震わせる。その様子を見て全員が戦闘態勢に入ると、突如として近くに存在する砂丘が内部から吹き飛び、派手な砂煙と共に巨大な鮫の様な生物が出現した。



「シャアアアッ!!」

「こいつは……砂鮫!?」

「でかくないですか!?」

「お前達、下がれ!!」



巨塔の大迷宮にも生息していた「砂鮫」と呼ばれる外見は鮫とゴーレムが合わさったような魔物が出現し、派手に砂煙を舞い上げながらレア達の元へ向かう。その体長は巨塔の大迷宮で遭遇した個体よりも大きく、巨人族でさえも丸呑みできそうな大きさを誇る。


砂鮫はレア達の元へ向かうと、巨大な口を開けて飲み込もうとしたが、それを闘拳を装備したリュコが立ちふさがる。彼女は両腕を広げると、自分を飲み込もうとする砂鮫を抑えつけるために牙を掴む。



「ぐううっ!?」

「アガァアアアッ……!!」

「ちょ、全然止められてませんよ!!」

「足元が砂場だから踏ん張れないんですよ!!」



リュコは渾身の力で砂鮫を止めようとしたが、足元が柔らかい砂場のせいで上手く力が入れられず、徐々に後ろに追い込まれていく。その光景を見てリリス達は巻き込まれる前に下がろうとしたが、ティナは跳躍すると砂様の頭部に向けて大剣を振りかざす。



「はああっ!!」

「アグゥッ!?」

「くぅっ……ぬおおっ!!」



ティナが頭部に大剣を叩きつけた際に砂鮫が怯み、その隙にリュコは渾身の力を込めると、あろう事か砂鮫の巨体を持ち上げる。砂鮫は必死に暴れるが、リュコは鼻息を荒く鳴らして振り回す。

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