第702話 シゲルとシュンの対立

「シゲル、君だって悔しいとは思わないのか!?世間では霧崎君だけが勇者だと思われている、この国の人間は最も優れた勇者を手放したと内心では誰もが思ってるんだぞ!?」

「ふざけんなっ!!だからって、どんな手を使ってもいいと思ってんのか!?お前が持っているその魔剣がどれだけ危険な物なのか分かってんのか!?」

「承知の上さ……確かにこの魔剣は危険な力を持っている。だが、どんなに危険な武器だろうと所有者の使い方によっては結果は大きく変わる。聖剣と呼ばれる武器だって戦争に利用すればただの兵器に等しい。だったら魔剣と呼ばれる武器だろうと、正しく使えば問題はない!!」

「正しく使うだと?笑わせんなっ!!人の右手を燃やそうとしたくせによ!!」

「……それは君が殴りつけてきたからだろう。自業自得だ、だいたい僕が手加減しなければ今頃君は火だるまだ」

「てめえっ……!!」



シゲルとシュンは睨み合い、言い争うを行う。シゲルとしては魔剣は危険な存在のため、今すぐにシュンに手放すように促す。だが、シュンは魔剣を手放すつもりはなく、折角手に入れたこの強大な力を持つ剣さえあれば聖剣を所有するレアにも勝てると確信していた。


今までにシュンがレアに後れを取っていた理由、それは彼には聖剣という強大な力を持つ武器があるが、自分にはなかった事だと確信していた。しかし、今ならば聖剣に匹敵する魔剣を手に入れた以上、剣士の勇者として召喚された自分が負けるはずがないと自信を抱く。



「シュン、何があろうと僕はこの魔剣を手放すつもりはない。さあ、退いてくれ!!君と戦いたくはない!!」

「ふざけんな!!さっさと捨てろ、そんなもんを使ってまで霧崎に勝ちたいのか!?」

「ああ、そうさ!!僕は勇者であり、そして剣士だ!!だから解析の勇者になんか負けられないんだ!!」

「シュン!!いい加減に目を覚ましやがれ!!」

「それはこっちの台詞だ……シゲル!!」

「もう、止めて!!二人とも!!」



今すぐにでも殴りつけようとするシゲルと、それに対して魔剣を構えたシュンの間にヒナが割込み、それを見た二人は驚愕の表情を浮かべる。気づけばヒナ以外にも二人の周りには兵士が集まっており、その中にダガンの姿も存在した。



「止めるんだ、二人とも!!」

「ダガンさん……」

「シュン君、シゲル君、もう止めてよ……喧嘩は良くないよ」

「ヒナ……」

「……ちっ」



涙目を浮かべるヒナの言葉にシュンとシゲルは武器を下げるが、シゲルは明らかに不満そうな表情を浮かべていた。だが、そんな二人に対してダガンは叱りつける。



「二人とも……色々と言いたい事はあるが、とりあえずは皇帝陛下の元へ向かうんだ。陛下はシュン君がいなくなった事を大層心配していたよ」

「……はい、分かりました」

「シゲル君は少し頭を冷やすんだ。そうだ、これから一緒に訓練をするのはどうかな?」

「……何で頭を冷やすのに訓練なんだよ、もういい。俺は部屋に戻るぞ」



シュンはダガンの言葉に頷き、シゲルは納得できないのかその場を立ち去る。その様子を見てダガンはため息を吐き出し、一方でヒナの方は心配そうな表情を浮かべた。



「シュン君とシゲル君、いつもはあんなに仲が良かったのに……」

「大丈夫、すぐに仲直りするさ……きっとね」



ヒナは立ち去っていく二人の姿に不安を覚え、ダガンもその様子を見て内心ではこのまま放置して大丈夫なのかと思う。だが、今の二人にかける言葉など見つからず、黙って見送る事しか出来ない。





――その様子を城壁の上から覗き込む人物が存在し、使用人に格好をしたイレアは勇者同士の対立を見て笑みを浮かべ、その場を立ち去った。






※勇者同士の絆に亀裂が生まれ始めました。これからどうなるのか……次回からはレアの視点に戻ります。

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