第700話 誰が一番好きなのか?
「勇者殿、仮にも人から尊敬される立場の勇者殿が女性に対してだらしないのはどうかと思う。誰彼構わずに手を出すのは感心しないな、男ならば一人の女性だけを愛して妻に迎え入れるべきだろう」
「い、いや……そう言われても、結婚なんてまだ早いし」
「勇者殿の年齢ならば別に結婚していてもおかしくはないと思うが……」
リュコの言葉にレアはそういえばここが地球の日本ではない事を思い出し、レアの年齢ならば既に結婚していてもおかしくはない。
「勇者殿、そもそも勇者殿は誰が好きなんだ?日頃からあれだけ女性と共に行動しているのだから、誰か一人ぐらいは意識した事はないのか?」
「そ、そういわれても……」
「わ、私もそれは気になります!!」
「何ですか、何か面白そうな話をしていませんか?」
レアが普段から接する女性陣の中で誰が一番意識しているのかをリュコが問うと、ティナは興奮した様子でレアに迫り、御者役のリリスも興味を抱いたように馬車へと振り返る。
いきなりそのような事を言われてもレアも戸惑い、冷静に振り返って考えると自分の周りが見目麗しい女の子だらけだと思い出す。リル、チイ、ネコミン、リリス、ハンゾウ、ティナ、リュコ、それにサンを加えると総勢で8人の女子と接している。ここにアリシアやヒナを加えれば10人近くの女性とレアは関りがあった。
(誰を意識していると言われても……誰だろう?)
リュコの言葉にレアは真剣に悩み、普段から行動を共にすることが多いのはやはりリル達ではあるが、彼女達の場合は「女友達」という感覚である。ならば他の者を女性として強く意識した事はあるかと言われれば、そんなことはない。
(そもそも皆、レイナの姿で接する事が多かったからな……)
基本的には王都に滞在していた頃はレアはレイナとして活動する事が多く、肉体が女性のせいなのかリル達と接していても特に彼女達を女として強く意識したことはない。
最近ではレイナの姿で行動していると、男性陣に身体を見られるだけで恥ずかしいという乙女心まで芽生えている節がある。なので出来る限りは男性の姿で居るように心掛けているが、自由に性別を変化できるせいでレアはどうも女性に対する認識が元の世界にいた時と変化したように思える。
(う〜ん……こんなに可愛い女の子達と一緒に過ごす日々なんて昔の俺なら嬉しかったかもしれないけど)
地球から召喚されたばかりのレアならばリル達の事を女性として強く意識し、もしかしたら彼女達の誰かを好きになっていたかもしれない。しかし、レイナの姿になれるようになってからは女性に対する認識が若干変化してしまい、まるで同性の相手のように感じてしまう。
(最近だと綺麗な女の人を見てもあんまり何にも思わなくなったし……もしかして、結構やばいんじゃないのかこれ?)
森の民や人魚族と遭遇した際、彼等の殆どは容姿が優れており、森の民の族長のカレハや人魚族の女王のセリーヌは絶世の美女と言っても過言ではない。だが、そんな二人を相手にしたときもレアはせいぜい綺麗な人だなとしか考えておらず、特に緊張せずに普通に接していた。
(あれ……本当に冷静に考えたら結構まずくない?)
地球にいた時よりも綺麗な女性と関わり合いが多くなったにも関わらず、現在のレアはどんな女性と出会っても特に意識する事は無くなった。その事実にレアは焦り、このままだと自分はどんな女性と出会っても恋愛関係に至ることはないのではないかと不安を抱く。
――実際の所、レアが女性に対して意識をしなくなった原因は他にもあり、その理由は吸血鬼を倒した時に身に付けた「魅了」の能力が関わっている。この魅了は相手を魅了させて自分の虜にさせる能力だが、反面にこの能力を持つ事によって魅了に対する耐性を得てしまう。
魅了の耐性を得たレアはどんなに外見が優れた異性であろうと、この耐性のせいである程度の感情が抑えられてしまい、興奮する事も少ない。そのせいで外見だけではレアの心を奪う事は出来ない。
レアが誰かを好きになるとすればそれは外見ではなく、内面で惹く以外に方法はない。その点ではレアの周囲の女性陣は全員が良い子ではあるが、何かしら問題を抱えている子ばかりなので恋愛関係に発展する事はなかった。
「……まあ、勇者殿が誰が好きになるのかは勇者殿の自由だ。だが、私が言いたいのは大勢の女性を泣かせるような真似はよせという事だ」
「あ、はい……肝に銘じておきます」
「むうっ……本当に気を付けて下さいね」
「何ですか、このラブコメ空間は……」
「ガウッ?」
リュコの言葉にレアは頭を掻き、その様子をティナが複雑そうな表情を浮かべ、リリスはため息を吐き出す。その様子を竜車を引くクロミンは不思議そうに振り返った――
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