第699話 巨人国の要望

「この手紙によると、巨人国は今後のために同盟を結び、両国の発展のために力を合わせようと記されている。だが、具体的にどのように交流するかまでは記されていない」

「なんですかそれは……一番大事な部分も記さずに同盟を結びたいというんですか?」

「ああ、この手紙は明らかに不自然過ぎる。巨人国の国王が自らこんな手紙を書いて送り出すぐらいだ。もしかしたら巨人国の方で何か異変があったのかもしれない」

「異変ですか……」

「そこで二人には悪いんだが、巨人国の方へ使者として出向いてくれないか?巨人国へ辿り着けばついでに飛行船の製作のために必要な人材も集められるだろう?」

「ふむ……そうなると私達だけで行く事になりますね」

「リュコを連れて行くといい。彼女は巨人国の生まれのはずだ。ティナも同行させるのも構わない」



リルの言葉にリリスは考え込み、巨人国へ出向こうとしていたので都合がいい。リルの頼みを引き受け、二人は使者として巨人国へ向かう事にした――






――リルの助言を受け入れ、レア達は巨人国へ向かう前にリュコとティナを呼び出す。この二人の本職は冒険者ではあるが、二人とも巨人国へ向かう際に護衛として雇いうという名目で同行してもらう。


巨人国までの移動手段としてクロミンに頑張ってもらい、彼を本来の姿に戻した後に牙竜様に改造した特別な乗り物を用意させる。以前にも利用した代物であり、名前は「竜車」という乗り物である。


王都から出発したレア達は牙路を通り抜け、キタノ山脈を抜けると巨人国の領地へ向けて出発する。巨人国までの道のりは遠く、牙竜の移動速度を以てしても到着までには数日はかかると予測された。



「ガァアアッ!!」

「うわっ、クロミン張り切りすぎ!!」

「久しぶりに本当の姿に戻れて興奮してるんですよ」

「それにしても……まさか牙竜が運ぶ馬車に乗る機会があるとは思わなかったな」

「そうですね、ですけどこの分ならば巨人国まで辿り着くのにそこまで時間は掛からないでしょう」



竜車の中にてレア達は乗り込み、御者はリリスに任せてレアは改めてリュコとティナと向き直る。改めて冷静に考えると同じ乗り物の中で見目麗しい女性に囲まれて旅をする状況は普通の男性ならば羨ましがるだろうが、レアの場合は常日頃から女性と共に行動しているのであまり意識出来ない。



(なんか女の姿でいる事に慣れ過ぎて女の子と一緒にいても緊張しないな……普通の男子だったら喜ぶのに)



最近のレアは女性の姿になる事は少なくなり、理由としては勇者として目立ち始めたので騎士団の仕事ではなく、勇者として活動する事が多くなったからである。別にその事に不満はないが、レイナの姿で居る事が多すぎたせいか最近は女の子と行動を共にしても特に意識しなくなった。


女性の姿で居る事が多すぎて相手が可愛い女子や美しい女性だろうと緊張しなくなり、普通に接する。ある意味では女慣れしたという事かもしれないが、ここでリュコがレアの様子を見て質問する。



「勇者殿、一つ聞きたいことがあるんだかいいか?」

「勇者殿?あ、俺の事か……何ですか?」



リュコはレアがレイナと同一人物である事はまだ知らず、あくまでもレアの事は勇者として認識しているので敬語を使う。リュコは王都で活動していた時、勇者に関する噂を耳にしたという。



「勇者殿が女好きだという噂は本当なのか?」

「ぶふぅっ!?」

「きゃあっ!?だ、大丈夫ですか!?」



リュコの言葉にレアは噴き出し、激しく咳き込む。その様子を見て心配したティナがレアの背中を摩ると、リュコは困ったように告げる。



「王都では勇者殿は女好きで、常に誰かしら女性を引き連れているという話はよく聞く。なんでも白狼騎士団の団長のチイ殿や副団長のネコミン、更には女王様にも手を出しているとか」

「そ、その噂は私も聞いた事があります。レア様に限って、そんな事はあり得ないと信じていますが……」

「そ、その噂……まだ残ってたのか」



レアはケモノ王国に辿り着いたころ、勇者という存在を何としても国に留まらせたい国王は彼に見目麗しい女性の使用人を送り込み、夜這いさせようとした。


だが、事前に国王の行動を察知していたリルは手を打ち、レアが女性に迫られる前にチイ、ネコミン、リリスと関係を持っているように仕向けたのだ。結果から言えば作戦は成功し、勇者はどうしようもない女好きだという噂が流れる。


この噂はあくまでも女性を近づけさせないための演技なのだが、未だに根強く勇者が女好きという噂は残っており、そのせいでレアはリュコにあらぬ疑いをかけられた。

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