第698話 ケモノ王国と巨人国の関係

「それに剣の魔王や、魔王を復活させた敵も放置するわけにはいかないし……そいつらを何とかするまでは戻れる方法が分かっても戻らないよ」

「まあ、レアさんならそういうと思いましたよ。それに元の世界に戻ったとしても、また呼び出せばいい話ですからね」

「……え?今、さらりととんでもない事を言わなかった?」



元の世界に戻ればもうここへ戻ってくることはないと考えていたレアだったが、リリスによるとそんなわけでもないらしく、元の世界に戻った勇者が再びこの世界へ戻った事例もあるという。



「記録によると、どうやら勇者が帰還した後に試しに勇者召喚を行ったところ、帰還した勇者が戻ってきたという記録があるようです。まあ、貴重な転移石を使用する事になるのでこの方法が実践されたのは一度限りのようですけど……」

「何だよそれ……じゃあ、皆と別れてもまたここへ戻ってこれるのか」

「といっても、確証はありませんけどね。まあ、転移石ならレアさんの能力でいくらでも作り出せますし、そこら辺は何とかなるんじゃないですか?」

「……そういう事はもっと早く言ってくれ」



リリスの話を聞いてレアとリルはため息を吐き出し、同時に安堵する。地球へ帰還すればもうこの世界に戻れないかと思ったが、どうやら勇者召喚を行えば元へ戻れるのならばいらぬ心配をしてしまった。


地球とこの世界を行き来する方法があるのであればレアも気兼ねなく元の世界へ戻る事が出来る。だが、帰還するためには勇者が利用した特別な道具とやらを調べねばならず、その辺の調査はリリスに任せる事にした。



「まあ、私も忙しい実ですけど地球へ戻る方法は私の方で調べておきますよ。私も地球へ行ってみたいですからね」

「何?私達もそのチキュウという世界へ行けるのか?」

「記録によると勇者は妻として迎えた女性を連れて帰還したそうです。なので私達も地球へ行ける可能性はあります」

「勇者が暮らす世界か……そこには飛行機や自動車なる乗り物があると言っていたね?それは是非見てみたいな」

「じゃあ、そのためにも頑張って元の世界へ戻る前に心残りがないように魔王を倒しましょう。というわけで、私達は巨人国へ向かう許可を下さい」

「どういうわけだ!?」



リリスの唐突な言葉にリルは驚くが、ここに来た目的をレアは思い出し、彼女に新しい飛行船の開発には巨人族の力も必要だと話す。そのためには巨人国に出向き、巨人族たちの協力を得たいことを伝える。



「かくかくしかじかわふわふ……ということで私達は巨人国へ向かいたいんですよ」

「な、なるほど……そういう事だったのか。だが、巨人国か……」

「やっぱり何か問題がありますか?」

「いや、問題がないわけではない。むしろ、都合が良かったよ」

「都合がいい?」



話を聞き終えたリルは一枚の羊皮紙を取り出し、それをレア達に見せつける。その内容は巨人国の国王が直筆した代物であり、彼女によると少し前に巨人国から送り届けられた手紙だという。



「ケモノ王国と巨人国は長い間、交流はなかった。だが、巨人国の国王から手紙が届いてな、その内容が巨人国とケモノ王国が同盟を結びたいという内容なんだ」

「同盟ですか、そういえば両国が同盟を結んだ事は今までなかったですね」

「え?そうなの?」



巨人国とケモノ王国はこれまでの歴史上で同盟を結んだ事がないという事にレアは少し意外に思うが、理由としては色々とあるらしく、同盟を結ばなかった最大の理由は両国に利益が生まれないという理由だった。



「ケモノ王国と巨人国は大陸の北部と南部を支配しています。つまり、向かい合っていはいますが一番距離が離れています。しかもケモノ王国の場合はキタノ山脈と牙路のせいで外国との交流が難しいですからね。海路を利用するにしても両国の船は大陸を反対側同士なので出向くのも大変ですから」

「あ、なるほど……」

「一応は東の大国であるヒトノ帝国を警戒し、ケモノ王国と巨人国同士で同盟を結んで両国同士で帝国を牽制する事を唱える者もいた。だが、土地柄的にも両国は連絡が取りにくく、そもそもケモノ王国の場合は巨人国と違って天然の要害で守られている。だから同盟を結んでも巨人国の方に利益が大きい」

「なるほど……なんか複雑ですね」

「そりゃ複雑ですよ〜国同士の諍いというのは」



これまでにケモノ王国と巨人国が手を結んだり、あるいは敵対しなかった理由は東を占拠するヒトノ帝国の存在が大きく関わっていた。また、距離や土地柄の問題もあり、両国は本格的に交流する機会すらもなかったという。


だが、突如としてリルの元に巨人国の国王からの手紙が届き、その内容というのが巨人国と同盟を結びたいという旨が記されていた。国王の直筆の手紙となると巨人国側も今度は本気でケモノ王国と同盟を結びたいという意思が伝わり、リルとしては対応に困っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る