第697話 勇者の召喚方法
「あの……多分ですけど、報告書の中に魔王に繋がりそうな書類はなさそうですね」
「……そうか、なら今度からはレア君に書類を任せてもいいかな」
「駄目ですよ、レアさんはこう見えても忙しいんですからね。書類の方はそちらでお願いします、私も飛行船の再開発で手一杯ですから……」
「ううっ……」
レアの解析の能力は書類仕事では便利ではあるが、生憎とレアが行わなければならない仕事も多く、彼の場合は勇者と騎士団の仕事を執り行っている。リリスも飛行船の再開発のためにこれから色々と忙しく、生憎とリルの手伝いは行えない。
せめてもっと人手がいれば良いのだが、チイは白狼騎士団の団長に就任し、ネコミンは副団長に就任している。ティナやリュコの場合は彼女達の本職は冒険者であるため、騎士や兵士の指導以外の仕事は任せられない。無論、現在は修行中のサンも年齢的や性格面を考えても書類仕事は任せられるはずがなかった。
「くうっ……帝国から人材を引き抜いたというのにむしろ前よりも仕事が多くなっている気がする」
「それはそうですよ。人が多くなれば仕事の量も分担できますが、逆にもっと仕事の量を増やせます。王様なんか人が多ければ多いほどに仕事の確認をされる立場ですからね。忙しくないはずがありません」
「そうだな……はあっ、こうなったらレア君に私をもう一人作り出して貰うか」
「いや、流石にそれは……」
リルの言葉にレアは冷や汗を流し、実際にそれが出来るかどうかは試した事はないが、レアの能力ならば実現しかねない。適当な道具にリルの名前を打ち込んだ場合、本当にリルと同じ存在が作り出せる可能性もある。
だが、それをすればこの世界に二人の人間が存在する事を意味しており、当然だが複製した人間にも意思はある。これまでにレアは無機物から生物を作り出した事はないので実際にそんな事が出来るかは分からない。だが、決して不可能とは言い切れなかった。
「レアさんの能力を頼りにしたい気持ちはよく分かります。ですけど、何でもかんでもレアさんに頼むのは駄目ですよ。このままだとレアさんがいなくなった時、何もできなくなりますからね」
「それを君が言うのか……まあ、確かにその通りだな。レア君が元の世界に戻る時、私達はレア君に頼らずに生きていかなければならないのか」
「といっても、戻る手段は未だに掴めていませんけどね」
「はあっ……」
レアはケモノ王国に赴いた理由は元の世界に帰る方法を探すためでもあるが、現状では勇者が召喚する術は「転移石」という魔石が関わっている。この転移石と特別な儀式を使用すれば勇者は地球から呼び出される事は判明していた――
――ヒトノ帝国でレア達が地球から召喚された際、この時に帝国が保管している「転移石」と呼ばれる特殊な魔石を使用して召喚された事は既に判明済みである。勇者を異界(地球)から召喚するためには転移石と呼ばれる魔石が必要不可欠である事は間違いない。
ケモノ王国でも過去に勇者を召喚した際に同様の魔石を使用しており、この城にも勇者を召喚するための「儀式の間」と呼ばれる広間が存在する。その場所には複雑な魔法陣が描かれており、その魔法陣の中心部には転移石を嵌め込む台座が存在した。
この転移石を嵌め込み、特別な術式が施された魔法陣を使用すれば勇者は召喚される。但し、肝心の帰還の方法に関しては情報が掴めておらず、勇者が元の世界に帰還するには転移石の他に特別な道具が必要らしい。
「文献によると元の世界に戻ったという勇者は特別な道具を使い、儀式の間にて転移を成功させたと記されています。ですけど、この特別な道具に関する情報だけが何故か記されていませんね」
「どうして記されていないんだろう……そういえば前に巨塔の大迷宮の時も合言葉が消されていたよね」
「そうですね、どうもケモノ王国の文献は改竄されている資料が多すぎます。全く、手を抜いてずさんに管理しているから簡単に外部の勢力に資料を書き換えられるんですよ」
「それは私にではなく、先祖に文句を言ってくれ……だが、帰還方法が判明しない限りはどうしようもないな。いっその事、レア君もこの世界に永住したらどうだい?何だったらチイやネコミンやハンゾウ当たりと結婚するのはどうだい?何だったら全員と結婚しても構わないよ」
「それはちょっと……」
帰還を諦めてこの世界で暮らすという選択肢もあるが、レアとしてはそんな簡単に地球へ戻る事を諦めきれない。地球には家族や友達も存在し、彼等と会いたいという気持ちはある。
その一方でこの世界にも愛着を抱き始め、何だかんだでこの世界の事も気に入っているのも事実だった。だからこそ今までは躍起になって元の世界の帰還方法を探さなかったが、今は別の理由で元の世界には戻れないと考えていた。
※リリス「なんで結婚の時に私の名前を省いたんですか(・ω・)?」
リル「いや、君たちを結婚させると碌な事をしなそうだから……(;´・ω・)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます