第695話 魔剣カグツチ

――剣の勇者であるシュンはカグツチを手に入れてから翌日、彼は火山を降りると草原に生息する魔物を相手に魔剣の力を振るう。魔剣カグツチは刃に黒炎を纏い、この炎はシュンの意思によって出力を強化する事が出来た。



「はああああっ!!」

「ガアアッ!?」

「アガァッ!?」



コボルト、ファングといった草原に生息する魔物達を相手にシュンは剣を振り払うと、刃に纏った黒炎が魔獣達に襲い掛かる。その炎の威力は凄まじく、一瞬にしてコボルトやファングは黒焦げと化す。


更に恐ろしい事にカグツチの放つ黒炎はほんの少しでも身体に触れるとまとわりつくように離れず、掻き消す事が出来ない。腕が燃えたコボルトは必死に炎を消そうと腕を振り回したり、地面に叩きつけるが黒炎は消える事はなく、徐々に身体に広がっていく。



「ギャインッ!?」

「ギャンッ!?」

「はあっ……はあっ……まだまだ!!」



シュンはカグツチを地面に向けて突き刺した瞬間、黒炎が前方の方向に向けて放たれ、地面を燃やしながら逃げようとしたファングへと襲い掛かる。



「アガァアアアッ……!?」

「は、ははっ……凄い、なんて力なんだ!!」



あっという間に周囲に存在したコボルトとファングを焼き尽くす事に成功したシュンは声を上げ、彼は周囲を見渡す。黒炎の影響で緑豊かな草原は焼け野原と化し、数十体のコボルトとファングの焼死体が広がっていた。


魔獣を殺すためとはいえ、草原を焼き尽くす勢いで能力を使うシュンは正に「狂気」に囚われていたが、ここで彼は膝を着いてしまう。先ほどからカグツチの能力を使いすぎた影響で体力と魔力を消耗したらしい。



「くっ……な、何をしているんだ僕は?」



疲れた事でシュンはカグツチを手放すと、ここで冷静に周囲の惨状に気付いた彼は呆然と呟く。試し切りのつもりで魔物と交戦していた事は思い出すが、途中で魔剣の力に魅入られるように我を忘れ、周囲を燃やし尽くした事に気付く。



「ひ、酷い……僕は何てことをしたんだ」



無惨に倒れている魔物の焼死体を確認したシュンは冷静さを取り戻し、自分自身の行動に恐れを抱く。魔剣という強大な力を手に入れたシュンではあるが、その力に溺れたという事実に頭を抑える。



「……違う、これは僕のせいじゃない。この魔剣のせいなんだ……そうだ、そうに決まっている」



周囲に倒れている魔獣の死体に視線を向け、自分が気がくるって殺したわけではないと思い込み、彼はイレアの言葉を思い出す。かつて勇者として召喚された人間も魔剣のせいで気が狂い、遂には歴史から抹消されてしまった。


魔剣を手にしたとき、シュンは言いようのない高揚感を抱き、その力を発揮したいと考えた。その結果が今の状況を作り出し、彼は自分の行為を魔剣のせいにして自分は悪く無いと思い込む。



「そうだ、この魔剣のせいだ……僕は悪くない、僕のせいじゃない……くそっ!!」



シュンは忌まわし気に魔剣を手にすると、改めて周囲の状況を確認し、もう二度と魔剣の力に溺れない事を誓う。イレアの言う通りに魔剣と言えども使い方によれば所有者の大きな力となり、聖剣のように人々を救う事も出来る。



「そうだ……もう魔剣なんかに操られないぞ。僕は勇者だ……剣の勇者なんだ」



魔剣カグツチの力を完璧に使いこなす事を誓い、その一方で魔剣の力に溺れる事はないようにシュンは心の中で誓う。しかし、彼は忘れていた。かつて魔剣に魅入られた勇者も存在する事を――






――それから数日程、シュンは帝国の領地を転々と移動し、魔剣の力を使いこなすために魔物を相手に剣を振るう。使用する度に魔剣の力をシュンは徐々に引き出せるようになり、強くなっていく事を実感する。


しかし、同時に魔剣を扱う剣士が現れたという噂が帝国の領地の中でも広がり始め、その人間の容姿がシュンと同じ姿をしている情報が王都にも伝わった。その話を聞いたシゲルとヒナは占い師から教わった未来の出来事を思い出す。


噂を耳にしたシゲルとヒナはシュンは本当に魔剣に魅入られてしまったのかと不安を抱き、それでも彼が戻ってくるまで待ち続ける事しか出来なかった――






※ついに本格的にレア以外の勇者も動き出しました。

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