第693話 占い師の正体

「落ち着いて聞いてね……さっき、貴方が殺されたと言ったでしょう?実はその時にそこの女の子も一緒にいたのよ」

「何だと……」

「私の能力は一人の未来しか見通す事が出来ない。だけど、貴方達は一緒にいた……何か揉めていたようだけど、その内容は私にも分からないわ」

「分からない?どういう意味だよ?」

「私が見える未来には「音」は聞こえないの。だから、声も聞こえる事は出来ないし、貴方達が何を話していたのか分からないの。だけど、どうやら貴方はシュンといいう人に突っかかっていたように見えたわ」

「俺がシュンの奴を……」



女性の言葉にシゲルは否定できず、確かに勝手に姿を消したシュンを見れば我慢できずに飛び掛かるかもしれなかった。心配させたシュンを殴りつける事もあり得るかもしれない。


しかし、自分はともかくヒナまでもシュンが殺したという話が理解できず、シゲルは女性に詳しい経緯を尋ねる。シュンが女に手を出すような奴ではないと思っていただけに彼女も殺したという話が信じられなかった。



「なあ、占い師さんよ。俺はともかく、どうしてこいつまでシュンの奴は殺したんだよ。というか、本当なのか?本当にシュンの奴がこいつを殺したのか?」

「う、嘘だよね?もう、質の悪い冗談は止めてよっ!!」

「……いいえ、貴方達は殺されるわ。貴方を刺した後、それを見て驚いた彼女にも彼は剣を振り下ろした。二人とも血を流しながら倒れた後、その先の未来は見えなくなた……」

「未来が、見えなくなった……?」

「私の未来を見る能力は未来を見たい相手を確認した後、その人の未来を見る事ができるの。だけど、もしも未来でその人が死んだ場合、そこから先の未来は見えないわ……だって、死んでしまったら未来が見えるはずがないもの」



シゲルとヒナは女性の言葉に絶句し、流石のヒナも顔色が悪く、動揺を隠せなかった。シゲルの方も女性の言葉を頭ごなしに否定する事が出来ず、これまでの彼女の行動や最近のシュンの言動を考えると有り得ない未来ではないと考えてしまう。



(シュンが俺を殺すだと……しかも、ヒナの奴にまで手を出す?ふざけんな、そんな事があり得るはずが……)



絶対にあり得ない、その言葉をシゲルは言い切る事が出来ず、最近のシュンは色々とおかしかった。先日の帝国の騎士団と白狼騎士団との模擬戦での敗北以来、シュンは塞ぎ込む事が多くなり、訓練もまともに受けなかった。


騎士団が負けて喧嘩した時から彼の様子は何処かおかしく、いつも心ここにあらずという状態だった。それに気になるのは最近のシュンは独り言が多くなり、その時にシゲルは彼が「聖剣」や「魔剣」という言葉を使っていたことお思い出す。



「なあ、姉ちゃん……さっき、シュンの奴が変な剣を持っていたとか言ったよな?」

「え、ええ……本当に不気味で、恐ろしい剣だったわ。見ているだけでおぞましいというか……とにかく、嫌な感じがしたわね」

「え?シュン君、そんな剣持ってたかな……?」

「いや、俺達の武器は全部帝国から借り物だからな。あいつは剣なんか持っていないはずだぞ……」



勇者であるシゲル達は戦闘訓練の際は国が用意した最高級品の武具や防具を借りて行い、普段の彼等は武器や防具の類は所持していない。だからこそ未来のシュンが持っているという禍々しい雰囲気の剣という言葉にシゲルは引っかかりを覚えた。



「禍々しい剣……そういえばあいつ、魔剣とかなんとかぶつぶつ呟いていたな」

「魔剣!?まさか、私が見たのは魔剣だというの!?いやぁっ!!」

「きゅ、急にどうしたんだよ!?」



魔剣という単語に女性は顔色を青くして叫び声をあげ、その態度にシゲルは戸惑うと、女性は説明してくれた。



「あ、貴方達は知らないの!?魔剣がどんなに恐ろしい物なのかを……!!」

「な、何だって?」

「そんなに怖いの!?」

「怖いなんてものじゃないわ……魔剣はね、人を狂わせる力を持っているのよ。実際に過去に召喚された勇者でさえも気が狂い、遂には恐ろしい殺人鬼になったと言われてるのよ!!」

「何だと……」

「じゃあ、シュン君はまさか……」



女性の言葉にシゲルとヒナは顔を見合わせ、未来のシュンが自分達を殺した原因は彼が持っている「禍々しい剣」の正体が魔剣ではないかと考える。二人はいてもたってもいらえず、城に戻る事にした。



「姉ちゃん、俺達は行くぜ!!シュンの野郎を探し出さねえと……!!」

「早くシュン君を見つけないと!!」

「そ、そう……気を付けてね」

「あ、そうだ!!姉ちゃんも一緒に来てくれないか?そっちの方が事情を話しやすいと思うんだが……」

「……ごめんなさい、魔剣が関わっているのなら私はいけないわ。命は惜しいから……」

「そ、そうか……」



シゲルとヒナは女性の話を聞いて残念そうな表情を浮かべるが、今は何としてもシゲルを探し出すのが先であり、二人は城へ戻っていく。


立ち去っていく二人の様子を伺うと、占い師の女性は笑みを浮かべ、周囲に存在する人間に視線を向けた。行列を為していた人間達は女性と視線を交わすと、無表情のままその場を解散する。女性が上空に視線を向けると、少し離れた建物の上に立っていた男が存在し、その男の傍には先ほどシゲルに糞を落とそうとした鳥の群れが集まっていた。



「ふう、こうも見事に騙されるなんてね……未来を見通す力?そんな都合の良い能力なんてあるわけないじゃない」



女性は水晶玉に移る自分の顔を見て鼻を鳴らし、これで勇者達の間に大きな亀裂が生じた事を確認する。女性は改めて水晶玉に移り込んだ自分の顔に視線を向け、口元に笑みを浮かべた。



「だけど、私の言った言葉は全て真実になるわ……勇者達は殺し合い、そして魔王の器が完成する」



布を取り出して女性は化粧を落とすと、その顔はシュンと最近は仲が良くなったイレアの顔が露になり、彼女は確信を抱く。ごく近い将来、勇者達は殺し合う宿命だと――

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