第692話 占い師の忠告

「お、おいあんた……俺達の正体はその」

「大丈夫、他の人に話すつもりはないわ。でも、まさか勇者様の未来を見る日が来るなんて……」

「な、内緒にしてね?他の人に気づかれたら怒られちゃうから……」

「ええ、約束するわ。勇者様の頼み事なら断れないからね」



女性の言葉にシゲルとヒナは安心し、現在の二人はお忍びでこの城下町に赴いている。なので正体を気付かれると色々とまずく、後で城に戻る時に説教されてしまう。



「それよりも貴方達の未来を見させてもらったんだけど……そのシュンという人も勇者なの?」

「あ、ああ……そうだ」

「これは気合を入れないと駄目そうね……そうそう、さっき見た未来によると貴方はすぐに城へ戻った方が良さそうよ。夕方ごろに貴方達が筋肉ムキムキの男の人に説教を受けている姿が見えたわ」

「げっ!?」



筋肉という単語にシゲルは顔色を青ざめ、その単語を聞いただけで彼には心当たりがあった。どうやら早々に戻らないと自分達が抜け出したのがバレる恐れがあり、女性を急かす。



「な、なあ!!シュンの奴といつ会えるんだ?未来を見れば分かるんだろ?」

「さっきも言ったけど、あんまり遠い未来を見ても貴方と私の行動で未来は変わる可能性が高くなるわ。それでも、未来を見て欲しいの?」

「お願い、シュン君をどうしても見つけたいの!!いつ会えるのかだけでも分からない?」

「……やってみるわ」



女性は更に精神を集中させるように水晶玉に掌を翳す。この時にシゲルとヒナは水晶玉を覗き込むが、不意にシゲルは違和感を抱く。



(何だ?周りの奴等が妙に静かだな……)



行列を為す程に人気のある占い師を自分達が独占しているにも関わらず、他の客は特に騒ぎ建もせずに大人しくしていた。その事にシゲルは不思議に思うが、女性は目を開く。


水晶玉から女性は手を離すと、顔色を青ざめさせて椅子からひっくり返る。その様子を見てシゲルとヒナは驚き、慌てて女性を立ち上がらせる。



「お、おい大丈夫か!?」

「怪我してない!?」

「え、ええっ……私は平気よ。だけど、貴方達が……」

「何だ!?何を見たんだよ?」



女性は顔色を青ざめさせ、シゲルとヒナを見上げる。その様子にシゲルは彼女がどんな未来を見たのかと焦りを抱くと、女性はシゲルに対して震える声で呟く。



「城の中で……多分、中庭のような場所で貴方がシュンという人と出会うわ」

「何!?それは本当か?」

「良かった、シュン君戻ってくるんだ……」



シュンが裏庭でシゲルと再会したという話を聞いてヒナは安心するが、女性の反応からシゲルは只事ではないと悟り、詳しい話を尋ねる。



「おい、本当にシュンは戻ってくるのか?何が見えたんだ!?」

「……貴方に対して、そのシュンという男の子が剣を突き刺したわ。赤色の、禍々しい光を放つ剣に貴方は胸を貫かれた」

「な、何だと……!?」

「えっ……ど、どういう意味?」



女性の言葉にシゲルとヒナは意味が理解できず、信じられない表情を浮かべた。しかし、女性は真剣な表情を浮かべて告げた。




「――貴方は殺されるのよ……ごく近い将来、城に戻ってきたシュンという勇者に心臓を貫かれて死ぬ」





女性の言葉にシゲルは身体が硬直し、ヒナでさえも目を見開く。そんな彼等に女性は視線を逸らし、その態度に彼女が冗談やふざけて言っているわけではない事を悟る。


シゲルは身体を震わせ、ヒナでさえもどう言葉を口にすればいいのか分からず、とても信じられる内容ではない。だが、女性は二度も未来の内容を告げ、その二度とも的中させている。だからこそ彼女の言葉には信憑性があった。



「シュンが……俺を殺すだと?」

「そ、そんな事有り得ないよ……あのシュン君が、シゲル君を殺すなんて……」

「落ち着いて、さっきも言ったでしょう?私の能力は遠い未来を見通す場合は外れる可能性も高くなるって……だけど、私が貴方を占わなければシュンという人は貴方を確実に殺していたわ。それは……間違いないと思う」

「……嘘だろ」



何だかんだで友人だと思い込んでいたシュンが自分を殺す未来を見たという女性にシゲルは呆然とするが、とても信じられる話ではない。だが、最近のシュンの態度や急に姿を消した件もあり、彼は心の底からシュンの事を信じられなかった。



「そ、そんな……どうしてシュン君がシゲル君を殺すの!?」

「落ち着いて、さっきも言ったように未来は変わるのよ!!だから貴方達の未来も帰られる可能性も高い!!」

「おい、待て……貴方達だと?どういう意味だ?」

「そ、それは……」



女性の言い回しが気になったシゲルは尋ねると、彼女は言いにくそうに答えた。



「……貴方だけじゃないの、殺されたのは……そこの女の子も一緒なのよ」

「……えっ?」

「なん、だと……」



自分だけではなく、シュンは幼馴染であるヒナでさえも殺したという話にシゲルは動揺を隠せず、そんな二人に対して女性は悲し気な表情を抱く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る