第691話 占い師の言葉

「いいのよ、別に慣れているから……それよりも御二人さんは恋人同士かしら?」

「え?全然違うよ?もう、嫌だな〜」

「お、おう……」



恋人かどうかを尋ねられた途端にヒナは真顔で否定すると、その反応にシゲルは若干傷つく。別にヒナに対して特別な感情を抱いているというわけでもないが、こうもはっきりと告げられると複雑な思いを抱く。



「あら、そうだったの?若い男女が私の所に来るときは大抵は恋人同士なんだけど、違ったのね。それじゃあ、何を占って欲しいのかしら?」

「占いね……なあ、聞きたいことがあるんだけどあんたの占いは当たるのか?」

「占い師に占いがあたるかどうかを聞くなんて中々に意地悪な人ね……私は占術士の称号を持っているのよ」

「占術士?」

「そうね……今からあそこにいる人が転ぶわ」

「え?」



シゲルとヒナは占い師が指差した方向に視線を向けると、そこには一人の男性が歩いており、突如として何もない場所に転ぶ。



「あいたぁっ!?」

「うわ、大丈夫かあんた?」

「おいおい、平気か?」



男性が転ぶと周囲の者が心配したように近付き、男性は何もない場所で転んでしまった事に戸惑う。その様子をシゲルとヒナは驚いた表情で見つめると、占い師の女性は笑いかける。



「どう?私は占いの力で少し先の未来を見る事が出来るのよ」

「ま、マジかよ……でも、偶然の可能性もあるし」

「それなら5秒後に貴方の頭の上に鳥の糞が落ちてくるわよ、気を付けなさい」

「何!?」



シゲルは女性の言葉に慌てて顔を見上げると、上空の方に鳥の群れが飛んでいる事に気付き、慌てて彼はその場を下がると鳥の糞が先ほどまでシゲルが立っていた場所に降り注ぐ。


事前に注意されていなければシゲルは自分の頭に鳥の糞が当たっていた事を知り、動揺しながらも女性に視線を向けた。そんなシゲルに女性は笑みを浮かべ、自分を信じるかを尋ねる。



「どう?私の未来を見通す力があるのを信じてくれた?」

「あ、ああ……マジで未来が見れるのか」

「す、すご〜いっ……」

「でも、あんまり遠い未来を見る事は出来ないのよ。少し先の未来なら簡単に見通せるけど、さっきの貴方のように行動に移せば未来は簡単に変わってしまうもの」



女性はシゲルに忠告しなければ彼は今頃は頭に鳥の糞が当たっており、これは彼女の行為によって未来が変わった事を意味する。だからこそ先の未来を見通したとしても、彼女の行動によって未来は大きく変わる可能性もあると説明してくれた。



「私は自分や人の未来を見る事が出来る。だけど、未来を見たとしても必ずその通りの結果になるとは限らない。要するに未来を見た人間の行動次第で簡単に未来なんて変わるのよ」

「そ、そうなのか……」

「ねえねえ、他の占いの力はないの!?例えば、探したい人を見つける占いとか……」

「誰かを探しているの?それならごめんなさい、私の力は未来を見通す事しか出来ないから……」



占いの力を目の当たりにしてヒナは興奮気味に女性に他に占う力はないのかを尋ねるが、生憎と女性は未来を見通す能力しかないという。それでも十分に凄い能力だが、残念ながらシゲルとヒナが探しているシュンを見つけ出すのは難しいらしく、女性は眉をしかめる。



「未来を見通すか……確かに凄い能力だが、シュンを探すのは無理そうだな」

「え〜……それなら、私達がシュン君と会えるかどうかを占ってもらったらどう?」

「う〜ん……未来で貴方達がその男の子と会えるかどうかを見る事は出来るけど」



ヒナの言葉に女性は困った表情を浮かべ、試しに占ってみるかどうかを尋ねる。シゲルはどうせ他に当てもなく、女性の能力が本物ならば自分達が未来でシュンと会えるかどうかを確かめる事にした。



「なら、頼む。えっと、シュンは俺と同じぐらいの身長で……」

「ふむふむ」



シゲルは事前にシュンの容姿を伝え、彼女が未来を見る際にシゲルとモモがシュンと思われる人物と出会えるのかを確認してもらう。女性はシュンの容姿を詳しく知ると、彼女は水晶玉に手を翳す。


その後はしばらくは女性は意識を集中させるように水晶玉を翳したまま動かず、その様子をシュンとヒナは緊張気味に見つめる。やがて女性は眉をしかめ、驚いた表情を浮かべる。



「まさか……貴方達、勇者様なの?」

「えっ!?」

「なっ!?何で……」

「だって、貴方達の未来を見たらお城の中に入っていく姿を見たわ……それにかなり丁重に扱われているし、それに噂の勇者様の容姿とそっくりじゃない」



シゲルとヒナの未来を見通したという女性は二人が勇者である事を指摘し、ここでシゲルはある事に気付く。自分達の未来を見るという事は城に戻った後の自分達の行動も見られる事に気付き、姿を隠して赴いたというのに一般人に正体が気づかれてしまう。

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