第690話 その頃のシゲルとヒナ

――レア、シュン、そして魔王軍が色々と行動に移している頃、帝国の勇者であるシゲルとヒナは帝都でシュンの行方を捜していた。シュンは数日程前に急に姿を消してしまい、未だに見つかっていない。



「くそ、シュンの野郎……何処に行きやがった!!これじゃあ、大迷宮に潜れないだろうが!!」

「あ、シゲル君!!あっちに美味しそうなお菓子を売ってるよ〜」

「おっ、本当だ……じゃねえよ!!真面目に探してんのか!?」



シゲルとヒナは二人で城下町に繰り出し、姿を消したシュンを捜索していた。二人はお忍びで城下町に赴いているため、正体を気付かれないようにマントを羽織っている。


突如として消えてしまったシュンが帝都を離れたなどシュンとヒナは想像さえしておらず、彼は帝都の何処かにいると信じていた。シュンが帝都を離れてはいないと考えたのは帝都を取り囲む城壁の兵士が彼が出て行くのを確認しておらず、数日前から検問も行っている。しかし、今のところはシュンが帝都を離れたという報告はない。




――しかし、帝国兵がシュンが城壁を潜り抜けている場面を見ていないのは当然であり、シュンはかつてレアが「廃都」と呼ばれる場所に移動するときに利用した「地下道」を利用しているとは思いもしなかった。




既にシュンは地下道を利用して城壁の外へ抜け出し、彼は魔剣が封印されている火山へと向かう。帝国側は必死にシュンの捜索を行うが、未だに有力な情報を掴めていない。



「たくっ、こんな事なら一人で探せばよかったぜ……」

「あ、シゲル君……あれ、見て」

「何だよ、今度は何を見つけた?かき氷屋か?それともわたあめ屋か?」

「ち、違うよ〜いいからあっちを見てよ〜!!」



シゲルは城下町に出向く際に色々な店に興味を抱くヒナに振り回され、今度は何の屋台を見つけたのかと呆れた様子で振り返ると、そこには多くの人間が行列を為している事に気付く。



「何だありゃ……何の行列だ?」

「あっ!!あれを見て!!占い師みたいな恰好をしている人がいるよ?」

「占い師〜?」



ヒナの言葉にシゲルは胡散臭そうな表情を浮かべると、確かにヒナの言う通りに行列の先には占い師風の格好をした女性が座り込んでいた。彼女の前には机が存在し、その上には大きな水晶玉が置かれていた。


シゲルは行列の原因が占い師によるものだと知り、胡散臭そうな表情を浮かべる。彼は占いの類は全く信じておらず、モモを連れて引き返そうとしたがヒナは興味を抱いたのか目を輝かせる。



「わあ、何か面白そうな事をやっている人を見つけたよ!!シゲル君、並ぼうよ〜!!」

「ば、馬鹿!!シュンを探すんだよ、占いなんて……」

「だったらそのシュン君を占いで探して貰おうよ!!ほら、行こう!!」

「おい、俺は占いなんて……うわっ!?力が強っ!?」



連日の訓練でヒナもレベルを上げており、魔術師でありながら彼女の腕力は格闘家のシゲルさえも振りほどけず、無理やりに行列の最後尾へと移動させられる。シゲルはこんな事をしている暇はないと思ったが、確かに現状ではシュンの行方の手がかりは見つかっておらず、藁にも縋る思いで占ってもらうかと考えて貰った。



(よくよく考えたら魔法も実在する世界だもんな……占いだって馬鹿に出来ねえかもしれねえ)



占いなど今まで信じた事はないシゲルだが、ここは地球ではなく異世界である事を思い出す。魔法が実在されるような世界ならば占い師の力も本物かもしれず、探し回るのも飽きてきたシゲルは息抜きも兼ねてヒナに付き合う。


しばらく時間が経過すると、行列が進んでシゲルとヒナの番になる。シゲルは占い師の女性に視線を向け、随分と露出の多い恰好をしている事に気付く。



「あら、可愛いらしいお嬢さんとお兄さんね。うふふ……」

「わあ……綺麗な人だね、シゲル君」

「あ、ああ……ちょ、何を言わせんだ!?」



占い師の女性は年齢は20代前半だと思われ、かなりの美人でシゲルでさえも見惚れてしまう。だが、この時にシゲルは女性の顔に何処か見覚えがあるような気がした。



(この女の人、城で見かけたような……)



シゲルは女性の顔を以前に城で見たような気がしたが、じろじろ見ているとヒナが少し恥ずかしそうに注意する。



「も、もう!!シゲル君、いくら綺麗な人だからってじろじろ見過ぎだよ……恥ずかしい」

「なっ!?お、俺はそんな目で見ていたんじゃ……」

「あら、気にしないでいいわよ。占いのためとはいえ、こんな格好をしているとみられてしまうのは慣れているから……」

「ち、ちがっ……」



ヒナはシゲルが女性の容姿と格好に見惚れていると勘違いして恥ずかし気な表情を浮かべ、慌ててシゲルは否定するが、すぐに女性が何処かで見かけた顔である事を忘れてしまう。

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