第688話 聖剣デュランダルと魔剣カグツチ

「レア様……どうか、聖剣に触れてください、貴方様ならきっと、この聖剣に選ばれるでしょう」

「え、でも……」

「試してみたらどうですか?レアさんだって立派な勇者なんですから、聖剣に選ばれるという展開はあるかもしれません」

「……分かった」



セリーヌとリリスの言葉にレアは恐る恐る壁に鎖で固定されたデュランダルに手を伸ばす。聖剣は正当な所有者ではない人間が触れると拒否反応を引き起こす。だが、逆に所有する権利を持つ者が触れた場合、新しい所有者が選ばれる。


聖剣の所有者が死亡した場合、聖剣は新しい所有者を選定する。そして本物のデュランダルの所有者は既に死亡し、もう長い間誰もデュランダルに選ばれていない。先代の勇者と同じく、この時代の勇者として召喚されたレアならば聖剣に選ばれる可能性は十分にあった。



「……デュランダル」



レアは無意識に聖剣の名前を呟き、意を決して柄の部分に触れた。すると、輝きを失っていたデュランダルが突如として反応し、全身を固定していた鎖が壊れると、レアの手元へと移動する。



「うわっ!?」

「こ、これは……!?」

「やはり、貴方こそが……真の勇者でしたか!!」



全員の目の前でレアはデュランダルを掲げると、聖剣は完全に力を取り戻したかのように光を放ち、やがて刃の光が収まる。本物の聖剣デュランダルを手にしたレアは戸惑いながらも軽く素振りを行うと、不思議な感覚に陥った。



「何だろう、これ……凄く手に馴染むというか、まるで昔から使い慣れているような気分だ」

「それが聖剣に選ばれたという事じゃないんですか?きっと、その聖剣はレアさんを認めたんですよ」

「なるほど……」



複製品のデュランダルよりもレアは本物のデュランダルが手に馴染む感覚に戸惑い、正直に言えば悪い気分ではない。試しに自分が元々持っていたデュランダルと一緒に両手に装備すると、軽く素振りを行う。



「うん、凄くいい感じだ……今なら、何でも切れそうな気がする」

「良かったですね、本物の聖剣に選ばれるなんて……これでレアさんも立派な勇者ですよ」

「それは元からだろう」

「ああ……やはり、貴方様こそがこの世界を救う真の勇者、どうか我々を導いて下さい」



セリーヌは涙を流し、他の人魚族もその場で両手を組んでレアを崇める。その人魚族の態度にレアは困り果てるが、遂にレアは伝説の聖剣の1つを手にした――






――同時刻、帝国の領地でも異変が起きていた。それは帝都から離れたシュンはとある火山に赴き、そこに眠っていると言われる「魔剣」の回収に赴いていた。シュンは今以上に強くなるため、何よりもレアに対抗する力を身に付けるため、危険を犯して魔剣を手に入れようと旅に出る。



「……あった、ここに封印されているのか」



帝都の書庫から持ち出した古文書を頼りにシュンは火山の頂上部に封印されている祠に辿り着き、この祠にはかつて竜種をも屠ったという聖剣にも匹敵する魔剣が封印されているはずだった。


祠には一本の剣が保管されており、鞘の類は存在せず、抜き身の状態で放置されていた。柄や刀身は赤色に染まり、剣というよりはまるで剣の形をした赤色の金属を想像させる。この聖剣の素材は「ヒヒイロカネ」と呼ばれる貴重な魔法金属であり、その価値は伝説の魔法金属のオリハルコンに匹敵するという。



「これが魔剣、か……」



シュンは緊張しながらもゆっくりと手を伸ばし、祠から魔剣を持ち上げる。最初は触れた感じは何も感じなかったが、徐々に魔剣に触れあっていると、身体が熱くなる感覚に襲われる。



「う、ぐぅっ……ああっ!?」



まるで全身の血液が沸騰したかのような感覚に襲われ、シュンの体内の魔力が両手に集中し、魔剣が光り輝く。まるでシュンの体内の魔力を根こそぎ奪いかねない勢いで彼から魔力を吸い上げようとするが、シュンは歯を食いしばる。



「止めろ!!」



シュンが怒鳴りつけると、魔剣は魔力を吸い上げるのを中断し、まるで彼に従うように大人しくなった。シュンは疲れた表情を浮かべながらも魔剣に視線を向け、まだ刀身が輝いている事を知り、試しに近くに存在する大きな岩に視線を向けた。



「……はああっ!!」



炎の魔剣を手にしたシュンは大岩に斬り付けようとすると、見事に岩石は切り裂かれ、更には切断面が溶けだす。岩石はまるで溶岩のように溶けていく様にシュンは目を見開き、魔剣を見つめる。


この火山に封印されている魔剣の名前は「カグツチ」と呼ばれ、元々は聖剣を破壊するために作り上げられた魔剣である。この魔剣を作り出したのは過去に存在した魔王の一人であり、魔王の死去にこの地に封印されていた。



「凄い……この魔剣の力なら、僕はもっと……!!」



魔剣カグツチの力を見せつけられたシュンは笑みを浮かべ、その様子は何処か狂気を含んでいた――

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